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神話由来のお掃除系名家ではございますが、令和でも悪鬼滅殺して参ります! 〜最強こじらせ執事の『お嬢様尊い』的限界オタク化が止まらない~  作者: 御堂
第一章

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四筆目

 白玉クリーニング木六本本店では、普段使いのお洋服から特殊な意匠の物まで、繊維であるならなんでも受け付ける一文字クリーンホールディングスの顔とも言えるべき業務を取り仕切ってございます。

 先程も申し上げましたが、今回の案件はドームツアーを終えた人気アイドルグループのステージ衣装。

 汗や汚れなどは通常業務内の案件ではございますが、お嬢様のお力を必要とされたと言うことは、それ以上の悪意(バグ)が取り付いていることが想定されます。

 ……皆さま方、遅うございましたね。木六本のネオンに惑わされた等と言うことはございませんよね?

 はい?指立て伏せの後遺症?……皆さま方、逆立ちしながらおいでになったのですか?式神の奇行種など北白川は御免こうむります。

 それよりも北白川は一足先に布刀玉命様と共に、場の浄化を済ませてしまいました。赤絨毯のクリーニングもこちらの本店にお任せしておりますので、祓いが終わり次第、またカウンターに預けておいてくださいませ。皆さま方に仕事らしい仕事を与えておきますね。

「北白川、聞いてます?」

 おや、いけません。北白川は只今、白玉クリーニングの社長──一文字麗(いちもんじ れい)ら様……清ら様の姉君と打ち合わせをしている最中でございました。

「もちろん、ちゃんと状況は把握済みでございます」

「なら良いんだけど。……このアイドルグループの衣装、前から生霊や怨念、執着が酷くて。人気が出始めた子の衣装が特に酷いのよね」

「一文字繊維グループの皆さまでも手強いのですか」

 繊維グループは、麗ら様の管轄でございます。

 麗ら様が御自ら先頭にたち、繊維にこびりついた醤油の染みから生霊の怨念までを丹念に落として洗浄するスペシャルクリーニングの第一人者でございます。皆さま方、最敬礼なさいませ。

 スペシャルクリーニングを初めて聞いた?それはそうでございましょう。こういった目に見える見えない物の遍く全てを浄化するスペシャリストが、一文字には多く在籍しております。

 ほとんどの社員、パートタイマーは、一文字ハウスキーパーアカデミーを卒業した者たちですね。彼らは祓いに関する仕事の特殊性についても理解が深く、またそういった能力も開花させておりますので、小さな悪意(バグ)などは彼らによって浄化されているのでございます。

 ──こちら、とても大事なことでございますから、覚えてお帰りください。

 そういうわけでございますので、麗ら様が直接この現場におられるというのも、事態を重く見た結果と言うべきでございましょう。

 麗ら様は溜め息をつかれて、カウンター奥の保管ブースを見ておられます。

「綿製品の服に、有刺鉄線がギチギチに巻かれた状態と言えば想像つくかしら。とにかく骨が折れるのよ。うちの精鋭を数人つけても、元の状態に戻すのは至難の業だわ」

「それは……非常にやり甲斐を感じさせる案件でございますね」

 そうでしょう?と苦笑される麗ら様。

 この方、お嬢様の実の姉君ではございますが、北白川のお仕えするお嬢様の清らかで愛らしいお顔立ちとは違い、華やかで艶のある(かんばせ)をお持ちでございます。一文字でなければ、華やかな世界での活躍も期待されていたと謳われておりましたので、その美しさが随一なのは皆さま方でもお分かりになるでしょう。

 しかしまあ、北白川としましては「お嬢様かお嬢様以外か」で世界は成り立っております。どんなに美しい花でも北白川の心は一ミクロンも揺蕩うこともございません。人の美醜など所詮はお嬢様の背景に過ぎないので、どうでも良いことなのでございます。

 さて皆さま方、ひとまず四つ這いとなり赤絨毯のシワを伸ばしつつ待機でお願い致しますね。北白川は車でお昼寝をされておいでのお嬢様を起こしてまいりますので。

 ああ、天上の癒しの如きお嬢様の寝顔を心ゆくまで眺めていたいものです。しかし残酷なことに時間は有限。網膜と眼球細胞にしっかりと焼き付けた後、そっとお声がけさせていただきましょう……。


 赤絨毯の向こうで仁王立ちをされる麗ら様は、一文字繊維グループの社長らしく、女王陛下のような佇まいでお嬢様をお待ちになっておられます。

 未だ、半分夢の中に御座すお嬢様は、北白川の手をいつもより強めに握ってくださいながら、本日も優雅に赤絨毯をお進みです。

 お許しいただけるのなら、姫抱きでお運びも致しますのに!自ら歩を進められるお嬢様の気概、北白川は全肯定せざるを得ません!ああ、なんということでしょうっ!いつも以上に儚げでありながら麗しゅうございます!お嬢様!!!!

 え、さっきと情緒のカロリーが違いすぎる?それはそうでしょうね?先程はお嬢様はおられませんでしたから。お嬢様がいる時といない時のテンションの差……でございますか?

 海原の波も大波小波でございます。北白川、時空を捻じ曲げ、人智を超える気概は人一倍強く心にありますが、所詮は人でございます。お嬢様の御前では矮小な存在ではありますが、愛だけは大きく(重く)在りたく存じますね。

「清らちゃん、起きてちょうだい」

「……お姉様、おはようございます」

「ええ、おはよう。創立記念日のお休みの日なのに悪いわね」

 本日、平日の昼間ではございますが、最高の祓いの為に一時的に店舗シャッターを厳かに閉めて頂いております。間違いなどはございませんが万が一を想定しまして、一般のお客様に累が及ばぬようにすることも一文字の矜恃でございます。

 麗ら様の案内で、問題の衣装が保管されている保管ブースに参ります。もちろん赤絨毯を敷いてございます。こちら普段はクリーニングが終わった洋服などを、お客様にお渡しするまでの間に置いておく部屋になるのですが。

 なるほど。

 扉を開けた瞬間、鼻を突くような凄まじい臭気が襲って参りました。汗や菌の腐敗臭とは別の種類のものですね。

 例えるなら、油脂と石鹸カス、髪の毛などのタンパク質が詰まった風呂場の排水管から漂う臭いに、強烈な硫黄臭、アンモニア臭を掛け算で煮詰めた悪臭でございます。

 こちら、【怨念臭】と我々は呼んでおります。覚えてお帰りくださいませ。

 しかし、そんな強烈な激臭とも言える臭いではありますが、お嬢様は平然とされておいでです。既に神筆にて御身の周りにサラサラっと「消」「臭」「炭」と言う文字を漂わせるように書き込んでございます。概念の圧倒的勝利でございます!

「ふふふ……強烈ね」

 あぁぁぁぁ!!!!この悪臭を前に微笑まれるその余裕!!!正しく強者の笑みでございますっ!

 麗ら様などはマスクを5枚も重ねてつけておられますのにっ。お嬢様ときたら、ノーマスク!!!薄暗い保管ブースにおいて、お嬢様のみが神々しく降臨なさっておいでです!この北白川、目眩が止まりません!

「北白川、辛いなら下がってたら?」

 麗ら様、マスクのせいでお声がくぐもってございますね。しかし、北白川の耳はコウモリの声すら拾うのでございます。

「滅相もございません。清らお嬢様のお傍に北白川在り。この現場、北白川が完璧に整えさせていただきます」

「……いつもながらに、凄まじい忠誠心ね」

「いつもありがとう、北白川」

 ファーーーーー!!!唐突な感謝(バフ)!!

 お嬢様から賜った聖なる感謝の言霊が北白川の五臓六腑を駆け巡り、脳内麻薬が銀河系を突き抜けてございます!!!!

 北白川、無敵モード発動でございます!!

 さぁ!式神(モブ)の皆さま方!今こそその時!!

「清め!【天児屋根命】」

 柏手二つ!!!!

 常に纏うシワのない白手袋を脱ぎ去った北白川の手は、祓いの作法に則り、保管ブース全体に響かせるように柏手を打ちます。

 部屋全体に張り巡らされた清めのエネルギーが、問題の衣装達を拘束致します。

 ハンガーラックに吊るされた衣装は、全七色、八種類。総数三十六着。天児屋根命様の息吹が、それらに行き渡ります。まるで虹の風とも言える神聖な神の吐息に、ハンガーラックがギシギシと揺れ、衣装がブルブルと震え始めました。

 式神(モブ)の皆さま方、あそこのハンガーラックに行き、麗ら様の言われる有刺鉄線でギチギチに拘束された悪意(バグ)を解いて差し上げてくださいませ。なに、皆さま方の手に負えないのは想定内でございます。何せ仕上げはお嬢様がなさるのですから。ささ、全身が千切れる覚悟でお励みくださいませ。指立て伏せなど可愛いものと実感できますでしょう。



 神筆に祝詞奏上されるお嬢様。

 普段の儚く眠たげな雰囲気は北白川の全細胞を癒したもう程の清廉さに満ちておられるのですが、祓いの現場におけるお嬢様の雰囲気は、全く様子が異なります。

 名を体現する清らかさは、祝詞奏上を始められますと、全身から砂金の如きオーラが溢れ出て、普段大らかに微笑まれるお顔にピシリと緊張と覚悟が浮かぶのでございます。それこそ、覚醒を思わせる程の静謐さを全身から滲ませておいでになるのです。

 これは、神筆を最高の状態にするためでもありますが、それ以上に、一文字家が信奉する三柱の最高神──天照大御神をこの場にお迎えせんがため。

 一文字家は三柱の神と共に祓いを致します。

 汚れを神に片付けて頂くことを、不敬と口にする方も多くいらっしゃるようでございますが、人の手に余るモノはいずれ神々の御座すこの国を蝕んで行くのでございます。その歴史を一文字家は見て参りました。

 全てが手遅れになる前に、神々と共に大浄化にあたる事こそ大切なのでございます。

 お嬢様は、ご自身の身の丈よりも大きな神筆を肩に担がれてまっすぐにお立ちになります。そして、一点の曇りもない麗しい瞳を大きく見開かれて、ハンガーラックの一角を鋭くご覧になりました。

 ……あぁ、なんという鋭さでございましょう!!白目の白が白を通り越して蒼く透き通る神々しさ!純粋な魂だけが持つ清浄な眼差しに、北白川の爛れきった魂は昇天しそうでございます!

「お姉様、ブルーの衣装の様子がおかしいわ」

 北白川は思わず麗ら様と目配せを致しました。

 確かに北白川の目から見ても、あの青色の衣装だけは様々な汚臭激臭を自ら引き寄せるように、禍々しいオーラを放っているのでございます。他の色の衣装は、天児屋根命様の音霊の拘束で殆どが悪意(バグ)を祓い落としているにも関わらず。

 あ、式神(モブ)の皆さま方、有刺鉄線を解く作業、誠にお疲れ様でございました。速やかにお戻りくださいませ。

 麗ら様は眉を寄せながら清ら様を見つめておられます。

「そのブルーの衣装を着ていた子が、一文字(うち)の本社ビルで映画撮影をしたアイドルよ」

「そうだったのね……」

 なんという痛ましげな表情をなさるのでしょうか。慈悲深き菩薩のようでございます……。

 清ら様は少しだけ頭を振りますと、大筆となった神筆を振りあげられました。

「浄!【天照大御神】!!」

 力強い一筆目。

【浄】。大筆が最後のハネを解放した瞬間、ガタガタと不穏に揺れていた衣装達が、ふわりと揺れ上がって真っ黒な悪意(バグ)を一斉に解き放ちました。

 そこですかさず!北白川の出番でございます!

「拭い!【布刀玉命】」

 布刀玉命様は何も養生だけではありません。物理的な清めの作業も担ってくださいます。

 あ!式神の皆さま方、半数の方は布刀玉命様のお手伝いに行ってください!ホウキ、ハタキ、ゾウキンを持つ!お早く!!どんな祓いも拭き掃除からでございますよ!

「水琴【天児屋根命】」

 ご存知ありませんか。水琴窟も?……皆さま方にはもう少し教養を養って頂きたいですね……。

 水琴は滴る水が金属の盆に当たる音を示します。高く澄んだ音は、心身の浄化を促進してくれるのです。音叉でクリスタルを叩く、ティンシャで場を浄化するなど、見た事ございますでしょう?そういったことでございます。

 布刀玉命様のお清めからの、天児屋根命様の浄化作業、これらが北白川と皆さま方のやることでございますから、しっかり手順を覚えてお帰りくださいませ。

 お嬢様が二筆目を振るわれます。

【解】その一文字(ひともじ)が、青色の衣装にまっすぐ向かって飛んで行きます。皆さま方、雁字搦めの有刺鉄線の手応え、いかがでございましたか?

 あれを解きにかかっているのです。

 ギチギチに縛り上げられた青色の衣装が、苦しげに震えておりますね。効果はあるのでしょう。ただ執念、執着が恐ろしく強い……といったところでございましょうか……。

 なかなかに手強い。……と、はっ!!!!いけません!!

 皆さま方!大至急、モブ同士くっつきなさい!一枚の壁となるのです!さぁお早く!!

式神(モブ)壁!!」

 一枚岩となったモブ壁をお嬢様の御前に展開!!

 縛り上げていた有刺鉄線が、次の瞬間、凄まじい不快音を立てて青色衣装から引き剥がされ……お嬢様に向かって一直線に飛んで来たではありませんかっ!!!!

 式神(モブ)の皆さま方!耐えるのですよ!ここが正念場でございます!

「ぐっ……!」

 凄まじい衝突音……!怒りの体当たりを噛ましてくるなど、この不届き者!!悪意(バグ)風情がお嬢様に触れるなど、この北白川が許しません。

 あぁ……皆さま方、お労しい……。木っ端微塵ですね。ひとまずお疲れ様でございます。完璧な肉壁でございましたよ。お陰様で北白川、お嬢様の大切なドレスにシミを付けずに済みましてございます。

 お嬢様が大筆を振りあげられ、渾身の一筆を放ちました。

【戻】戻る。なるほど、この念を持ち主に返還するおつもりのようです。

 神筆に(したた)められた文字は、神の御言葉でございます。浅はかな人の欲望などは、その前では塵に等しい。

 案の定と申しましょうか……。

 言葉にならぬ断末魔が保管ブースを震わせております。麗ら様は両耳を塞いでおられますね。

 北白川?でございますか?こう見えて北白川は、人ならざるモノの断末魔を聴く趣味がございますから、なにも問題ございません。

 お嬢様が祓った有象無象の悲鳴、なんと甘美な響きでございましょうか。まるで天上の楽器を奏でておられるかのような、心が洗われるような音色であります。北白川の鼓膜は真っ白に漂白されましてございますよ。

 天晴れでございます、お嬢様!

 あぁ、皆さま方。こればかりは慣れませんと辛いかもしれませんね。北白川の境地に至るまでの道のりは長うございますが、何事も経験でございます。

 お励みくださいませ。


 悪意(バグ)は去りましたが、結局のところお嬢様は納得がいかないご様子でございます。空気の軽くなった保管ブースで、最後まで抵抗していた青色衣装を見つめておられます。

「お嬢様、やはりあの件でございますか」

 北白川、麗ら様に聞かれぬように小声でお訊ね致しますと、お嬢様は微かに頷かれて、神筆を小さくなさいました。

「因果関係を知りたいわ。調べてくれる?」

「もちろんでございます。北白川の真骨頂をお見せいたしましょう」

 北白川のロイヤルスマイルはお嬢様のためのもの。45度のお辞儀で胸に手を当てて申しますと、お嬢様は微かに笑って保管ブースを出て行かれました。

 さぁ皆さま方、仕事の時間です!いつまでも肉片気分では困ります!式神(モブ)らしくキリキリと働いて頂きますよ!

 皆さま方にミッションを与えます。

 次章──五筆目までに、あの青色の衣装のメンバーを徹底的に調べて来てくださいませ。よろしいですね?

 それでは皆さま方、ごきげんよう。




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