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心配されて守られているけど、不便である



  あれから数日が経った。

  美月は父・一真に連絡しようとリビングにで電話を掛けるが、すぐ留守番電話サービスへと切り替

 わってしまう。『またか』と深いため息をついた後、美月はすぐに電話を切った。


  「お父さんったら、いったいどこ行っちゃったのよ…」

  一真は美月を襲った狼男の調査しに行くと言って柊先生と出かけてしまった。一日では帰ってこな

 いだろうとは思ってはいたが、実際に数日が過ぎても帰ってこないとなると段々不安になってしまう。

 娘としては無事に帰ってきてほしいのだが…。

  「みぃ~ちゃん」

  美月が二人の身を案じていると、雲虎から声を掛けられる。

  「なに?」

  「まだ連絡がつかないの?」

  スマホを握り締めている美月を見て、雲虎は心配そうに尋ねる。

  「…うん。何度かけても留守電になっちゃう」

  「そっか。宮木先輩には連絡した?」

  「忙しいと思うからチャットの方に送った。でも、返事が返ってこない」

  仕事が忙しいから電話ではなく、チャットの方に連絡を入れたのは宮木に気を遣っているから。

 結婚する前からあまり電話やメールなどのやり取りをしていなかったが、新居に移って離れ離れに

 なるとなんだか寂しい気持ちになり、彼の声が聞きたくなることがある。

  だが、そんな理由で電話なんて軽々しくできない。例え相手が夫でも向こうは忙しいのだから…。

   

  「みっ、みちゅきちゃん!」

  「…はい?」

  わざとなのか、それとも勢い余っての言い間違いかは分からない。

  雲虎はいつも美月のことを『みぃ~ちゃん』と呼んでいるのに、なぜか突然名前で呼んだこと

 に美月は半分驚き半分呆然とした感じで雲虎を見た。

  「おっ、俺が宮木先輩の代わりになるよ。だから、そんな悲しい顔しないで」

  「代わりになるって…具体的にどうするの?」

  何を企んでるんだと言わんばかりに美月は雲虎に尋ねる。

  さて、いったいどんな答えが返ってくるのか……。


  「そっ、それは……」

  どうやら何も考えてなかったようだ。

  別に期待はしていなかったが、それはそれでがっかりだった。

  「お前ら、なにくだらねぇ話してんだよ」

  するとそこへ鳶影と狐坂がリビングへと入って来る。

  二人は先程まで見回りのために少し外へと出ていた。外といっても家の周囲をぐるっと回るだけ

 なので、雲虎一人に美月を守らせても問題はない。ちなみに小森は食料の買い出しで一人スーパー

 へと出かけている。

  「くだらないとはなんだよ、とびっち」

  「くだらねぇからくだらねぇんだよ。もこもこ」

  『目には目を、歯には歯を』というように、あだ名にはあだ名で返すらしい。

  だが、『もこもこ』と聞くとなんだかマスコット系や可愛いものを連想するが…果たして彼は

 どうなのだろうか?

  「何の話してたの?」

  「あぁ~それが…」

  狐坂に聞かれたので、美月は先程のことを教えた。

  話を聞き終えた鳶影は「やっぱりくだらねぇじゃねぇか」と、やっぱり自分が正しかったと美月と

 雲虎にドヤ顔する。

  「なんだとぉっ!とびっちはみぃ~ちゃんの気持ちが分からないのかっ!?」

  「あぁ、わかんねぇよ。つーか、ゲスの気持ちなんか分かりたくねぇし」

  鳶影と雲虎は火花を散らし、お互い睨み合っている。

  元々相性が悪いのかは別として、喧嘩している理由は確かにくだらないものだった。

  「そう言えば、夜月遅いなぁ…」

  二人を放置して美月は買い出しに出かけた小森を心配していた。

  そろそろ戻って来てもいいはずなのにまだ帰ってこない。何かあった時のために自分のスマホを

 持たせようとしたのだが、『すぐ帰ってくるから』と行って出かけてしまったので、こちらから

 電話することも出来ない。

  「…不便だ」

  妊娠して、命を狙われて、守られて、一人で外には出られないことに美月は大きな深いため息を

 つくのだった。


  

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