熱が出た浦瀬のお見舞い
入隊式が終わった翌日、浦瀬が仕事を休んだ。小山実凛の話によると熱があるらしく、今日は一日
安静にして寝ているとのことだった。しかし、四之宮や一部の人間(つまり宮木達21歳組)には
その原因が分かっていた。
「先輩、どうします?」
「何がだ?」
「何がって、浦瀬のことに決まってるじゃないですか」
「熱が出ただけだ。一日寝ていれば治るだろ」
「そうかもしれませんけど…」
「人の心配よりもまずお前は今自分の机に置かれている仕事を済ませろ」
「すっ、すみません…」
宮木はそう言うと自分の席へと戻って行った。
「宮木。四之宮さんと何話してたんだ?」
「浦瀬のこと。人の心配より仕事済ませろって怒られちゃった」
「まぁ、そう言われるよな」
「別に浦瀬のこと心配してるわけじゃないけど、美月のことがあるからさ」
「だろうな。お前と浦瀬、仲悪いし」
「とりあえず、今は仕事を片付けるよ。でないと帰り遅くなりそうだし」
宮木と妹尾がそう話をした後、四之宮は一人で考え事をしていた。宮木にはああ言ったものの、
四之宮も一応浦瀬のことを心配しており、昼休憩の時間を利用して様子を見ようと考えたのであった。
そしてお昼休憩の時間。四之宮は本部の食堂ではなく、正隊員女子寮へと足を運んだ。浦瀬の部屋
へ辿り着くと四之宮はすぐにドアをコンコンと二回ノックをする。するとしばらくしてゆっくりと
ドアが開き、中からしんどそうな顔をした浦瀬が出てきた。
「だれ…って、しっ、四之宮っ!?」
浦瀬は目の前にいる四之宮を見て驚いた顔をする。
「熱出したと聞いて様子を見に来た」
「あんた…よくもまぁのこのこと…」
昨日の今日なので浦瀬は四之宮の顔を見て機嫌を悪くするが、熱のため身体がふらふらとしていた。
これに四之宮は「早く布団に入って寝ていろ」と浦瀬に言う。だが、彼が部屋を訪ねなければ浦瀬は
部屋の中で安静にして寝ていたので…。
「あんたが来なきゃ、ずっと寝てたわよ」と、浦瀬がふらふらしながら四之宮に文句を言う。
「何か食べたのか?」
「…食欲ない。っていうか、冷蔵庫空っぽだし」
浦瀬が冷蔵庫を使用する場合は主にビールである。
「あぁ…だりぃ……」
「ちょっと待ってろ」
「えっ?何いって…」
浦瀬がそう聞こうとしたが、四之宮はどこかへ行ってしまう。だが数分後にはどこかから戻って
来た。
「コンビニでおかゆを買ってきた。これなら食べられるだろ」
「わっ、わざわざコンビニに…?あんたが?」
浦瀬は信じられないと言うような顔をする。小さな子供が一人でおつかいに出かけたと知った母親
のように…。
「温めなくてもいけるらしいが、店の人に頼んで温めてもらった。冷めないうちに早く食べろ」
「…あっ」
「じゃあ、俺は戻るから「待ってっ!」
昼休憩が終わらないうちに四之宮は帰ろうとした。しかし、浦瀬は四之宮の背中にガシッとしが
みつく。
「お前…何のつもりだ?」
四之宮は女性にしがみつかれても何とも思わないわけではないが、女子寮から本部までは距離が
あるので、今から帰らないと昼休憩が終わり仕事が遅れてしまう。しがみつく女性より仕事を取る
四之宮光。
「…もう少し」
「はっ?何だって?」
「もう少し、ここにいて…よ」
それが今の浦瀬にとって精一杯の気持ちだった。だが四之宮は…。
「お前、熱上がってるんじゃないのか?」
「はぁっ!?なんでそうなるわけっ!?」
浦瀬は驚きのあまり四之宮の拘束を解いた。四之宮は何で浦瀬が怒っているのかがよく分からなか
ったがとりあえず「病人は大人しく寝ていろ」と言って浦瀬の部屋を出た。
「…バカ」
四之宮が部屋を出て行った後、浦瀬はそう言って布団の中へと入ったのだった。




