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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
菊馬愛咲実の成長過程ととんでもない非日常
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瀬楽と謎のノート


  

  美月が雲虎と一緒に反省課題に取り組んでいた頃、瀬楽は霜月・綾小路の二人と一緒にデパートへ

 来ていた。


 「そういえば、三人で一緒に出掛けるって久し振りじゃないか?」

  霜月が二人にそう言うと、綾小路が「うん。三人でこうして遊ぶのすごく久し振り」と返事を返す。

  美月、黒澤、小森、宝正、岸本と一緒にいることが多かったため、三人で休日を過ごすのはだいぶ

 久し振りのことである。

 「ふむ。大勢でわいわいも良いが、これはこれで良いよなぁ~もぐもぐ」

  現在三人はフードコートで昼食を取っている。瀬楽が一人Lのポテトをぱくぱくと食べ進めている

 と綾小路が声をかける。


 「あのね。瀬楽君」

 「ん?どうした、綾?」

  綾小路に優しく尋ねる瀬楽。

 「実は私……特殊部隊、辞めようと思ってるんだ」

 「…えっ?」

  さすがの瀬楽も一時思考を停止せざるを得なかった。霜月は瀬楽の反応を見た後、顔をうつむいて

 しまう。


 「私はお父さんとお母さんを探すために特殊部隊に入隊した。瀬楽君や美月ちゃん達と友達になって

 一緒に正隊員になって…皆のおかげでお父さんとお母さんを見つけることが出来た。これで…私が

 特殊部隊にいる理由が無くなっちゃったの」

  本当なら美月達にもこの話をすべきなのだが、やはり一番最初に話すべきなのは瀬楽だと綾小路は

 思ったのだろう。


 「…明日夢も、辞めるのか?」

 「…」

 霜月は瀬楽の問いかけに応えず、黙ったまま。だが瀬楽は「明日夢っ!」と彼の名を呼ぶ。

 「…ごめん、瀬楽」

 「……」


 瀬楽は霜月の返事を聞いた瞬間、速度計スピードメーターで勢いよく走り去ってしまった。

 

 「瀬楽っ!?」「瀬楽君っ!?」

 二人が瀬楽の名前を呼ぶが、そこにはもう瀬楽の姿はない。瀬楽が去った後のフードコートはシーン

 と静まり返ったのだった。



 

  瀬楽はデパートを出た後、特殊部隊に戻らず適当な道を全力疾走した。

  正直彼の心の中にはもやもやとした感情が支配し、コントロールが出来ない状態。

  綾小路の両親が見つかったことで、薄々そうなるんじゃないかとは思ってはいたものの…実際に

 本人達の口から『特殊部隊を辞める』と聞いてしまうと、心に棘が刺さったかのように痛くなる。

  

  「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」

  彼の能力には今のところ、代償は存在しない。だが、体力底無しというわけではなく、息が弾む。

  彼の性格ならこんなことで悩んだりしないと思われるかもしれない。だが、彼も人間であり全て

 のことに楽観的ではない。ただ…――。


  『なんで俺…逃げちゃったんだろ。分かってたことなのに…』

  なぜ自分が逃げ出してしまったのか、瀬楽自身全然分かっていなかった。体が勝手に動いてしま

 い、気づいたら今いる場所まで来てしまった。スマホのマップアプリを使えば特殊部隊まで帰るこ

 とが出来るが、今はまだ…帰りたくない気分。


  「時間……止まらないかなぁ~」

  瀬楽はなんとなくそう呟いた。もちろん本当に時間が止まってほしいだなんて思ってはいない。

 けれど、言葉に発したかった。それで気分が少し晴れる気がしたから…。一人になってしばらくの

 間ぼーっとしていると、どこかからパタン!と何か落ちる音がした。


  「ん?」

  音に反応した瀬楽は気になって左右を確認すると、彼の目に一冊のノートが視界に入る。

  「…こんなの、さっきまでなかったよな?」

  『誰かの落し物か?』と思いながらも、瀬楽はノートを拾ってきょろきょろと辺りを見渡す。だが、

  瀬楽以外そこには人はない。この様子を見て、瀬楽はあることを閃いた。いや、思い出したという

 べきだろうか…。


  「まさかこれって……あれかな?※※(ギャアー)ノート」

  明らかに自分以外誰もいないこの状況で一冊のノートが近くに落ちてるなんてことは有り得ない。

 となると、このノートは空から落ちてきた可能性が高く、それを拾った自分はこのノートの所有者と

 なり…※※※※※(ギャアアアーー)に。


  「いやいやいやいやっ、ないないないない。それはない!これはただのノート、ノート」

  瀬楽はそう自分に言い聞かせて、拾ったノートの1ページを開けてみる。だが、そのノートは真っ

 白で何も書かれていなかった。確認のため、他のページをぱらぱらとめくって調べてみるがやはり

 ノートは真っ白だった。


  「…やっぱり、ただのノートだな」

  少しほっとした瀬楽。

  「でもこれ…どうしようか」

  さすがに一度拾ったノートをまた同じ場所に置いておくと言うのもあれなので、瀬楽はそのノート

 を持ち帰ることにした。

  

  寮へ帰ると早速瀬楽はそのノートに今日のことを書くことにした。日記なんて小学校の夏休みの宿

 題以来やってないし、やったとしても3日坊主で終わってしまう。それなのに瀬楽はどういうわけか

 今日のことを拾ったノートに書いておきたいという気持ちになり、気がつけばシャープペンを右手に

 スラスラと文章を書き進めたのだった。



 

  …翌朝、日曜日。天候は晴れのうち曇り。

  休みの人もいれば、休日出勤で朝早起きして仕事へ出かける人もいるだろう。いつもどおりの日常

 というのはその人によって全く異なるものだ。だが…一歩外へ出てみるとそこには誰もいない。

 この時間帯なら外に出る人達がたくさんいるはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだ

 ろうか?だが、それは我が国だけではなく世界中がこうなっているのだ。


  

  とうとう世界がおかしくなってしまった?

  それとも人間そのものが消えたのか?

  いや、違う。

  その答えは…。

 

  

  「世界がこんなことになってしまった理由、それは瀬楽君が拾った一冊のノートに自分の素直な

 気持ちを書いたことから始まった。見た目は中学生や高校生がよく使うただの学習ノートにしか見

 えないそのノート。実はノートじゃないんだ。ノートじゃなくて、意思を持つ生命体。瀬楽君は※

 ※(ギャアー)ノートだって言ってたけど、あながちその表現は間違っていない。何も書いていな

 い真っ白いノートに見せかけて持ち帰らせ、拾った人間に何でもいいから自分が今思っている素直

 な気持ちを書かせる。例えばこういう文章だ」


  ここからは、仮のお話である。

  20代会社員のAさんは貧乏な家庭で育ちました。父と母と三人の実家暮らしでAさんは一人っ子。

 会社では上司にいつも怒られ、家に帰れば両親の喧嘩の仲裁にあけくれる日々。Aさんは精神的スト

 レスを抱えながらも会社で普段通り上司に怒られた後、一人昼休憩で外に出た。

  

  『本当、毎日毎日怒られてばっかりだ。貧乏な家じゃなくてお金持ちに生まれてたらなぁ…』

  ふとそう独り言を呟いたAさんにどこからかパタンと何かが落ちてくる音がした。Aさんは音がし

 た方向に視線を向けるとそこには一冊のノートが落ちていた。そのノートをぱらぱらとめくりますが

 、何も書かれていない真っ白なノートでした。それに名前も書いていません。Aさんはそのノートを

 家へ持ち帰ることにしました。そして、ノートに今日の出来事を書いて最後に『お金持ちの家に生ま

 れてたら自分の未来は変わってたかもしれない』と書いて、ノートを閉じました。そうすると…。


  「Aさんの家に突然黒服の男たちが訪れ、Aさんを無理やり連れて行きました。連れていかれたの

 は大きなお屋敷で、Aさんはそのお屋敷に住むことになりました。怒られてばかりの会社員は一生

 遊んで暮らせるお金持ちになったのです。しかし…Aさんはその3日後に亡くなりました。20代の

 Aさんがそんなに早く亡くなるなんて不自然だよね?だけど、それはAさんがそれだけ欲張った証拠

 なんだよ。金銭的な問題で今まで我慢していた分、楽しく遊んで過ごした。忠実にその願いを叶える

 わけじゃなく、ある程度満足させたなと判断したら、その人間の魂を取るのさ。超能力や能力にも代 

 償があるだろ?それと同じようなもんさ。ただ命を奪う奪わないの違いだけ。こんな恐ろしい生命体

 がまさかノートに化けてるだなんて知ったら世界中のノートが売れなくなっちゃうね。まぁ、売れな

 いだけならまた新しい商品を作って売り出せばいいだけだけど…それを買う消費者がいないとね~。

 話が長くなってしまったけど…おじさんの話で今この世界で起きてる状況を理解出来たかな?このま

 ま世界に人々が戻って来なければ、大変なことになる。どう大変かと言うとそうだな…ずっと帰って

 なかった家に帰ってみたら家の中はホコリと蜘蛛の巣まみれになって、ネズミやら※※※※やらに汚

 されて庭が草ボウボウに生えまくっちゃって、帰って早々大掃除する羽目になるような感じに近いか

 な。だからそうならないために、ノートを回収して封印しなきゃならないんだ。おじさん達が必死に

 探してるんだけど、相手は生きてるもんだからなかなか見つからない。そこでおじさんからお願いが

 ある。世界の人々を消してしまったノートを回収して封印してほしい。本当はおじさん達がなんとか

 しなくちゃいけないし、情けないって思われるかもしれないけど……力を貸してはもらえないだろう

 か」


  

  山神社の神主から自分達の世界が大変なことになっていることを知る。

  世界を元に戻すためにはノートを回収し封印しなければならない。『力を貸してほしい』と言われ

 た後、神主は姿を消した。だがその理由は、そこで夢から覚めたからであり消えたわけではない。

 しかし、その夢から覚めた場所は自分の部屋ではなく、どこまでも真っ白な景色が広がる世界だった。


 

  「ここ…どこ?」

  真っ白い景色に一人ぽつんと立っている美月。他には誰もいないこの状況を見ての第一声であった。

 

 

  

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