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神話由来のお掃除系名家ではございますが、令和でも悪鬼滅殺して参ります! 〜最強こじらせ執事の『お嬢様尊い』的限界オタク化が止まらない~  作者: 御堂
第二章

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六筆目

 皆さま方、お静かに。こちら病院でございます。

 静謐を細胞に刻む北白川の足手まといとなる式神(モブ)は、焚き上げの刑に処しますよ。

 お分かり頂けたようで何よりでございます。何一つ音を立てずにお願い致しますね。出来れば心臓の音もキュッと締めて頂いてもよろしいでしょうか。

 なぜ病院に、と?……北白川に病気などはございません。お嬢様の聖域に侍る者として、病原菌ごときに体内の侵入を許すはずがないでしょう。北白川でございますよ?女神の眷属としての矜持は、常に刷新してございます。

 ではなぜここに、ですって?おやおや皆さま方、お忘れでございますか?人気若手女優、2025年度上司にしたい女優ランキングにトップテン入りした三橋カホ様の入院先でございますよ。お見舞いついでにお話など伺いに参りました。

 ……面識?ありませんが何か?

 ああ、プライバシーとかそういう……?

 何故そこまで考慮せねばならないのでしょうか?お嬢様がお求めになった各人の因果関係をお調べするのが、本日の北白川に課せられた使命でございます。

 ああ、こちらの病室ですね。では失礼致します。

「え、だれ?」

 ご本人様の登場でございますよ。万雷の拍手でお迎えくださいませ。

「三橋様。療養中の御無礼を謝罪致します。ICH会長より是が非でもご無事を見て来いと急かされまして参りました、北白川と申します」

 最上階の個室で、退屈そうにベッドに腰掛けていた三橋カホ様は、不審者を見る眼差しで北白川を見ております。

 なるほど、人気女優と言われるだけに、目鼻がスッと通ったお顔立ちをされておられますね。

 良い背景でございます。

「ICHって」

「一文字クリーンホールディングスでございます。弊社のハウスクリーニング部門のCMに、三橋様を起用させていただいておりますよ。申し遅れました、代理人の北白川と申します」

「あ……」

 北白川、微笑んでおりますのに、三橋様はどうも居心地が悪そうでございますね。すっぴんだからでしょうか?背景の多少の色落ちなど北白川は気にしませんので、ご安心頂きたいところでございますね?

「ごめんなさい、その、すぐに思い至らなくて」

「今をときめく人気女優の三橋様でございます。お仕事に忙殺されておられるかとお察し致します」

「いえあの……ごめんなさい」

「お気になさらず。こちら、会長より見舞いの品でございます。後ほど花器にいけてお持ち致しますね」

 気まずそうに頭を下げる三橋様は、北白川の顔をチラリと見てからベッドに目を向けられております。

 心の声が聞こえるようでございますね。

 ──早く帰らないかなあ!って。……残念ながら、北白川はまだ帰りません。

「そうでした。映画の公開、誠におめでとうございます。話題沸騰中との事で、弊社としましても三橋様のご活躍を誇らしく思ってございますよ」

「ありがとう、ございます……」

「しかしいけません。ご無理は禁物でございます。ご心労もお在りのようですね。それがお身体に障ったのでしょうか?……どす黒い瘴気を放っておいでのようでございます」

「!」

 色褪せた背景がくすみましたね。お顔の発色も悪いようでございます。お労しい。

「ご体調が悪い中、長々と失礼致しました。本日はこれにてお暇させていただきます」

 どんな相手にも、礼は欠かしません。エレガントな一礼は北白川の武器でございます。

「ああ、もし何かお悩みがあれば、いつでもお声がけ下さいませ。芸事を極める方には、神仏との繋がりも必須でございましょう。一文字がお力になれるかと存じます」

「……力って……」

 三橋様、動揺が抑えきれないようでございますね?縋り付きたい衝動がお在りのようです。ですが、本日はここまででございます。

「失礼致します」

「あの……!」

 北白川を呼び止めるような声が聞こえましたが、無視でございます。時間は有限でございますから、のんびりしてはいられないのです。

 病室を出ましたら、次はもう御一方のお宅へ訪問致しますよ。

 え?また不法侵入?北白川がそんな無粋なことをするとでもお思いですか?

 手順を踏んでやって来たと思わせれば良いだけの話でございます。

「一文字ハウスキーパー協会から参りました、北白川でございます」

 このようなセキュリティのしっかりしたマンションであっても、エントランスでの名乗りをエレガントに行えば自動ドアも開くのです。──まぁ、今回はお借りした合鍵を使わせていただいたのですが。

 さて、皆さま方、お次はこちらの方でございます。

「初めまして、田畠翔也様。北白川と申します。本日はよろしくお願い致します」

 ワープ?皆さま方、しっかりしてくださいませ。

 この世界は北白川の指ひとつでどうにでもなるのでございます。

 さて、寝室のベッドに丸まっておられるのが、solomonメンバー、お兄ちゃん担当の翔也様でございます。皆さま方、拍手でお迎えくださいませ。

 おや、翔也様は無言でございますね?北白川、情報収集の為に参りましたのに、口を割らないのはいけません。このような薄暗く陰湿な部屋に長居は、断固拒否でございます。

「田畠様、失礼致します」

 まずは締め切ったブラインドと窓を、全部屋大解放致します。空気の流れを良くしたところで、床の隅で止まったルンバを起動……充電切れですので、皆さま方、掃除をお願い致しますね。ハタキ、ホウキ、雑巾がけの順でお願い致します。情報収集とはいえ、北白川の名を出した以上、手抜きは許されません。

 お励みくださいませ。

「田畠様、お加減はいかがでございますか」

 北白川、労る風を装いながら、布団を剥ぐなど得意分野でございます。お嬢様には決してできないことを、ここぞとばかりに致しますのは、なんと申しましょうか……非常に嗜虐心が煽られるものでございますね。楽しくなって参りました。

 翔也様は抵抗されておられます。「やめろ」「なんでこんなことに」「なんであいつばっかり」「死ぬのはアイツなのに」等の怨嗟が聞こえて参ります。

 ふむ、物騒。

「田畠様はどなたかを呪っておられるのですか?」

 北白川の言葉に、小山のような布団がピクリと反応致しました。なるほど?

「人を呪わば穴二つ、と申します。失敗すれば、矛先は己に戻るもの。その覚悟がなくて呪うなど、愚の骨頂でございますよ?」

 布団から顔を出した翔也様は、アイドルらしからぬ凄惨なお顔つきをされておいでです。……この背景はいただけません。しかし、翔也様は北白川を見上げまして、口を開かれました。

「あんた誰?」

 北白川、ロイヤルスマイルはいつでも崩しません。

「北白川と申します。本日三度目のご挨拶をさせていただきます」

「三度目……」

「回数などはお気になさらず。頭がキャパオーバーをしておりますと、他人の名など入る余地もございません。北白川、ちゃんと状況を把握済みでございます」

「……はぁ」

「それで?」

 呆けたお顔の翔也様を見下ろしながら、北白川は麗ら様に以前、極上と褒められた笑顔を披露致します。にっこりと笑う、の最上位互換と評判の表情でございます。この顔を見ると、なぜか北白川に免疫の無い方々は恐れ怯むのだそうです。


「誰に死んで欲しいのです?」


「!」

「驚くことでしょうか?先程、その布団の中でそう仰っていたでしょう?」

「それは……」

 寝室の壁には三橋カホ様のポスター、スチールラックには三橋カホ様の写真集などが並んでおりますね。

「おや、もしや三橋カホ様……」

「ちがう!それは絶対にちがう」

 おや、おやおや。

「……三橋カホ様のファンなのですか?」

「!」

「三橋カホ様も入院されましたね。……先程、お見舞いに参りましたが、お疲れのご様子でした。お労しいことです」

 北白川の言葉に、翔也様はやつれたお顔を引き攣らせておられますね。

「会ったのか?カホちゃんに」

「ええ。それがどうかしましたか?」

「……」

 翔也様は青白い顔を俯けておられます。

「俺のせいだ」

「田畠様、何がなんのせいだと仰るのですか?」

「俺のせいでカホちゃんが入院したんだ、きっとそうだ」

「……僭越ながら根拠を伺っても?」

 ブルブルと拳を震わせる翔也様は、大きく息を吸うと仰いました。

「俺がカホちゃんに交際を持ちかけたから、それで……。反省してます」

 恐らく絶対に違うとは思いますが、何にせよ反省しているのなら良いのではないでしょうか。

 女性達が好きそうなお顔立ちですのに、頭は小学生並の単純さが北白川の胸を突きます。大丈夫なのでしょうか。芸能界はそんなに優しい世界ではないはずなのですが。

 何にせよとても残念な方でございますね。

 しかし、ここで帰る訳にも参りませんので、核心を突くと致しましょう。

「田畠様は遼さんをどうお思いで?」

「は?」

 声音が変わりましたね。低くおどろおどろしいこと。

「なんでアイツの話が出てくるわけ?」

「同じメンバーでございますよね?大好きな三橋カホ様と共演された映画が公開されましたし、ご覧になったのでは?と、思いまして」

「観るか!ただでさえ気に食わないヤツなのに、カホちゃんの相手役に抜擢とかウゼェんだよ!!」

「なるほど」

 話が早くて助かりますね。単純な方は大変好感が持てます。

 皆さま方、そろそろ掃除は終わりましたか?

「田畠様、ひとまずお加減が回復されたようで安心致しました」

「……」

「これに懲りましたらば、今後は二度とメンバーを妬んで呪う等の愚行はお辞めになった方がよろしいかと存じますよ」

「なんで、なんであんたにそんなこと……」

「でなければ、もっと痛いしっぺ返しが待ってますから」

 ふふふ。北白川、ついつい笑顔を浮かべてしまいます。他人の戦慄する表情はなんと心地よいのでしょうか。震え上がる手応えが病みつきになりそうでございますね。

 ひとまず、状況は把握できましたのでお暇致しましょう。

 お嬢様のお迎えがございますので。

 本日はこれにて解散でございます。

 お疲れ様でございました。




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