三人の青春
次はとある学生三人の日常風景。
それでは心逝くまでお楽しみください
今日も空が青い。
昼飯を食べ終わった俺は、屋上に寝転がり空を見上げる。
昼休み、俺たち三人はいつものように屋上で昼飯を食べながら、昨日あった出来事や、馬鹿な噂話しながら過ごしていた。
今日の体育の時間、ポン太がバレーでアタックを決めようと張り切っていたのに、空振りばかりで、最後には勢い余ってネットに突っ込み絡まったことをひとしきり笑った頃、ちょうど私は弁当を食べ終わった。
最後に購買で買った牛乳を飲み一息つくと、笑われていたポン太が丁度いいネタができたとばかりに、いい笑顔を浮かべる。
「そういえばチーは知っているかい。最近分かったことだけど、牛乳をいくら飲んでも身長は伸びないそうだよ」
その言葉に反論しつつ、私は牛乳を飲み続ける。
「うるさい。俺は別に身長を伸ばすために牛乳飲んでいるわけじゃないの。
ただ牛乳が好きなの」
確かに俺は子供の時から背が小さかったから、背が伸びると言われ、飲み物はいつも牛乳にしていた。
いくら飲んでも背は伸びなかったが、牛乳は嫌いでは無かったので、昔の癖で飲み物を選ぶ時はつい牛乳を選んでしまう。
「ふむ、つまりチーは牛の乳が好きだと」
それまで私とポン太の掛け合いを黙って聞いていたロンが、突然誤解を与えること間違いなしの発言をしてきた。
ロンに言葉に思わず飲んでいた盛大に牛乳を吹き出し、ポン太の奴はそんな私の姿を見て、腹を抱えて大笑いしている。
「ゴッ…、ゴッホ。
馬鹿か貴様は!なんでそんなへんな所で分ける必要がある。
普通に牛乳って言え、牛乳って!!」
器官に入り咳こんでしまったあと、呼吸が戻ると同時にロンに罵倒を浴びせる。
だがロンは気にした様子を見せず、何か間違っていたのかという風に首をかしげる。
「だが、牛の乳でも間違っていないだろう?」
「間違っているよ!!
それだと飲み物の方じゃなくて、牛の乳が好きみたいな変態だと思われるよ!!!」
私のツッコミで、ようやくロンはなるほどと納得する。
その姿に私はドット疲れてしまう。
ロンは天然でこういう発言をするから困る。
ちなみにみんなこいつのことをロンと呼んでいるが、別に中国人ってわけではない。ただ長い髪をしているから、ロン毛からとってロンって呼んでいるだけだ。
あだ名なんてそんなものだろう。
ポン太の場合は、名字が本田でその笑い顔が狸に見えるからポン太。
俺の場合は、千尋だからチー。
三人そろうと麻雀みたいになってしまったのは、でき過ぎだけど。
ロンは飲んでいたコーヒー缶を置き、ぼんやりと空を見上げる。
何を考えていたのか分からないが、しばらく空を見上げていたが、突然また馬鹿な事を口にする。
「あー、でもチー。背は伸びないかもしれないが、そのまま牛乳飲んでいたらもしかしたらお前の胸は育つかもしれないな」
ロンの発言で私の顔は真っ赤になり、ポン太はさらに腹を抱えてその場で転げ回るほど爆笑する。
「この馬鹿!!別に俺は胸のために牛乳を飲んでいるわけでもないんだよ!!」
食べ終わって空になった弁当箱をロンの顔面に投げつけ、爆笑し腹を押さえながら転げ回るポン太をおもいっきり蹴りつける。
私の家は私以外男兄弟しかおらず、生活するうちに自然と言葉使いが男臭くなっており、その上、実家が空手の道場を開いていることもあり、女性らしい可愛らしさよりも、カッコイイと言われるようになっていた。
そのせいで少し家から離れた高校に入学したとき、顔見知りのいない教室で、少し女子たちと壁を感じてしまった。
もちろん彼女達も私みたいな存在に戸惑っていただけなのだろう。
今では普通に話もできる友達だ。
だが壁を感じていた頃に、最初に話しかけてくれたのがポン太とロンだ。
今でも初めて二人の掛けてくれた言葉はすぐに思い出せる。
『君は本当にカッコイイな』
『ロン、それは女性に掛ける褒め言葉では無いと思うぞ?』
『そうか?自分をしっかりと持っているカッコイイ奴に女性も男性も無いと思うのだが?』
『それもそうだな。確かにカッコイイ奴に男も女も関係ないな。
特に君は女性なのに男みたいに見えるし』
私の胸に視線をやった後、すがすがしいほどいい笑顔を浮かべサムズアップしたポン太の顔面に、私は容赦なく拳を喰らわせていた。
慌てて止めに入るロン、騒然とする教室、あの日からだろう退屈しない学園生活を送れるようになったのは。
二人には感謝している。
…………一応ポン太にも感謝の気持ちを持っているのだ。胸のことを言ったのは、許しはしないが。
今日も空が青い。
ガール・ミー・ツー・ボーイ。
青春はいつも青い空の下から始まっている。
よろしければ次の話もご覧ください。