鉄心への想い2
謎家が去った後、犬熊と小林が入れ替わりで部屋へと駆けつけ、美月と鳶影は病院へ運ばれた。
鳶影は病院送りを強く拒否したが、小林の説得により渋々承諾。犬熊の瞬間移動で部屋を後にする。
そして、小森と彼は小林と共にその場に残ったのだった。
数日後、鳶影は狐坂のいる病室へと訪れた。
「燐火、もう起き上がって良いのか?」
「うん。大丈夫だよ」
狐坂は鳶影のおかげで一命を取り留めた。
今はこうやって起き上がるまでに回復している。
鳶影も一時はどうなるかと思われたが、今は元通りに動けるようになっていた。
「無理はすんなよ」
「ありがとう、カイト」
「…」
「カイト?」
鳶影が黙り込んでしまったのを見て、狐坂が心配そうな目で見る。
だが、本人が口を開くまではじっと待って我慢した。
すると…。
「燐火。今まで黙ってたけど、俺…ゲスのことが好きだったんだ」
突然の告白に動揺するかと思っていたが、狐坂は「知ってたよ」と一言で答えた。
その言葉を聞いて逆に鳶影が動揺する。
「カイトが彼女を好きなことは知ってた」
「いっ、いつから…」
「小学校の時から」
「…そっ、そうか」
鳶影はこのことを隠してきたつもりだったが、彼とずっと行動を共にしている狐坂にはお見通し
だったようだ。
「カイトは菊馬さんと仲良くなりたかったんだよね。でも、何を話したらいいか分からないから
、ついひどいこと言っちゃって」
「あぁ…」
「サッカーしてた時、彼女の視線が気になって思わずそこまで蹴っちゃったりとか」
「あぁ……」
美月はわざと自分の顔面に向けてボールを蹴り飛ばしているのだと思っていたが、実際はただ
好きな人の視線が気になるあまり、そこへ蹴飛ばしてしまっただけだった。
そしてあのひどいあだ名も…。
「カイトそのことを何度も謝ろうとしたけど、謝れなかったんだよね。ゲスってあだ名もクラス
の男子にからかわれたからついごまかしで言っちゃって、それが定着しただけなんだよね」
「…もう言わないでくれ」
鳶影は自分の過去の行いに頭を抱えた。
今も昔もあの頃と全く変わっていない自分が情けない。
そんな落ち込んでいる鳶影に狐坂はこう話しかけた。
「カイトが思い描いていた未来じゃなくなったかもしれないけど、それでも…まだ彼女のこと
好き?」
鳶影鉄心が思い描いていた未来。
それは、あの時自分が出来なかったことを実現させるということ。
違う道を行きたいと思えば行くことも出来たが、彼の中で美月の存在が完全に消えることは
なかった。
「…あぁ。俺はあのバカを今でも好きだよ」
恋というのは、本当によく分からない。
どうしてあんなのを好きになったのか、そしてなぜ今でもこの気持ちを抱き続けているのか、
鳶影自身未だに分かっていなかった。
「伝えないの?」
「今更俺がどう言ったって、信用しねぇよ。あいつは」
「本当にそれでいいの?」
狐坂はしつこく念を押す。
「例え返事がNOだって分かってても、気持ちを伝えるのが無駄になるわけじゃないんだよ?
カイト、今彼女に伝えなきゃ…きっと後悔するよ」
「…」
鳶影は少し黙りこんだ後、狐坂に「また来る」と言い残し病室を後にしたのだった。




