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彼女と彼の攻防戦  作者: 氷月
SIDE:N
5/20

5.アンタ、誰よ?

 「何で、うちの学校ってこんなにやること多いんですかね?」

生徒会に入って早二ヶ月。今日も、生徒会室でわたしはパソコンに向かっていた。


「そりゃ、学校方針が生徒の自主性の確立、だもんな」

「その大義名分の基に、教師がわたしたちに仕事丸投げっての、多すぎません?」

仕事しろよなー、とぼやくわたしに向かって、冷たい声が飛ぶ。


「中原。ごちゃごちゃ言ってないで、手ぇ動かせ」

声の主は、生徒会長様。不機嫌丸出しの声なのは、彼も多分、雑務に追われてるせいだろう。結構な迫力を持っているが、そんな態度にももう馴れた。


「やってます。昨日の議事録と先生へのレポート、今打ち出したんで確認して下さい」

言ったそばから、プリンターが動き出したのを見て、結城先輩が驚いた顔を見せた。

「え、マジ?仕事速っ」

どうやら、不機嫌さも吹き飛ばす速度だったらしい。


 よし、勝った。


 そんなわたしの心の声は、がっつり顔に出ていたようで、隣の斉藤先輩が吹き出した。

「ちょ、見ろよ、結城。中原さんのこのドヤ顔!」

「いやあ、だって結城先輩を出し抜けたら、勝った!って気になるじゃないですか」

「勝負事なんだ?」

「真剣勝負です!」

真面目に言ったのに、斉藤先輩は本格的に笑い出した。何でだ。


 「よし、じゃあ優秀な後輩にジュースでも奢ってやろう」

笑われて憮然としているわたしに、こちらも笑い混じりに結城先輩が言う。それだけで、少しばかり自分の気分が上向くのがわかる。わたしも単純だなあ。


「ホントですか?やった!」

「結城、食堂行くんだったらおれのも買ってきて。ポカリがいい」

「お前は自分で払えよ?青木はどうする?」


青木、とは、十日ほど前に生徒会に入ったわたしの同学年の男子だ。まだまだこのノリについて行けないのか、若干固まっている。


「青木君、ほらほら、結城先輩が奢ってくれるってよ?」

「え、いや、でも」

「奢ってもらえる時に奢ってもらったら良いんだよ。ほらほら、リクエストは何?」

「じゃあ、おれもポカリで」

「おーし、じゃあ、ポカリ二つな。中原、来い」


「あ!それなら、おれ、行ってきます!」

「え?先輩が一人で行って一人で買って来てくれるんですよね?」


ほぼ同時に出てきた正反対の台詞に、結城先輩はゆっくりため息をついた。

「一回でいいから、おれは可愛い後輩な中原人魚を拝んでみたいわ。……あ、青木、お前はいいぞ。おれもちょうど切りのいいところだったから」

青木君にそう声をかけると、先輩はじろりとわたしを睨む。はいはい、分かりましたよっと。


 そのまま連れ立って食堂へ向かう。

 結城先輩は、たまにこうやって先輩らしく労わってくれる。わたしの軽口に目くじらを立てることもないし、後輩として可愛がられてるのはすごく居心地がいい。


 遠くの方から、吹奏楽部の楽器の音が聞こえてくる。明日からテスト一週間前に入って部活動は禁止になるから、今日が最後の練習だろう。


「そういや、中間の試験勉強、もう始めてるか?」

わたしの頭の中を覗いたように、先輩がそんな話題を振ってきた。

「いえ、まだです。基本的に試験勉強は直前にがっとやる主義なので」

「中原は短期集中型か」

「暗記モノとか、特にそうですね。数学とかは時間見てコツコツ問題集やりこみますけど、高一の中間だし、範囲も狭いんで、直前だけでなんとかなるかなって」

「頭の良い奴の発言だな……」

「先輩に言われると嫌味にしか聞こえません」


常に学年トップクラスの男が何を言うか。何でも、総合順位で常に学年ベスト15以内に入っているんだとか。生徒会で忙しくしてるはずなのに、よく勉強してる暇なんてあるなあ。


「ああ、でもお前らはまだ受験の名残があるか」

「そうですね。うちは結構偏差値高いですし、それなりに受験勉強してますしね」

そんな呑気な会話を交わしながら、食堂に着いた時だった。


 「げ」


「あ、結城くぅん!」


心底嫌そうな先輩の声にかぶせるように、甘ったるい声が聞こえてきた。

 声のした方を見れば、茶髪にパーマ、というテンプレなギャルのおねーサマたち。


「何してるのぉ?」


 馬鹿そうな喋り方だな。

 即座にそんなことを思ったが、勿論おくびにも出さない。甘ったれた声で先輩にすり寄って来た三人とは真逆の方向へ、わたしはしっかり避難した。

 何しろ、結城先輩にギャル系女子集団だ。近寄って何かいいことがあるなんて、億に一つもないだろう。くわばらくわばら。


「珍しいよねー、結城くんが放課後にこんなトコにいるなんて」

「せーとかい、大変だよねぇ?」

「でも結城くんってユーシューだからぁ、さらっと何でもこなしちゃいそうだよねえ」

「わかるー!デキる生徒会長サマって感じぃ」


……………………うちの学校にもいたんだ、こんな頭軽そうな女子。


 ある意味、カルチャーショックに近い。おかしいな、それなりに名の通った進学校なのに、どこでどう間違ったらこんなのが生息するんだろう。

 つか、聞いてるだけでイラっとするから漢字使って喋ってくんないかな。


 彼女らのかしましい声は続く。

「あ、ねえねえ。ウチら明日遊びに行く約束してたんだけどぉ、よかったら結城くんも一緒に行かない?」

きゃー、それ言っちゃう?リナってばだいたーん。後ろから、漫画で言えば書き文字みたいな声が聞こえてくる。や、大胆なのは来週からテストだってんのに、遊びに行っちゃうことだろうよ。


「悪いけど、明日はちょっと。来週から中間もあるし」

うん、先輩の回答は大変正しい。でも多分、こういうタイプには効かないだろうなあ。


「えー、結城くんならヨユーでしょお?」

ほらな。返ってくる反応が予想通り過ぎる。これ、多分長引くんだろうなあ……。


 とりあえず、一段落しそうな隙を見て声をかけてみる。

「あの、先輩?」

呼んだ瞬間、三人がギラリとこっちを向いた。うっわ、めんどくせ!


「アンタ、誰よ?」

「生徒会で結城先輩にお世話になってる一年です」

「生徒会?」


こんなダサ女が。でかでかとそう言いたいんだと顔に書かれていて、吹き出しそうなところを堪える。我慢だ、我慢。ここで笑ったら、フォローが面倒くさい。


「あの、結城先輩、買い出しはわたしがやっておきますので、良ければここでお話ししててください」

一言声をかけないと心配されるかな、と思ったんで。じゃ!と言ってフェードアウト――の、はずだったんだが。


 「いやいや、そんな。可愛い後輩一人に買い出しさせるとか、そんな外道なことできるわけないじゃん?」


がしり、と腕を掴まれた。げ、そう来る?


「やだなあ、そんなこと思うわけないじゃないですか」


むしろ、ここでわたしの存在をアピールする方がよっぽど外道だ。とっととわたしを逃がしてくれ、と目で訴えてみるが、先輩はわたしの腕をつかんだまま。ていうか、気付いているよね?その顔、気付いてわざとやってるよね!?


 さあ早く離せ、というわたしの無言のアピールもなんのその。先輩は、にっこり笑って言う。

「ホント、中原は良い子だなー」

それだけにしてくれるなら、まだ良かった。だというのに。


 さらに、ぽんぽん、とわたしの頭を叩いてみせた。


「――!!」


ちょ、何してくれやがんの、結城先輩―――!!!


 わたしと同じように息を呑んだお姉さまたちの目が、次の瞬間一気に変わる。

 「へえ、一年なんだ?」

「生徒会の子?」


 ロックオン、されました……。


 あああ!もう!こういうタイプに目をつけられたら、後始末に手がかかるんだって!

 どうしてくれんだ、と思って先輩を見上げたら――にやり、と笑われた。

 確信犯か、この男!めちゃくちゃ性質悪いじゃないか!

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