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学校生活はスパルタでいっぱい(3)

 採用可能性がダントツ1位の者がいる。

 そんな話が魔王の耳に届いたのはまもなく夕刻となろうかと言う時だった。

 それはすごいね、と言う彼に、報告者はどこか複雑そうな顔をする。


「魔王様はここまでお考えのことでいらっしゃいましたか」


 はて。

 どういう趣旨なのか説明するように促せば、報告者は書面に目を落としながら答える。


「今回は今後の成長可能性の高い者を採用するという新しい方式であったわけでして、確かに軍部としましても、即戦力且つ伸び率の高い者の採用は急務と考えておりまして、筋肉馬鹿と魔法馬鹿に偏ってきているのも問題とは考えておりましたし、それと同時に魔王様がお戯れを日々に織り交ぜる平和的世界の構築をお考えと言うことも承知しておりまして」


「簡潔に言って」


「魔王様専属のメイドが1位でございます」


「は?」


 クッキーを落としかける魔王。

 横に控えるシェムが噴き出すのをこらえて、こらえそこねてむせる。

 ごほごほと胸を押さえる初老の書記官に目をやり、魔王は気持ちを落ち着けるように息を吐いた。


「それは想定外だったね。うまいことやって外しといて。あのメイド、軍で働かせるには非力でしょ」


「お言葉ですが魔王様、公平性の確保の点からそれは承知しかねます。それに」


「それに?」


「士気を高めるという点では、有用かと」


 涼やかな目を書面から上げ、十度の礼を行う報告者。とめる言葉が見つからないまま、報告者は革靴を鳴らして去って行った。

 どうしようかね、と呟く魔王に、シェムは「人事異動の処理は簡単ですぞ」などと軽口をたたく。

 魔王はシェムを物言いたげに見上げ、しかし何も言わずに紅茶を飲み干した。


「この紅茶、やけに冷めるの早くない?」


 シェムは「そうでしょうとも」と保温カバーのかけたポットを持ち上げる。


「ほんの数分で、何やら冷気が充満しましたからな」


 ポットの温度を確かめ、「三分ほどお待ちを」と姿をくらまそうとするシェムに、「待って」と声をかける。


「調理場へ行くのなら料理長に伝えて。雪子がいつもやってる夜のおやつ会の場所、僕の部屋に変更するようにって」


「それで、魔王様は雪子嬢をぺろりと」


「しないから」


 シェムはくつくつと笑いながら姿を消す。相変わらず悪ノリのすぎる重臣だと、魔王はため息をついた。


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