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神であり悪魔

演出は爆発だ

 夢をみていた。


いつか世界から戦争なんて無くなるって。



 

 夢をみていた。


いつか殺人事件なんて無くなって、誰も傷つかない世の中になるって




 夢をみていた。


 いつか人間は暴力なんて物、忘れてしまうって。


 


夢をみていた。


胸に掲げられる正義があれば、人が救えるって。





 でも……、この夢は永遠に叶わない。






 王様が国民を愛している限り、世界ではどこかで必ず戦争が起きる時が来る。




 正義と正義は時にぶつかり合い、人と人が殺し合う時が来る。




誰が人を守りたいと思う限り、誰かを傷つける時が来る。



 

この世界でどんな正義をかざしたって、人を救う事なんて本当はできない。




 夢をみていた…………いつか【私達の夢】は叶うって。




  でも……、夢は叶わない。


 


 私達がどれだけ頑張ったって、誰かの流れ出る真紅の血を止められない。




 独りよがりな正義じゃ、人は救えない。

 



 私達がどれだけ戦ったって、悪い奴らは減らない。






 戦いで得られるものなんてほとんど無いことに、何故私達は気付かなかったのだろう。




 何故戦いを戦いで止めようなんて考えたのだろう。




 馬鹿な私……………、独りよがりな私……………、



 孤独な私……………、自分勝手な私……………、





そして、贅沢な私……………。




 決して掴めない物を求めてた。


 叶わない夢を願ってた。


 出来ない事を続けてた。



 ……………もうもうやめよう。








  ーー嫌だ……やめたくない。


 




 とまれない、やめられない、負けられない。




 何も出来ないなんて嫌だ……、私よりいい人が傷つくなんて許せない。




 何も出来ないなんて嫌だ……、悪い奴らがいい人を傷付けて笑ってるなんて許せない。




 何も出来ないなんて嫌だ……、例え正義と呼べなくても誰かのために戦う事なら出来る。





 




 優しい人が死ぬくらいなら……、悪い奴らが死ぬべきだ。






 私は、私を捨てやる。




 誰かの見返りなんて要らない。


 お金なんて要らない。


 名誉なんて欲しくも無い。






 優しい世界が絶対に来ないなら、


 せめて悪い世界を壊す。








 名前が欲しいな……明日(アキラ)なんて弱い私じゃない、



 もっと強い私の……新しい名前、





 そうだよね、もう一度借りるよ? ○○が暮れたあの名前。










 killerWhale(キラーホエール)にしよう。





※※※※


 




 月は夜を誘う。彼女は月に愛されてた。


 月は彼女の為に夜色のカーテンを連れてくる。


 


 そして、深い夜の色は星の光すらも飲み込んだ。




 暗闇の中、彼女の真紅の目が光っている。


キラーホエールは、身長わずか150cmほどで体の線の細い少女だ。


だが……、彼女を見ている者達には、




【神と悪魔の両方の姿が体現された存在】のように錯覚していた。



 彼女はもはやただのファントムでは無い。今や彼女の存在そのものが回避することなど不可能な死。絶対的な運命が、人の形をして歩いている物……なのかもしれない。






「信号機色三兄弟、とか聞いたがよ。青色が死んでるなよな。


お前らがやったか? おい……」



 キラーホエールがアスカ達を睨む。


 アスカの額の汗が止まらない。合ってしまった目を逸らす事が出来ない。



「まあいいわぁ。クソ仕事が減った。ありがとよぉ。



セ・イ・ギ・ノ・ミ・カ・タさん 」



 キラーホエールは表情を一切変えずにアスカ達に軽く礼を言う。そして残り2体のテイマーのファントムを方を向いた。



 人の形をした死か……破壊の権化か……、


きっと彼らにとってはその両方だろう。







 彼女の足元に波紋、何か魚の様な深いシルエットが夜の闇の中にすら影を作り、彼女の足元周りを泳いでいる。



「さぁお前らの命で……、罪を償え」






 ギィァアアァァァァァァィァァァァァン



 雄叫びと共に、影の中から彼女の下僕が生まれる。機会仕掛けのシャチだ。


キラーホエールとは……、ある海洋生物の異名である。




 その生物は……ホオジロザメを突進の一撃で内蔵破裂の致命傷を与え、集団であれば、クジラをも食い殺す。




 ライオンが陸の王者ならば、この生物は海の王者。



 海の食物連鎖の頂点、天敵などいない。



 その生物が、シャチだ。



 ファントムとしての彼女のモチーフはシャチ、【冥界からの魔物】とも呼ばれる。




 そしてこの彼女のファントム名、


【強襲機リヴァイアサンメルビレイ】は



 古代のクジラの名前だ。


 そのクジラはクジラでありながら自分よりも小さいクジラを襲う共食いの化け物だ。


彼女の正義、それは悪に対して自らがそれ以上の悪となりそれを捻り潰す。正義と悪が混ざりあった生物。人間として、怪物ファントムとして同族を狩る存在。



 機械仕掛けのシャチは彼女の左腕のジョイントと接続し左腕と一体化する。ただそれだね。その瞬間凄まじい熱風が辺りに広がり、2体のファントムとアスカ達を吹き飛ばした。



(なんだよ!! これ! )



 同じギアのファントムでありなら彼女との存在の違いにミコトもアスカもサキも同様を隠せないでいた。


 アスカとサキとミコトはコンクリートの壁に体がめり込み動けない。彼らはただの外野という事か。



 


 そして始まる。それは戦いではない、一方的な虐殺だ。



 体制を立て直そうとする2体のファントムに対し勿論、慈悲の心などないキラーホエールは倒れたままの黄色のファントムに牙向いた。


倒れた彼に追い討ちをかけるように、左腕を振り下ろした。ミシミシと地面と骨が砕け散る音が聞こえてくる。




 助けに入る赤のテイマーファントム。だが3メートル程の巨体は彼女に何も出来ず一蹴りで壁の方に突き飛ばされた。



 未だ倒れたままの黄色のファントムに蹴りの追い打ちを入れる。虫のように転がっいく彼には、戦う力などないように見える。




 突如、彼女の赤目が夜の闇の中で強く光る。


  そしてシャチの腕の口から、赤・青・黒が混ざりあった炎が吹き出す。キラーホエールの周りの空間が陽炎に犯される。



 まずは一人目。


 禍々しい混色の炎がシャチの口から黄色のファントムに向け放射。

彼のシルエットは獄炎の中で消し飛んだ。




 跡形もない、断末魔すらも焼き尽くされてしまったのだ。


 そしてゆっくりともう一人の方を向く。目が合ってしまった者は彼女の声なき声を聞く。


【次は、お前だ】



「あ、アァァアァァァアァ! 」



 残った赤のファントムは彼女のあまりの強さと慈悲の無さに戦意を失い背中を向けて情けない叫び声をあげながら走り出した。


逃げる事など不可能だ。




 キラーホエールの足元に再び変化が起きた。影から今度は機械仕掛けの黒猫の様な物が出てきた。



 機械仕掛けのシャチは彼女から分離し、赤のファントムを凄まじい速さで追いかける。



 足に噛みつき主人の元に引きずり寄せる。


 やはり逃げる事など許されない。



「嫌だあぁ!!!! ユルシデクレェェェ!!」




 黒猫の背中が開く、背骨の様な物がサエのように出てきた。そこに真っ赤な日本刀をしまい込んでいる。


 明らかに質量保存の法則を無視している。




 その刀を抜き取り、刃で狙いを定める。



 シャチは怪力で赤のファントムを主人の方に投げ飛ばす。恐怖で歪み、救いを求める顔がアスカ側にも見えた。


 救いも助けも来ない。来るのは死の運命と刃だけ。



 彼女の振るうひと振りは洗練されきっていた。




 頭から股を肉と骨を切り裂きながら抜けるも、完璧な角度で入った刀からは肉を切る音など一切せず、ただ風を切る音だけが響いた。


 醜くも美しい鮮血が夜の空を彩る。





 何とか瓦礫から這い出たアスカとサキ。


 

 アスカは恐怖に、サキは圧倒的強者を前に喜びで体が震えていた。



 その二人を差し置き、彼女の背後を狙う者が一人。



 ブレイガンの刃を後頭部目掛けて振り下ろし、彼女の頭蓋を粉砕せんとする男。



 ミコト。


 ただ一人真っ先に彼女に襲いかかった。



「アァァキィィィラァァァァァ! 」


 彼女はシャチを左腕に呼び戻し、

背後からの攻撃を造作もなく防ぐ。



「よぉ、ミコトぉ。


 セ・イ・ギ・ノ・ミ・カ・タ、辞めてなかったのかよ。相変わらず変な髪型してんなぁ……お前ぇ 」



「相変わらず女っけ無いよねぇ、クソアマ! 」



 夜の闇の中に光る、黄色の目と赤い目。


 お互いを否定することでしか存在を認めない。もう……彼らは、






 戦うことでしか分かり合えない。



 この時点で、アスカとサキは二人の世界から外されている。二人の中に入る隙間はない。






  <i26948|:22957> 挿絵(By みてみん)

やっぱり主人公カッコいいな(震え)

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