7 侍女レオナの使命(1)
アリエッタの両親が待つ客室で、レオナは改めて自己紹介する。
「すでに城の者からお聞きしているかと思いますが、改めまして。レオナ・サイプレスにございます。歳は十四でございますが、幼少の頃より城勤めで侍女として最低限の能力は身に付けておりますのでご安心ください。どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げるレオナに両親は戸惑いを隠せない。
何が起きたのか未だ明確にされていないのだから無理もなかった。
そういった両親の疑問や猜疑心を取り払うことも、侍女レオナの務めである。
レオナはアリエッタの背中を優しく前に押し出し、登城理由を話して聞かせた。
「以前プラチナ学園主催で演劇コンクールが開催されたことを覚えていらっしゃいますか?」
唐突な切り出し方に、両親は呆気に取られながらも咄嗟に頷き返事をする。
「あ? あぁ、娘はプラチナ学園幼等部で参加したが……」
「えぇ、一応プラチナ学園幼等部としては名誉あるコンクール優勝をいただきましたけど、でもアリエッタは悪い魔女の役柄で……。主役ではなかったから、別に……ねぇ?」
プラチナ学園幼等部が演劇コンクールの際に選んだ劇は「森の乙女エリュシーヌ」という、昔から人々に親しまれている童話だった。
森の中でエリュシーヌの一家が事故に遭い、両親が死亡。
なんとか命を繋ぎ止めた少女エリュシーヌは、森の妖精に拾われ育てられる。外界を知らないエリュシーヌは純真無垢に育ち、やがて森に迷い込んだ一人の王子と恋に落ちた。
しかし人間に対して不信感を持つ森の妖精たちに、王子との結婚を反対されたエリュシーヌは、駆け落ち同然で森を出て行ってしまう。
やがて人間界での生活で疲弊し、憔悴するエリュシーヌ。
彼女を追い詰めたのは、王子に恋焦がれる魔女が原因だった。エリュシーヌさえいなくなれば王子の心は自分のものだと信じた魔女は、エリュシーヌを追い詰め、さらには育った森まで焼き払おうとした。
王子との結婚生活か、育ての親である森の妖精か、エリュシーヌは選択を迫られる。
最終的には育ての親を捨てられなかったエリュシーヌが森へ戻り、魔女から森を守ることで妖精だけではなく人間たちからも信頼を取り戻すことに。
純真な心が彼らの胸を打ち、森の守り人としてエリュシーヌは王族としての身分を捨てた王子と共に幸せに暮らしていく……という物語だ。
アリエッタの両親からすれば、自分の娘にはヒロインであるエリュシーヌ役を演じて欲しかったというのが本音だった。
それが適わなかっただけで、両親はこの演劇コンクールはただの発表会の場として受け取って観劇。
迫真の演技を披露するアリエッタに対し、外見がただ派手なだけの棒読みな公爵令嬢がエリュシーヌ役を演じるなんて、と随分気持ちが萎えたものだった。
しかしレオナは「とんでもない」と首を激しく左右に振り、熱弁する。