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姉妹と才能

「次の本は姉妹の物語」

「才能と言うのは時として残酷でございます」

「それでは心逝くまでお楽しみください」

 子供の頃が一番幸せだった。何も知らずに、自由で幸せだった。


 双子で生まれた私達たち二人。

 少しの差で私が妹となり、もう一人が姉となった。

 最初は気にもしなかったことだが、成長するにつれてだんだんそれが納得いかなくなってきた。

 幼稚園に入る頃、私はなんでもできた。

 靴下も一人で履けたし、歯もきちんと磨けた。それにお遊戯も誰よりも早く覚えたし、組で一番運動も上手かった。

 それに比べて姉は、何もやるにも遅かった。

 行動がとてもゆっくりで、いつもみんなの最後になっていた。

 それなのに、いつも姉は笑っていた。

 それが私には腹立たしかった。

 小学校に入っても、それは変わらなかった。

 私は友達に何度も、あなたの方がお姉ちゃん見たいと言われてきた。

 私はその言葉を聞くたびに、そんなこと無いよと言いつつ、内心では当たり前だと思っていた。



 だがある時世界は急に逆転する。

 中学生になり美術の時間、それぞれ好きな絵を描きなさいと言われ、各自好きな絵を描いていた。

 私は早々に描き終わり、その絵を自慢したくなり姉のもとに絵を持っていった。

 その絵は何の変哲もない校舎の風景だったが、なかなか上手く描けたと自分では思った。

 姉はただのんびりと真白い紙を眺めていた。

 そんな姉に、私は優越感に浸りながら絵を見せようとしたとき、姉が猛烈な勢いで筆を動かした。

 さっきまで真っ白な紙が、どんどんと色鮮やかに飾られていく。

 白い紙は色鮮やかに飾られ、見る者を引きつける魅力にあふれていた。

 その様子を私は、ただ茫然と見ることしかできなかった。

 十分後そこには、人の目を釘付けにする一つの芸術が完成していた。


 私が描いた絵なんて子供の落書きに思えるほどに素晴らしい作品が……。


 誰もが感動するその作品は、コンクールに出展され見事に金賞を取った。

 その後描く姉の絵は、絵はどれも素晴らしい作品だった。


『サヴァン症候群』姉が持って生れた才能。

 簡単に言えば脳の一部に遅れているところがある代わりに、脳の他の一部が異常に発達する症状。

 病気の気質である症が付いているが、持っていない人間からすればそれは病気などでは無く恐ろしい才能だ。


 特に私みたいに、今まで上から見ていた人間にとっては……。


 姉の才能がわかってから、世界は変わった。

 両親も姉の才能を褒め、友人も姉を褒めた。

 だが、姉を褒める言葉を聞くたびに、私の心は傷ついていった。


 高校生になる頃、私の立ち位置はすっかり変わっていた。

 才能ある姉に、普通の妹。

 誰もかれもが褒めるのは姉だけ、私の心の傷は治らずに深くなるばかり。

 私の精神は次第に追い詰められていった。


 ある晩、家にアトリエ用の部屋まで与えられるようになった姉のもとを訪ねた。


 その手に台所から持ってきた包丁を持って。


 部屋では、いつものように姉がのんびりとした表情で真っ白の紙を眺めている。

 そして、急に動くといつものように作品を完成させる。

 何度も見た光景、頭から離れない光景。

 私は絵を描き終え、のんびりとした顔に戻った姉の背後からただ一言声をかける。


「なんであなたなの……」


 そして持っていた包丁を振り下ろした。



 子供の頃が一番幸せだった。何も知らずに、自由で幸せだった。


「いかがでしたか?」

「お気に召しましたか?」

「よろしければ次の本もお読みください」

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