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私の危機回避能力はあてにならない  作者:
菊馬愛咲実の成長過程ととんでもない非日常
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バレンタインチョコ作り開始




   小山守と内山一は、宮木隼士の同期で同い年の21歳。彼ら二人はチョコの材料を買いに出かけ

  ようとしていた雲虎を発見し、声を掛けた。(実際に声を掛けたのは、小山の方)

   雲虎の話を聞いた小山と内山は、本部に報告を済ませた後…雲虎と一緒にバレンタインチョコの

  材料を買いに出かけてしまったのだった。これを隊長である勝山正義は、呆れるどころか親のよう

  な眼差しで静かに見送っていたことを、彼らは知らない。



  「バレンタインチョコの材料を買いに行くだけなのに、どうしてお二人が付いて来るんですか?」

  「まぁまぁ、細かいことは気にしない。すぐに済む買い物なんだからいいじゃん」

  「えっと、買い物リストによると…」

  

  『板チョコ・チョコレートペン(白・ピンクなどのもの)・アーモンド・アルミカップ

   ※必要ないものを買わないように注意!分からなかったら電話しろ!』


  「…きれいで読みやすい字だ」

  「内山、声に出てる」

  「うわぁっ!?…なっ、なんだよっ。びっくりするじゃないかっ!」

  「あぁ~ごめんごめん。それより買い物、買い物」

  「わっ、分かってるよ」

  「怒らないでよ、内山」

  「怒ってないっ!」

  

   バレンタインデーはまだ早いが、デパートの広い場所にバレンタインチョコに必要な材料や

  ラッピング袋などが置かれている。かなり目立っていたので、買い物に不慣れな男性陣も大丈夫

  …のはずだった。


  「種類が多すぎて悩むなぁ…。これとこれを買うとして…カップはどんなのがいいのか…」

  「悩むなら電話して聞いてみたらどうだ?」

  「雲虎、菊馬さんの連絡先知ってるんだろ…って、早速電話してるし」

  

  「あっ、みぃ~ちゃん?俺だけど…『バレンタインチョコの材料を買いに行こうとしたら、いつ

  の間にか見知らぬ場所へと辿り着いて帰れなくなったのか?』

  「いいや。目的地にたどり着いたんだけど、いろいろ種類がいっぱいあってな」

  『何に悩んでるんだ?まさかと思うが、カップのデザインはどれがいいかな~?って悩んだりし

  てないよな?』

  「おぉ~!?みぃ~ちゃん、正解だっ!」

  『やっぱりか…それならお前の好きなやつでいい。どうせお前の自腹でお前が食べるんだから』

  「いや、そうはいかない」

  『なんで?』

  「小山さんと内山さんがいるからだ。今、一緒にいる」

  

   雲虎が美月と電話で話しているところを少し離れた場所から見守る小山と内山。

  「何話してるんだ?」

  「さぁ?聞いてみる?」

  「…いや、いい」

   楽しそうに話している二人の邪魔をしたくないと、内山は遠慮する。その後、雲虎が電話を終え 

  るとテキパキと買い物カゴに材料を入れて二人の元へ戻って来たので会計を済ませて、車で特殊

  部隊へと戻って行った。


  

  「みぃ~ちゃん、ただいまぁ~」

  「おかえり…で、さりげなく抱きつこうとするな」

  「あっ、これバレンタインチョコの材料」

  「ご苦労。小山さんと内山さんは?」

  「仕事に戻って行ったよ。チョコ作り頑張ってねって小山さんが。内山さんは何も言わなかった

  けど」

  「そうか。まぁ、期待されても困るけど」

  「みぃ~ちゃんは可愛いし、優しいからなぁ~。義理チョコでも嬉しいんじゃないかな?」

  「貰えれば誰でも良いとかじゃなくてか」

  「違うよ。みぃ~ちゃんが作ったチョコだからだよ」

  「そうか。それは、プレッシャーだな」

   今から作るって食べさせる相手は雲虎だが、それでもきちんと作りたいと思う美月であった。


   まずは板チョコを溶かしやすいように手でぽきぽきと割り、ボウルに入れる。

  「ねぇ、みぃ~ちゃん?」

   出来ることなら作業中に話しかけないでほしいが、美月は雲虎に「何だ?」と返事を返す。

  「宮木先輩のことなんだけどさ。みぃ~ちゃんは先輩のどこが好きなの?」

  「…どうしたんだ、突然?」

   作業しながら美月は雲虎に尋ねる。すると…。


  「いや。みぃ~ちゃんってあんな人が好みだったのかなって思って。俺はみぃ~ちゃんとずっと

  一緒に過ごしてたわけじゃないから、言える立場じゃないと分かってはいるんだが……」

  「はっきり言え」

   板チョコを割り終えた後、次は湯煎の作業へ。

  「…俺から見たらあの人はみぃ~ちゃんに相応しくない。俺は今でもそう思うよ」

  「自分が相応しい男だってやつか?」

   湯煎の湯が入らないよう、慎重に作業する美月。

  「違うっ!いやっ…半分そう思ってはいるが」

  「雲虎。計量カップとアルミカップを用意して」

   美月に指示され、雲虎は黙って計量カップと買ってきたばかりのアルミカップを用意する。

   チョコを溶かしきったので、それを計量カップに入れてそれをアルミカップへと流し込む。

   

  「好きな人間が出来たって相手が自分のことを好きじゃなければ意味がないだろ?」

  「あっ…あぁ」

  「恋愛ドラマに漫画やアニメとかで描かれるようなものを自分が現実に体験できるとは限らない。

 このアニメみたいな恋がしたい。こんなカッコいい彼氏が欲しい。こんな人と結婚して幸せな家庭

 を築き上げたら…って、理想を高くすれば高くするほど現実での恋愛なんて出来ない」

  アルミカップを小さなお盆に乗せた後、そのまま冷蔵庫の中へ入れた美月は話を続ける。

  

  「雲虎。お前は自分のことをかっこいいと思うか?」

  「思うっ!…あっ、いや…少しだけ」 

  「謙遜なのも嫌だが、ナルシストなのも嫌だ」

  「ナルシスト?」

  「自分のことを天才だとかカッコいいとかっていう自分大好き人間のことだ」

  「あぁ、ひょっとして都目先輩みたいな人のことか」

  「トメ?」

  突然知らない人の名前が出てきて美月は首を傾げる。

  

  「都目とめ裕次郎ゆうじろう先輩。俺とは同い年で、フリーの先輩隊員なんだ」

  「知らん」

  「その人がよく俺に声をかけてくるんだが…ほとんど自分のことしか話さないんだ」

  「あぁ…それはナルシストだな」

  「今日の俺はこんなにかっこよくて輝いてる~とか。今日俺は仕事でこんな戦い方をした~とか」

  「私が言えることじゃないが…その人、友達いないだろうな」

  「いや、それがいるらしいぞ」

  「…それ自分で言ってるだけなんじゃないのか?」

  なんとなくそう思った美月。


  「いやそれがいるんだよ。小学生時代の幼馴染?だとかで」

  「腐れ縁っていうやつか。それって友達なのかな?」

  「本人が友達って言うんだから、良いんじゃないか?」

  「…そうだな」

  「俺とみぃ~ちゃんも腐れ縁か?」

  「いや、違うだろ。たぶん」


  そう話している間に、バレンタインチョコが固まり早速試食を開始。

  「じゃあ、いただきまーす」

  「どうぞ」

  ぱくっと一口で食べる雲虎。はたして、お味は…。


  「うん。美味しいぞ」

  「そうか。それは良かった」

  「チョコペンで文字描いてみてもいい?」

  「いいぞ。何て描くんだ?」

  「ナイショ」

  「…あっそ」

  なんだか寒気がした。せっかくなので美月もチョコレートペンで文字を描くことに。

  

  「よし。出来た」

  「どれどれ…「だめっ。みぃ~ちゃんは見ちゃダメ」

  「なんでだよ。見せろって」

  「嫌だっ…っ!?」

  美月は雲虎が固まった隙をついて、手に持っていたチョコを奪い取ることに成功。


  「えっと…なんだこれ?」

  「…一応、みぃ~ちゃんの顔」

  「私の顔…」

  何を描いたのかと思いきや、まさか自分の顔だったとは思いも知らず…。


  「もう良いでしょ?みぃ~ちゃん、そろそろ…離れて」

  「ん?あぁ、ごめん」

  雲虎が固まった理由。それは、自分が描いたものを見ようと接近してきた美月に驚いたから。

  なんの意図もないことは分かってはいるが、それでもやはりドキドキする雲虎。


  「みっ、みぃ~ちゃん」

  「なんだ?」

  「…あっ、あの…」

  「早く言え」

  「あぁっ!そういえば…宮木先輩のどこが好きかって話、まだ聞いてないよね?」

  話をごまかす雲虎。何を言おうとしたのかはだいたい想像がつくが、美月は気づかないふりをして

 雲虎の問いに答える。

  「特にない」

  「えっ、ない!?」

  衝撃的な告白に雲虎は驚くが、この話にはまだ続きがあった。

  

  「ないと言うより…思いつかない。優しいとか力が強いってなると、そんなの普通のことで能力者

 だから当たり前のことだし。どこが好きと聞かれても何ていえば言いのかが分からない。私は…おか

 しい人間なのかもしれないな。好きな人のことなのに…」


  「別におかしくないんじゃない」

  「えっ…?」

  美月と雲虎しかいない部屋で宮木の声が聞こえてきた。まさかと思い、声がした方へと振り向くと

 そこには宮木隼士本人がいた。

  「宮木先輩、どうして…」

  「そんなこと今はどうだっていいでしょ」

  宮木は雲虎にそう言うと、美月の元へと歩み寄る。突然の登場に美月は『どうしよう』と今にも

 泣きそうな顔をしていた。

  「周りが僕達のことをどう思おうとそいつらには関係ない事なんだから、真面目に答える必要な

 んてないんだよ。適当に返しておけばそれで済む話なのに…まったく」

  「…」

  「まぁ、そういうところも含めて僕は美月のことを愛してるんだけどね」

  「…あっ」

  顔を真っ赤に染める美月を見て、雲虎は頬を真っ赤に染める。

   

  「雲虎。今から本部に戻って僕の仕事手伝ってね」

  「えっ!?」

  「ほらっ、さっさと戻って。文句は受け付けない」

  「…はい」

  雲虎は、宮木に言われてスタスタと部屋を出て行った。部屋には美月と宮木の二人きり。


  「ねぇ。これ、美月が作ったチョコ?」

  「そうですけど…」

  「食べさせて」

  「えっ…食べるんですか?」

  「早くして」

  「あっ、はい。ちょっと待ってください」

  『食べちゃいけないはずなのに…』と思いながらも、美月はアルミカップを剥がしてチョコを

 宮木の口へと運ぼうとすると右手首を掴まれてそのままパクッとチョコを持つ指ごと食べられてし

 まった。

 

  「…美味しい」

  「そっ、それは良かった…です」

  親指と人差し指と中指の三本がまだ解放されていない。理由は指に残っているチョコを舐めている

 から。


  「あの…そろそろ指、離してもらえませんか?手を洗いたいので」

  「嫌だ」

  「…後片付けしないと」

  「後でも出来るでしょ?」

  「…隼士さん。私、隼士さんの好きなところ分かりました」

  「…何?」

  「私が隼士さんの好きなところは…年上なのに子供っぽいところです」

  「えっ…」

  「私より大人だけど、やきもちを妬いたり、ホットケーキ作って食べさせてって頼んだり、一緒

 に寝ようって言ってるところが…子供っぽくて可愛いです」

  「かっ…可愛い?」

  「あとむぎゅっと抱き締められてる時、苦しいですけど…嫌じゃないです。あとは…えっと…」

  「もういいよ。美月の気持ちは十分に伝わったから」

  「…良いんですか?」

  「美月が僕のことを愛してくれてるって分かったからね。もう大丈夫」

  「…宮木さんがそれで良いなら…良かったです」

  「ねぇ?もう宮木さんって呼び方やめようよ。結婚したら美月も宮木になるんだから、隼士でいい

 よ。あと、敬語もいらない」

  「それはだめです。先輩後輩なのに…」

  「それなら姉ヶ崎兄弟だって同じでしょ?兄貴は晴飛兄さん、弟は雲虎って呼び捨て+タメ口で

 喋ってるのに、僕には出来ないって言うの?」

  「…隼士」

  「何?」  

  「…そっ、そろそろ本部へ戻らなくていい…の?」

  「戻るよ。もう少ししたら行く」

  「そうですか…あっ」

   敬語に戻ってしまった。


  「…じゃあ、夜仕事終わったらまた来るね」

  「分かりま…じゃなくて、分かった」

  「うん。じゃあ、行ってらっしゃいのキスして」

  「…」

  「早くして」

  急かされた美月は、宮木の右頬に軽くキスをした。だが、「違うでしょ」と言われた瞬間、美月

 は宮木に唇を奪われる。

  

  「じゃあ、行ってきます」

  「…行ってらっしゃい」

  こうして宮木は本部へ戻って行ったのだった。

  

  

  

  

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