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わたしと運勢の管理人(改)  作者: 椎名忍・四谷伊織
_鏡
10/15

鏡4

 その後、三木谷洋子がこれまでてもらってきた人達に購入させられた数珠や壷や変な御札と言った品の浄化作業を行った。


 ミキ曰く「中途半端で上っ面な術が憑いたガラクタ」だそうだ。


それが運勢が無くなったり入ってきたりと、直接的な大きな影響は無いらしいが、めぐっている運勢ものの純度が下がったり人間うつわに入る際に邪魔をしたりと、地味な害があるとの事。


 衣羽は雇い主に「一箇所に集めて」との指示を受け、三木谷家の広いお宅を駆け回った。


 「みっ…ミキ君…これで、全部だって! …はあ…」


 そう。一人で。


 最初に案内された応接室になかなかの量が集まった。

置いてある場所や物などは家政婦や洋子さんに聞きながらの作業で、運び込むのは全て少女の仕事だった。


 これもミキ曰く、「衣羽からっぽなら触っても害はないから」なんだそう。


 「ああ、お疲れ様。うん、揃ったね」


 そんな彼は、ガラクタ達を前にして優雅に紅茶をたしなんでいた。


 「大丈夫? 衣羽さん。全て任せてしまって申し訳ないわ…」

 「…いえ…っ! じょ、助手なので…! 」


 幸い、周囲が優しい言葉を掛けてくれるのが救いだ。


 「よし。やりますか」


 お茶を飲み干した少年がようやく立ち上がった。

しかし、緊張感など皆無で大きなあくびを漏らしている。


 「ミキ君…私は…」

 「うん。もういいよ」

 「……はあ~…」


 あっけなく出番終了を告げられてしまったが、優しい三木谷家は椅子に座るよう促し、淹れたての紅茶を出してくれた。


 ("十一時までが僕の力が一番強い時だから"って言ってたけど…)


 紅茶を口にした衣羽が少年の言葉を思い出す。

ふと時計を見れば針はもう少しで正午を差す頃にまで進んでいた。


 ガラクタの前に立った彼は全員が見守る中、手に力を纏わせ始める。

やはり、その色は先程に比べれば薄くなっている気がする。


 「……でよ…」


 漏らしたその声に、次は何が起きるかと、見つめる者達が固唾を飲み込む。


 「……巳土みつち…っ」


 「…え? 」

 「まあ」

 「へび…? 」


 「…あ゛? 」


 現れたのは白蛇。少年の相棒、ツチだった。


 緊張感とは裏腹に、手のひらサイズの小さな蛇の登場に一同は拍子抜けしてしまった。

何より、ツチ自身もなぜこの場に呼ばれたのかわからないと言いたげだった。


 「ミキ(おまえ)ガラクタ(こいつら)を片付けるんじゃねえのかよ? 」

 「うーん。そのつもりだったんだけどね。

 ……疲れちゃった。」

 「はあ!? じゃあ俺にこの不味そうなものを喰えって言うのか! 」

 「…よろしくね」

 「……まじかよ…」


 1人と1匹の姿に、全員は目を丸くして見つめていたが、そんな言い合いにいつの間にか微笑ましそうな眼差しに変わっていた。 



 蛇が浄化作業を行う中、衣羽とミキは三木谷と向かい合う。

湯気の立つミルクティーを口にすれば心穏やかになる。


 「わあ、美味しい。ミキ君、オフィスにも紅茶、置こうよ!」

 「あら衣羽さん、そしたら茶葉を少し分けてあげますよ。政子さん持ってきて差し上げて」


 彼女の表情は出会った時と比べると、断然明るく見えた。


そしてミキがカップをテーブルに置くと、話を切り出した。


 「それで報酬なんだけど、」

 「ええ! そうね。本当に助かったわ! 小林…」

 「あの鏡を貰えないかな? 」


 彼女の言葉を遮った少年は交渉を始める。


 「えっ……で、でもあれは…もう割れてしまって…」

 「うん。いいんだ。あの鏡は本当に凄いよ。棄ててしまうのが勿体無いくらいだ」

 「割れた鏡はあまり良くないと聞きますけど…」

 「そうだね。良くない。だから処分するならさ、僕に頂戴? 」


 三木谷は少し困惑したように考えるが、少年の押しに負けて決断した。


 「わ、わかりました。ミキさんがそれで良いのなら……」

 「やった! ありがとう! 」


 ミキは素直に喜んでいた。

助手いはねに彼の真意はわからないが、代わりに疑問が浮上する。


 「ミキ君、どうやって持っていくの?」

 「ツチが持ってってくれるよ」

 「……えっ? 」

 「あ゛ぁ゛!? 」


 衣羽の声と、作業中のツチの声は同時だった。

鋭い視線、といっても元々なのだが、蛇の睨みにミキは怯む様子も無く飄々《ひょうひょう》としていた。


 「蛇はね、丸呑みが得意なんだよ」


 まるで悪ガキの様な笑顔を振り向く彼。

結局、浄化を終わらせたツチを強引に鏡のある部屋まで程まで派遣させてしまったのだった。


 「だ、大丈夫なんでしょうか? あんな小さな身体で…」


 鏡の持ち主は不安そうに部屋のある方向を見る。


 「全然大丈夫だよ。僕の持ち物は全部ツチの胃の中に入れてあるくらいだしね」


 手をひらひらさせる少年に、衣羽ですら知らなかった事実を知った。


 (…だからいつも手ぶらなんだ…)


 しかし、とは言えスケッチブックやペンなどはさほど大きいものでもない。

あの鏡は全身を写す程の大きさに加え、装飾も施されている為重さもあるのだ。


 「ミキ君…さすがにツチ君にも無理があるんじゃ…」

 「え~? 何言ってんの。オフィスのソファ運んだのもツチだよ。無理な訳ないでしょ」


 この場に居る全員が不安そうにしている事に少年は不服な様子で顔をむくれさせる。


 だが、それは突然の出来事。ミキの手から物が溢れ出した。

 いつものスケッチブックやペン、携帯やお金、変なキーホルダーまで。少年の私物と思われる物がボロボロと零れたのだ。


 「……! 」

 「み、ミキ君…? 」


 「ガラクタと鏡で満員だ。自分の物は自分で持て」


 間もなくして戻ってきた蛇は不機嫌そうにそう言うと姿を消してしまう。


 「え~。僕、荷物って持ちたくないんだよね。」


 床に落ちたそれらを拾おうとしない少年の代わりに、甲斐甲斐かいがいしく集める衣羽。

チラリと顔を上げれば、少年と目が合った。


そしてニヤリと笑ったその顔に嫌な予感が走る。


 「そうだ。衣羽。持ってってよ、助手でしょ? 」

 「……そう言うと思ってました」


 ため息を吐いて立ち上がれば、向かいに座る三木谷が笑い出した。


 「ふふふ、何だか安心したわ。ミキさんも年相応な所もあるのね」


 楽しそうに笑うが彼女に衣羽は複雑な心境だった。


 (……違うよ三木谷さん…実年齢、教えてあげたいよ…)


 そんな心の声に、なんとなくツチが笑った気がした。


 「政子さん、紅茶を少し大きい袋に入れてあげて。ミキさんの物も入るように」


 それでも優しいその声に、このモヤモヤも浄化される思いをする衣羽であった。




 「洋子さん…鏡、本当によかったんですか? 」


 帰り際、談笑の後に親しくなった彼女に衣羽は質問をした。

一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに笑顔で答えを貰う。

 

 「いいのよ。むしろ、割れてしまっても必要とされて、鏡も嬉しいと思うわ」

 「でも……」


 旦那さんからの贈り物では…と言いかけたが、三木谷の満足そうな表情にこれ以上問うのは野暮な気がした。


 「ふふ。あの時、鏡の向こうで最後に言われたの。"よかった"…って」

 「えっ…? 」

 「私には、そう聞こえたのよ。

 …そうねえ…主人が退院したら、新しい物をおねだりしてみるわ」


 鏡に写っていた笑顔そのままに笑う彼女。


 それを背に、ゆっくり歩いて帰路についたのだった。

 ポカポカした心は、きっと真上に昇った陽の影響だけではないだろう。



 ――…だが。


 この出来事は、異変の始まりだった。


  否、もう異変は起こっていたのだ……。

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