ゾンビのいる風景
この世界によく似た世界の少し未来、スローライフの風景です
どうぞ心逝くまでお読みください
日本は昔、輸入に頼って生活をしていたらしい。
らしいというのは、現在の日本ではそんなことはなく、しっかりと自給自足の生活を送れているからだ。
ついこの間まで農家の後継者不足で悩んでいたり、少子高齢化など叫ばれていた国ととても思えないほど、今の日本の農業などの第一産業は豊かになっている。
それもこれも、日本は他の国に負けないエネルギーを手に入れることができたからだ。
死んでいるのに生活できる『ゾンビ』というエネルギーを……。
日本、某県某市のとある畑。
「あれ、ナミナミさん今日はもうあがりですか?」
昼休憩がもうすぐ終わりそうな時間、いつもお世話になっている生き返り番号7373、通称ナミナミさんが農具を肩に担いで宿舎に帰ろうとする姿を見て、私はそう声をかけた。
今朝ナミナミさんは、自分が担当している畑の野菜の収穫がもう少しだと言っていたから、いつものように夕暮れまで畑にいると思っていたのだが、もう帰るのだろうか?
俺のその考えが顔に出たのだろう。
「あ~、俺も今日はずっと畑にいるつもりだったんだがな、そろそろ期限切れが近いから管理室が、少し早いが防腐処理しませんかと連絡来たんだ。
もうすぐ収穫できそうだからな、早目に防腐処理することにしたんだ」
「あぁ、そうなんですか」
そう言って手を振り、ナミナミさんは宿舎に行ってしまった。
ナミナミさんの姿が見えなくなった頃、近くで休んでいた班長が腰を上げ休んでいた仲間に声をかける。
「お~い、そろそろ休憩は終わりだ。仕事に戻ろう」
その言葉に、仲間たちは腰を上げ自分の担当する畑に行く、俺も脇に置いてある自分の愛用の農具を手に取る。
最初の頃は手に慣れなくて、何回も皮がむけたものだが今ではしっかりと手に馴染んでいる。
手に馴染むようになれば一人前と言われているから、俺も一人前の仲間入りしたということだろう。
初めてゾンビと呼ばれる人間が日本で発見されたとき、日本中に混乱が起こった。
医学的には間違いなく死んでいるのに、彼等は生前の記憶があり、考える能力もあり生きている頃と変わらない行動できる。
これは果たして死んでいるといえるのか。
一番初めにゾンビについて声を上げたのは宗教関係だった。
ある宗教は異端としてゾンビとを殺そうとした。
またある宗教は、ゾンビは蘇った者として崇拝使用した。
どちらにも言い分があり、その言い分に熱が入り争いに発展しようとしたが、次々と生まれてくるゾンビにそれどころではなくなってきた。
異端としてゾンビを殺そうとしても、殺すまでに時間がかかり過ぎるし、殺そうとして反撃にあったとき、誤って死んだものがゾンビになったのを見て、自分もゾンビなのでは?という疑問がわきあがり、次第に大人しくなっていった。
崇拝に関しても、対象が少ないからこそ崇拝に値するが、どんどん数が増えるゾンビを見て、崇め奉る価値というのが無くなってきた。
宗教関係が落ち着いてきたら、今度は政治関係が浮かんできた。
ゾンビを生者と同等に扱っていいのか?
保険会社からは、保険についての問題が次々に浮かび、死んでも生きていられるということで、何もしない者も出てくる始末だった。
いつもならはっきりしない政府だが、この時ばかりは早急に対応した。
自分達もゾンビかもという思いもあったからこそ、ゾンビになった者への対応について真剣に考えてすぐに対応したのだ。
余談だが、海外からもゾンビになった者がいる国ということで、いろいろ圧力がかかっていたのも早期対応に関係しているだろう。
その後、政府がゾンビに対しての政策を発表すると次第に混乱も落ち着いてきた。
そしてゾンビについての調査の結果、このゾンビが生まれる原因が、ある製薬会社が作った風邪薬の副作用だとわかった。
風邪は治るが、死んだあとにゾンビになってしまう副作用が生まれてしまった。
その風邪薬が発売された当初、その効果は高いと有名になり、すでに国民の60%が服用していた。
そして政府は長い会議の末できた政策、近年危ぶまれている世界的規模の食料不足解決のために、ゾンビとなった者を労働力として使うことに決めた。
最初のうちは、ゾンビから反対の声も多数あがった。
「なんで死んでまで働かなくてはいけないんだ」
「農業なんてやりたくない」
そんな声もあったが、ためしにと農業をさせてみると、次第に反対の声は落ち着いていった。
土にかえる存在だからか、土と関わると妙に落ち着くのだ。
落ち着くから農作業も苦にならず、次第に自分が育てるのも楽しくなってくる。
それに死んでいるから、無尽蔵の体力もある。
後継者不足、労働のきつさから働く人の少なくなった農業にとって、これほど労働に適した人たちはいなかった。
しかも、ゾンビでいられるのは死んでからせいぜい2年ほど、防腐処理をすれば5年ほどゾンビでいられる。
生前の忙しい生活に比べたら、ここでの土と戯れ、自分の育てた野菜や果物の成長を見守るスローライフな営みが、何だかは心癒されてみな幸せに働いている。
あとは自分が耕した土に還ることができるという、地味だが心休まる特典もあった。
「それにしても、なんで俺達休憩とらないといけないんですか?俺たちゾンビだから休憩なんて必要ないでしょ」
自分の畑に行く途中、新しく来た新人ゾンビの後輩が、俺の隣まで来てそうぐちをこぼす。
後輩は最近自分の育てている野菜が大きくなるのを見て、うれしくてたまらないのだろう。
休憩時間が無ければ、ずっと畑にいそう様子だ。
「まあそう文句を言うな。俺たちは平気でも、ここには指導員として生きている人達も働いているんだ。
休憩は彼らのために取ってるのさ」
農業に関して素人の俺達には、最初指導員としてベテランがつく。
ベテランの中にはまだ生きている人間も多くいるのだ。
俺の言葉を聞いても、後輩は納得できないように不貞腐れた顔になってしまう。
それも仕方ない、俺にもゾンビなりたての頃はそういう時期があった。
俺は不貞腐れた後輩の背中を思いっきり叩く。
「そう不貞腐れた顔するな。
愛情込めて育てているお前の野菜たちはそう簡単に枯れたりしないさ。
それに俺たちはゾンビだから、不貞腐れても元の顔が腐っていることには変わらないんだぞ」
は~はっはっはっと、大きく笑いながら後輩を励ます。
俺のつまらない冗談に、後輩は最初苦笑を洩らしていたが、その顔は先ほどよりもやる気が出たようだ。
死んでゾンビになっても心は変わらない。
午後も日差しが熱くなるだろ。しっかり防腐剤を塗った腕を元気にまわしながら、これからも元気に働いていこう。
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