EP:1☆ロゼッタ侯爵家のお嬢様!
私は今日からロゼッタ侯爵家に、メイドとして雇われる事になりました、ルリです。
なんでもロゼッタ侯爵家のお嬢様は、とても無邪気ではちゃめちゃな方とかなんとか……
とりあえず、大変なお方らしいのです。
けれども、あまりにも可愛いらしい彼女を皆が甘すぎてどうにもできないとか…どうとか…。
躾をお願いというよりは、すくすく育つ娘の見守りを頼みたいという、ロゼッタ侯爵家からの娘を溺愛する親バカな依頼でした。
一体、どんなお嬢様なのでしょうか…。
☆.*˚
───お屋敷に到着すると…
「いやっほぉおおぉ〜い!!!」
とても気持ちのいい午後の昼下がりだというのに、ロゼッタ侯爵邸の綺麗な庭園からは、なんともおかしな声が聞こえてくるんです。
気になった私は、そっと覗くと…
そこには、本当にこの子が?と思うほどの美少女が、三階の窓から飛び降りて……ぶら下がっていたのです。
その姿にびっくりした私は、唖然としてしまい声が出ませんでした……。
ふんわりとした淡いピンクの髪に
くりくりの澄んだ空色の瞳
透き通るほどの白い肌に華奢な体
お人形のような可愛いらしい見た目で…
そう……
腰紐をつけ逆さ吊りになり、ぶらぶらとぶら下がっているのです…。
私は立ち尽くしたまま、その光景を見ていることしかできませんでした。
驚きすぎていつの間にか、じっと見てしまっていたせいで、ぶら下がってた彼女と目が合ってしまいました。
「…ひえっ…!」
「あれれ?お客さん?えへへっ!ビックリさせちゃったかなぁ〜?ごめんなさいっ」
そう言って、腰紐を外すとコロンと芝生に転がっていき、この子が今回の噂のお嬢様だとすぐに分かりましたが、その姿は侯爵令嬢には見えませんでした……。
「腰紐外した後の着地だけは難しいんだよね〜!!」
豪華なドレスに草と泥をつけ、汚れたドレスに負けないぐらいの満面の笑みで笑う彼女は、とてもキラキラとしていました。
あまりにも可愛いらしいその少女の笑顔は、周りが甘くなってしまうのもわかる気がするほど、とてもまばゆかったのです。
私ものちに、彼女の行動にどんなに振り回されても、憎めないほどに可愛らしいその姿には、結局怒りながらもどうしても甘くなってしまうメイドの一人になってしまうのです。
───これが私と当時幼かったロゼッタ侯爵家の長女リリィ様との出会いでした。
リリィ様のいつもの口癖は
「今世は絶対自由に楽しく生きる」
「男になんて絶対振り回されない」
当時幼いお嬢様がそんなことを言うものだから、本当に前世の記憶でもあるのだろうか?と思ったのを今でも覚えています。
今もその強い意志を貫いているのか、年頃を迎えたリリィ様は、大人しくしていれば……コホンッ…失礼しました。
……こんなにも儚く美しく育ったのに婚約者もいません。
そしていつまでも娘を溺愛している両親は
「世界一可愛いリリィよ!無理に婚約なんてする必要はないさ〜!この屋敷にいたければ、いつまでもずぅぅううぅっと、いていいのだぞ〜っ!!」
と相変わらずの溺愛っぷりでした……。
そしてそんな自由に生きてきたリリィ様の運命が変わる夜会が今夜……
開かれるのです──。
☆.*˚
リリィside
むにゃむにゃ……、うるさいよぉ…。
「──様!リリィ様!到着しましたよ!」
誰かが私の肩を揺らし、夜会に向かう馬車の中でぼんやりと目をあけると、目の前には呆れたメイドのルリの顔。
「んー……、ふえっ?!?!」
驚きで目が覚め、キョロキョロと周りをみわたすと、いつの間にか馬車の窓から見えるのはきらびやかな夜会の会場の目の前だった。
「…はぁ…リリィ様、そんなにお美しいお姿をされているのに、なんて姿を晒しているのですか…。馬車を降りる前にドレスも髪も綺麗になおしますよ」
寝相が悪かったせいでドレスがめくれ上がっていて私の足は丸見えだ。
「…えへへ…寝相だけは中々なおらなくて〜」
「そもそも夜会に向かう馬車で眠るのは、お辞め下さい」
いつも注意をたくさんしてくるけど、ルリはいつだって呆れながらもずっと一緒にいてくれてとても優しいの。
そして、私のドレスや髪の毛をささっと綺麗になおしてくれると
「できましたよ、お嬢様」
「えへへ…ごめんね?さてと、ルリっ!!今日も沢山食べようねっ!なんだか眠ったらお腹すいてきちゃったかも〜っ!楽しみね〜っ!」
満面の笑みで笑う私にルリは呆れながらも微笑む。
「そうですね。では、行きましょうか」
二人で馬車を降り、会場に入ると中はとても煌びやかでたくさんの令嬢たちがお淑やかに楽しく談笑している。
だけど、私はその輪には入らない。
この世界では、社交の場は避けては通れないからこうやって仕方なく行くけれど……
社交といえば婚約者探しをする者もとても多い。
結婚なんてしたくない私はいつも目立たないようにこそこそと別の場所に移動する。
そんな今日も、いつものようにひっそりと過ごす。
ルリにおやつを持ってくるように頼んでいつもの特等席。二階のテラスに向かった。
一人になった私は、綺麗な庭園の深い池を見ながら前世の記憶を思い出す――…
私が前世で付き合ってた男はすごく最悪だったの。モラハラDV男だ。
付き合うまでは本当に優しかったのに、付き合ってから彼は死ぬほど豹変した。
本当に最悪だった。
彼の顔色を伺って生活する日々は、苦しくて辛かった。反抗したこともあったけれど、もちろん私は殴られた。
心も体もボロボロになった私は疲弊し、いつの間にか逝ってしまった。
逆にすごくない?モラハラにDVだよ?
こんな最悪な最恐コンボの男を引くなんて本当ある意味神引きだよねー…あははっ
でもね、そんな私は気がついたらこの異世界に転生していたの。きっと神様がくれた大チャンス!
私はこのチャンスを無駄にはしないっ。
今世では何も我慢しないし、自由に生きるって決めてるのっ。
男になんて絶対邪魔させないからっ!!
「リリィ様、ぼんやりされている所申し訳ないのですが、お菓子お持ちしましたよ」
気がつくと目の前で大量のお菓子を持ったルリが立っていた。
「あっ、ごめんごめ…わぁぁぁあ!!なんて素敵なお菓子たちなの!!」
目の前の美味しそうなお菓子たちに私の顔はキラキラと輝き出す。
この世界のお菓子も、とっても美味しいの!
特におすすめなのは、令嬢たちが上品に食べれるように一口サイズのケーキとか本当に最高なのっ!
いろんな種類を食べれるんだよ〜っ!?
待ちきれない私は、手掴みで口いっぱいに頬張りバクバクと食べていくと目の前でルリが吹き出す。
「くふっ…お、お嬢様…下品にも程がありますよ」
私がパクパクと食べていると目の前のルリが注意をしながら笑いを堪えている。
「いいの、いいの〜っ!口いっぱいに入れるとすんごい美味しいんだよ?ルリも食べてよ〜!!」
この美味しさを共有したい私はルリにふんわりと笑うとケーキを差し出す。
「私は遠慮しときます。他にもまだまだ美味しそうなのがあったのでお持ちしますね」
働き者のルリは、私のためにまたせっせとお菓子を取りに戻っていってしまった。
こんなルリとの毎日がモラハラ男によって縛られていた私にとってはとても穏やかな幸せな時間だ。




