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最終試験は危険が少ない(5)

「雪子嬢、これを」


 最終実技試験四日目の朝。

 食堂の入り口で会ったシェムさんはポチ袋を雪子の手に握らせてきた。


「学校最終日となれば、ご学友の皆様と打ち上げパーティーナイトなるものをなさるのでしょう」


 ポチ袋を見れば「日付が変わる前に帰城すること」「飲みすぎ厳禁!」「魔王様にお土産をお願いします」と書かれていた。一つ目はメイド長、二つ目は料理長、三つ目はシェムさんの文字だ。

 これはもしかして……、おこづかい?

 お礼を言うと、シェムさんは頷きながら笑った。


「朝食が終わったら魔王様を起こしてきていただけませんか」


 私いま有休中なんですけど、とは言わない。おこづかいもらったし。

 そんなわけで私は朝食後に魔王様の寝室に向かった。


「魔王様、起きてください」


 いつも通り、ノック数回と呼びかけ数回。

 起きないのは織り込み済みで部屋の中に入れば、魔王様はパジャマ姿でベッドに座っていた。

 寝ぐせがついてはいるけれど、いつもよりずっと寝起きが良い。


「あれ、もう起きていらっしゃいましたか」


 朝食のカートを運び入れていると、魔王様は「ストップ」と声を上げた。

 魔王様が手招きするので、カートをそのままに魔王様の近くへ行く。


「膝丈のワンピースでかがむな。パンツ見えそう」


「どこ見てんですか変態」


 そういえばメイド服はくるぶし丈だったから下着とか気にしたことがなかった。下にジーンズはこうかなぁ。


「下に変なピンクのズボンとか履かないでよ。かがまなきゃ済む話なんだから」


 はーい、と適当に返事をして朝食の準備をする。今日の魔王様の朝ごはんは野菜スープとベーコンエッグ、ふわふわ白パンだ。ちなみにデザートはシロップたっぷりのフルーツヨーグルト。相変わらず女子力の高い朝食だ。


「せっかく美容院行ったのになんで髪まとめてるの」


 いつの間に後ろに立っていたのか、魔王様が雪子の頭からピンを抜く。「なにするんですか」という抵抗は「黙って前見て動かないで」と制止され、ヘアゴムもほどかれた。


「飾り付きのゴムは見えるように使うのが基本でしょ」


 魔王様が雪子の髪を手櫛で整える。耳を魔王様の指がかすめる。

 どれくらいそうしていただろうか。


「さ、できた。これで悪い虫も付き放題」


 渡された手鏡で確認すれば綺麗なハーフアップになっていた。昨日美容院で「カラーしちゃいましょうか~、あ、パーマもしましょう、今のトレンドは巻き巻きですよ~」とまくしたてる美容師さんにされるがままになっていた結果、雪子の髪はクロワッサンもとい縦ロールになっていた。縦ロールでハーフアップにすると一気にお嬢様っぽくなるなぁと感心する。しかもカラーリングのせいか光の加減で黒髪がいぶし銀っぽく光るのがオシャレ女子っぽい。


「門限守らなかったら次のボーナス減らすから。あと、念のため言っておくと事前申請のない外泊は禁止だからね」


 ボーナス減額とな! 魔王様、たかが門限破りのペナルティが想像以上に重いです。でも髪の毛結び直してくれたし、私がちゃんと打ち上げに馴染めるように応援してくれてたりするのかな?


「早く行きなよ。遅刻するよ」


「えっと……ありがとうございます。行ってきます」


 お辞儀をして魔王様の寝室を出る。

 学校生活最終日、ちょっとわくわくしてきたのは内緒だ。

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