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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――序章――
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第五話

 翌朝。宿で朝食を摂り、外に出た。徐に空を見上げる。綺麗な青空が広がっていた。朝から街は活気づいている。見ているだけで気分が良くなるのは気のせいじゃないだろう。本日は冒険日和である。


「む、待たせてしまったか?」


 同じく宿から出てきたクレアが心配そうに尋ねる。彼女は先に朝食を済ませた後、身嗜みを整えていたそうだ。何だかんだで宿もお世話になってしまった。頭が上がらない。


「いや、俺も今出てきた所。……本当にありがとう、宿まで手配してくれてさ」

「気にするなと昨日も言ったじゃないか。それに、今日は私をうんと楽させてくれるんだろう?」


 またも苦笑い。クレアが見せる表情は苦笑いばっかりにさせてしまっている気がしてならない。それでも楽しそうな表情に、少し照れてしまうのは口が裂けても言えない。


「おう、今日は大船に乗ったつもりでいてくれれば良いさ」

「ふふ、楽しみだ」


 口元に手を当て、微笑んでいる。楽しみ、と言うのは嘘じゃないみたいだ。ヴァンも釣られて笑う。ほんわかとした朝だ。


「む? そういえばヴァン、武器はどうするんだ?」

「ああ、それは後でのお楽しみ、かな」


 戯けてみせる。早速街に敷き詰められている石畳を歩き、ギルドへと向かう。昨日の失敗から学び、足に魔力は付加していない。クレアも後を着いて来ているようだ。


「気になったんだけどさ、この辺って王都じゃん? ランクの高い魔物なんて近くにいる訳?」

「王都付近には守護結界が張られているから近くには雑魚しか寄って来ないな」


 守護結界とは文字通り、設定した範囲に外敵を近寄らせない為の魔法だ。

 では『外敵』はどういう基準で判別されるのか。それは単純に結界そのものの索敵条件が魔物、魔人等の害を及ぼす存在に絞って作られているのだ。

 微弱なモノから大きなモノまで、全ての敵に結界を張るのはかなり負担が掛かる。少しでも負担を減らす為、一般人でも問題なく対処できる魔物は結界をすり抜けてしまう。広範囲結界魔法の弱点でもあった。


「ああ、もちろん使い魔は別だぞ」

「使い魔……?」


 またも初めて聞く言葉であった。


「む、これも知らなかったか、すまん」

「いや、良いんだけどさ、使い魔って何なの?」


 初めて聞く言葉で興奮気味になってしまうヴァン。こればかりはまだ抑えるのは不可能だと自分でも割り切っている。


「そっちの世界にも無属性の魔法はあるだろう。こっちの世界には無属性の中に『召喚魔法』と言うのもあるんだ。使用者の命令に従う。種族は犬や猫、妖精や精霊、中には魔物や魔人もいるしドラゴンや聖獣と高ランクの使い魔もいるんだ」

「え、すんごく気になるんだけど俺、使えるかな……?」


 ヴァンは魔法が使えない。召喚『魔法』もおそらく例外じゃなく使えないと判断した。使いたいのに使えない。最初に魔法が使えないと知った時は一週間程凹んだ苦い記憶が一瞬蘇る。


「いや、使えるはずだな」

「え、ホント? 今嘘吐かれたら泣く自信あるぞ?」


 もし彼が獣人だったら、間違いなく尻尾が千切れんばかりに振られているだろう。食いつき方にクレアが少し引いている程だ。


「ああ、召喚魔法は召喚する為の魔法陣が組めれば後は使用者の血と魔力を流すだけだからな。私が組める――」

「いよっしゃあ! よしやろうすぐやろう、早くクエスト受注して外に行こう!」


 そう言って丁度辿りついた冒険者ギルドの扉を勢い良く開け放ち、すれ違った冒険者に驚かれていた。彼も恥ずかしかったのだろうか、すれ違う冒険者に頭を下げていた。


 朝もギルドは賑わっている。もはや酒を飲んでいる者もいれば談笑しているパーティもちらほらと。ギルドに休日はない様子だ。

 受付に目を向けると、昨日対応してくれたリリンが居た。


「リリンさん、おはようございます!」

「おはようございます、ヴァンさん。今日はもの凄い元気ですねえ」


 眠そうだがニコニコと、変わらない表情の為もしかすると元々がこういった人なのかもしれない。分け隔てなく親しく接してくれる人当たりの良さは尊敬する。


「おはようリリン。今日はAランクかSランクの依頼があれば嬉しい。もちろんヴァンと組む」

「ありますよお。Aランクでしたら三件、Sランクですと一件ですねえ。ヴァンさんと組むなんて見る目あると思いますう。わたくしが言うんです、間違いありませんー」


 ギルドの受付嬢であるリリン・シュリンザーは一日に何百、何千と様々な種族を目にし対応する。彼女は職業病とも言うべきだろうか、殊更『見る目』に関しては誰にも負けない自信があるのだ。


「む、リリンがそこまで言うとは……。お墨付きだなヴァン」


 クレアが差し出された依頼書に目を通しながら伝える。


「ん? そうなの?」


 ありがとう、とリリンに笑いかけるヴァン。お礼を告げるとクレアが見ている依頼書に目を向けた。ヴァンの目に止まったのは――


「んん! これにしよう」

「ベヒモス……か。Sランクだな」

「んー、お二人ならさして問題ないでしょうねえ。それに完遂したら間違いなく特例でヴァンさんのランク上がりますよお?」


 どこまでもおっとりとしたリリンの反応はどこまで本気かわからないが、実際にクレア一人でもベヒモス相手ならば少し時間が掛かる程度だ。


 場所は昨日と同じく『ゼイレクアの森』。森の中でも中腹部、湖の近くに出没していると依頼書に記載がある。此処からならば急いで三十分程度だ。


「んじゃあ依頼開始といこうぜ。その前に召喚もしたいし」

「ああ、そうだな、ベヒモスくらいならどうってことないだろうし、召喚もあるから早く行こうか」

「あらあ、初召喚ですかあ。良い子に会えるといいですねえ」


 行ってらっしゃいとニコニコ笑顔のリリンに言われ、ヴァンでもクレアでもなく、近くにいた別の男パーティがだらしない表情をしていた。




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