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バケモノ女子s  作者: 一乗寺らびり
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第10話:セリナとアヤメ

「まったく、怪我しなかったから良かったけど、ちゃんと気をつけてよね!」

 俺とミラル、そしてセリナともう一人の女性は、ギルドの会議室を一室借りて座っている。

「ごめんなさい、以後気をつけます……」

 かれこれ数十分ほど、俺はセリナに説教を食らっていた。確かに注意せずに外に飛び出した俺が悪いので、全く反論はできない。

「セリナ、もうその辺にしておいたら?ショウタも反省していることだし」

「そうよ、セリナ。というか、あなたもはしゃいで不注意状態だったでしょ」

 流石に説教が長かったのか、ミラルともう一人の女性が助け舟を出してきた。

「そ、そうだったかしら?ふう、じゃあこの辺で終わらせてあげとくわ」

「は、はぁ」

 長かった説教がようやく終わった。肩から力が抜ける。

「そういえば、自己紹介してなかったわね。私はセリナ・ハインド。『ヒーローショップ』所属の賞金稼ぎよ」

 セリナは胸を張って言った。セリナは銀色のショートの髪で、青色のローブを着ている。いかにも魔法使い、といった見た目だ。背は俺と同じくらいの小柄で、おそらく年齢もそこまで変わらないのだろう。

「俺はショウタ・ミナヅキです。えーと、ミラルの家でお世話になっている、えーと……」

「ただの居候よ。家事とかはやってもらってるけどね」

 己の身分を話すのに困ってしまった。確かに、今の所居候という以外何者でもない。

「へー、ミラルが男を連れ込むだなんて!それもこんなガキンチョ!」

 セリナが驚いたように笑う。

「ちょっと、連れ込むとか変なこと言わないでよ。しょうがなく、うちで保護してるだけだから。それに、多分あんたと歳そこまで違わないと思うわよ」

 ミラルは呆れたように言った。言われてみれば確かに、俺は女性の家に転がり込んでいる男でもあるのだ。これまで異世界に来たことで頭がいっぱいだったが、己の現状を急に意識してしまう。

「ちょっと、何急に顔赤らめてるのよ」

 ミラルに頭を叩かれた。

「私はアヤメ、よろしくね」

 セリナの隣に座るもう一人が、静かに自己紹介をした。そういえば、下でミラルがアヤメと言っていた気がする。

 アヤメは黒いおさげの髪型で、膝下まで覆うようなロングコートのような服を着ている。顔立ちはとても大人っぽく、色気を感じるが、年齢がわからないような不思議な表情をしている。ぱっと見では、賞金稼ぎのようには見えない。

「アヤメも賞金稼ぎでね、こう見えてもニンジャなのよ。ニパング出身の」

「え、忍者?」

「ちょっとミラル、勝手に教えないでよ」

 アヤメは静かに、だがムッとしたように言った。ニパングという聞いたことのない単語が出てきたが、おそらく国の名前だろう。忍者と言うからには、日本のような国なのだろうか。

「私はできる限り、人に身分を明かしたくないの。仕事に響くから。前からそう言ってるでしょう?」

「ごめんごめん。でも、私から言わないと、あんた何も言わないでしょ?」

「その何も言わない理由を、ちゃんと理解してほしいんだけどね」

 アヤメは大きなため息をつくと、こちらに目を向けた。

「で、この居候の少年は何者なの?東洋系の顔立ちだし、この辺では見ない人種だと思うんだけど」

 どうやら、俺の事を怪しんでいるようだ。そういえば、ダグラスさんもこの辺では東洋系の人は珍しいと言っていたっけ。

「えーと、俺は……」

「山の中で拾ったんだけど、自分のこと名前以外覚えてなかったのよ。だから、うちで保護しているの」

 異世界から来たことはあまり言いふらさないほうが良い、ミラルにそう言われていたため答えに困っていたが、ミラルが機転を利かせてくれた。

「ふーん……」

「え、記憶喪失!?しまった、師匠からあの魔法ちゃんと習っていれば……!」

 アヤメはものすごく怪しんでいるが、セリナはそのまま納得してくれたようだ。

「魔法……そうだ!セリナさん!」

 セリナの一言で、頭から抜け落ちかけていた事をようやく思い出した。

「き、急にどうしたのよ?」

「俺に、魔法を教えて下さい!セリナさんにずっと会いたかったんです!」

 俺に秘められているはずの特殊能力、それを知る術の最後の希望がセリナなのだ。もし魔法に関係するものであるなら、現地の魔法使いであるセリナがなんとかできるはずなのである。

「お、私に弟子入り志願?嬉しいけど、私は弟子は取ってないのよね。まだまだ勉強中の身でもあるし」

 セリナは嬉しがりながら、頭を掻いている。別に弟子入りまではしなくていいが、それは言わないでおこう。先程ぶつかってしまったこともあるし、これ以上印象を悪くする意味はない。

「そ、そこをなんとか!だめですか!?」

「少しだけでも良いから、教えてあげてくれない?こいつ、セリナの話をしたら目を輝かせちゃってね」

「セリナ、教えてあげたら?どうせこの後、何も用事ないんだし」

 ミラルとアヤメがフォローに入ってくれる。すごくありがたい。

「しょーがないなぁ!そこまで言われたら、教えてあげちゃおうっかな!」

 セリナ、すごくちょろい。今はそれが嬉しいが。

「といっても、魔法にも素質があるからね。ちょっと待ってて」

 そう言うと、セリナは鞄を探り始める。そして、一本の抜き身のナイフを出してきた。

「まずはこれ、握ってみて。私が普段使ってる魔法の触媒なの」

「触媒……!」

 元の世界なら普段聞かないような単語に、心が踊る。セリナからナイフを受け取り、右手にしっかりと握る。

「次に、右手に光が集まるイメージをしてみて。魔法はイメージ力が大事よ」

「イメージ力ですね!よーし!」

 目を瞑り、自分の身体を想像する。右手のところへ大きな光が集まり、巨大な太陽となるようなイメージを膨らませる。

「次はどうすればいいんですか?」

「……だめねこりゃ、才能一切ないわ」

 今、なんと言った?才能がない?

「え、なんですって?」

「逆に不思議なくらいよ。魔力が殆ど無い一般人でも、僅かな光は見せるのになぁ」

 目を開き、右手に握ったナイフを見る。ナイフには全くと言っていいほど、変化はなかった。

「残念だけど、魔法を教える以前の問題ね。やり方がわかっても、元がなければどうしようがないもの」

「そ、そんなぁ」

 がっくりと、うなだれてしまう。こうなると、俺に与えられた能力の存在自体が怪しく思えてきた。もしかして、あの光る何かに騙されたのだろうか。

「そんな落ち込まないでよ。こればっかりは、あなたが生まれ持った個性の問題なんだから」

「そうは言っても……はぁ」

 俺はこれから、どうすれば良いのだろうか。目標を失い、喪失感が大きくなる。

「そうだ!セリナ、ショウタに魔法を見せてやってよ。きっと驚くわよ」

 ミラルが俺を気遣ってくれているようだ。確かに、俺はこの世界に来て、魔法を一度も見たことがない。そもそもとして、この世界での魔法がどんなものかを知らなかった。

「うーん、良いけど、何を見せたら良いやら。せっかくなら派手なの見せたいけど、私の魔法、基本的に広範囲攻撃のものばっかだしなぁ」

 どうやら、セリナは攻撃魔法専門のようだ。

「……それなら、ちょうどいいのがあるわ」

 ミラルがニヤリと、何か企んでいるように笑った。


***


「あれがその砦?」

「そうよ。何度か賊とかに占拠されてて面倒だし、いっそのことね」

 俺達は、朝出発したばかりの砦が見える、かなり離れた丘の上にいた。ちなみにアヤメは『付き合ってられない』と言い残し、一人先に帰ってしまったため、俺とミラル、セリナの三人だ。

「ミラル、いいの?あの砦、勝手に破壊しちゃって」

「いいのよ。どうせ撤去する暇とお金がないだけだろうから、善意の破壊行為よ」

 良いのかそれは、と考えたが、反論したところでどうこうできるわけでもないため、成り行きを見守ることにした。

「よーし!それじゃあ早速、師匠から習った最大火力の魔法を見せちゃうわ!」

 そう言うと、セリナは触媒のナイフを握りしめ、刃先を天へと向けた。

「とりゃ!」

 そして気合の一言を発すると、ナイフの刀身が赤く光り、その光が天高く飛んでいく。

「お、おぉ!すごい」

「まだまだこれからが本番よ!見てて」

 光が飛んでいった先を見ていると、なにやら赤く動く物体が見えてくる。それはすごいスピードで、天から降ってくる。

 近づいてくる物体の形が視認できる大きさになると、それの形には見覚えがあることに気づいた。

「……え、ミサイル?」

 ミサイルの形をした巨大なそれは、高速で砦に向かい降ってくる。

「着弾するよ!耳塞いで伏せて!」

「え!?あ、うん!」

 セリナの言葉通りに慌ててその場に伏せると、耳を破壊するかのような轟音が聞こえ、強大な風圧が身体にぶつかってきた。おそらく、ミサイル型の物体が爆発したのだろう。

 爆発による強風がしばらく続き、突如静寂が訪れる。

「もう大丈夫よ!ほら、見て!」

 セリナの言葉に従い、立ち上がって砦の方へ目を向ける。土埃が激しく舞っているが、かろうじてその場所が見える。が、そこにあるはずの砦は跡形もなく消え去っており、代わりに巨大なクレーターが開いていた。

「え、えぇ……」

「おー、さすが『破壊者セリナ』ね。綺麗サッパリなくなってるわ」

「ちょっと、その呼び方やめてよ!もっとかっこいい呼び名がいいのになぁ」

「破壊者……」

 この光景を見たら、その呼び名はまさにうってつけである。

「こほん。さあ、どうよショウタ!私の魔法を見た感想は!」

「え!?えーとなんというか……」

 怖い。恐ろしい。それが本音だったが、とてもじゃないが言えない。

「……火力がすごくて素晴らしい、です」

「でしょー!ふふん!」

 語彙力のない感想に、セリナは誇らしげに胸を張っていた。

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