秋・自白
フィラとサクリはしばらく貴族の常識やマナールールを話した。どれもフィラにとっては複雑で覚えられそうにない。その家の色というものがあるらしいが特殊な事例もあるので一概にそうと言えない事や、貴族の令嬢が話す言葉は大体話している事の反対の意味を持っているなどを教えてくれた。
「お、覚えるの難しくない…?」
「勝手に身につくから大丈夫」
サクリはグッと親指を立てて紅茶を飲んだ。フィラもあとから紅茶を飲もとしたが、サクリのように上手くはいかない。持ち手が細いのだ。簡単に折れてしまいそうである。
「…てか思ったんだけど。フィラが恋すればいいじゃん」
「ん?何の話?」
「恋に落ちている男探すより早いし、フィラが恋した相手を落とせばいい!完璧!!!」
「サクリちゃん…何言っているのかさっぱりわかんない…」
「つ・ま・り!!フィラ、今好きな人いる!?」
「いない」
フィラの即答ようにサクリはとほほと肩を落とした。体重を全て預けようるようにしてソファ荷物よりかかる。
フィラはそもそも恋愛的に好きという意味が分からない。分からないものに恋をしろと言われるのは困るのだ。
「…そもそも好きって何」
「好きって…なんだろ。ドキドキするとか?あー、ワクワクするとか?」
「じゃあわたし、お出かけに恋してるんだ…」
「違う!絶対に違うから!!そっちに行かないで!」
サクリの壮大な声にうわっとフィラは飛び跳ねる。サクリは突然、ベルをチリンチリンならし、使用人を呼んだ。
「お嬢様お呼びでしょうか」
「恋をした時の感想教えて」
「……え?」
使用人は突然の事に困っていたがお嬢様のサクリのためを思ったのかポツポツ話し始めた。初恋の時はその人ばかり目を追っていた。一喜一憂も激しかったし、期待もしていた。毎日努力をしていた…との事だ。
「つまり…最近目で追う相手こそフィラの好きな人だ。誰?」
「目で追う…」
フィラが最近目で追った相手と言うとテイルだ。虫を捕まえるために家中をドタバタかけていた。
「…弟だ」
「何言ってんの。家族とバ先の先輩以外で考えてよ。弟くんとかまじ意味わからん」
「うーん…誰だろ」
フィラはコテンとして考えてみる。フィラが真面目に目で追った人物といえばやはり弟。次にレオだ。最近、女子生徒と遊んでいるがその分喧嘩も多いらしい。そのため、少し心配で最近は追い気味だったかもしれない。だが、これは恋愛とは言えないだろう。理由はそのままただ心配だったからだ。
あとは担任の教師も目で追っていた。指輪がついていたのだ。フィラの最終手段が一つ消えたので恨めしい気持ちを送ろうとしていたのだ。担任の望む結婚だったのかは不明だ。
「…ほんとに誰だろ」
フィラはうんうん唸りながら困っている。恋だの愛だのは同級生達の話すことでしか知らない。恋を題材にした本もあるようだが、平民だからという理由で図書室に立ち入ると嫌がらせをされる。そのため、フィラは基本的に図書室には出向かない。
「この人いいなぁとか、この人と一緒に過ごしたいなぁとか無いわけ?本とか読む?」
「うーん。本はサクリちゃんから借りた殺人ミステリーしか読んでない…」
サクリの本のセンスは本当に令嬢か疑うものだ。基本的に令嬢はハッピーエンドの恋愛を好んでいる。だが、サクリは恋愛要素を一切含んでいない殺人ミステリーを好んでいる。恋愛を読んでもどちらかが死別する結末なものばかりだ。
フィラが借りているのは基本ミステリーだ。本の知識がサクリによって偏り始めている。
「あ、かっこいい人とかいないわけ?アンタがかっこいいって言う人知りたいんだけど」
「かっこいい…」
最近思った相手は確かにいる。だが、それを口に出すと何故か良くない気がする。
「…サクリちゃんとか」
「ふざけてる?メイド!クッキーとフィナンシェ!!」
サクリの声は怒っているように聞こえるが機嫌は良くなった様だ。ルンルンとメイドにお菓子を要求している。
一方フィラは少し引っ掛かりを感じていた。
意外とフィラは可愛い、かっこいいとは素直に言う方だ。今回は何故か言葉が詰まってしまった。誤魔化してしまった。
(…?なんでだろ)
フィラは気にせずに紅茶のカップをビクビクしながら持ち、飲む。ダージリンというものらしい。
メイドがお菓子を持ってくると共にサクリはズイっとフィラに近づく。
「で?本当は?」
「!?」
フィラは突然の事にむせてしまう。まさかそんな事を聞かれるとは思っていなかったのだ。咳き込みはしばらく続き、落ち着くとフィラが恨めしそうな視線をサクリに送った。
「さ、サクリちゃん…な、なんのこと…」
「とぼけんなぁ?アタシとフィラの仲。隠し事は通じないよぉ?さぁさぁさぁ!!答えろぉぉ!!!」
「ひぁぁ」
フィラはサクリに覆いかぶされくすぐられる。フィラはくすぐったいことに弱いためサクリに抵抗するが上手くいかない。サクリはフィラは吐き出すまで続けるつもりなのだろう。よく分からない感情とくすぐったい事なら簡単に天秤は傾く。
「こ、降参!はな、はなすからぁぁ。ひゃ!や、やだぁぁ…」
「はいっ。言質頂き!」
サクリが手を話すとグデッとフィラがソファに倒れ込んだ。人の家でも礼儀が良いフィラが倒れ込むのはレアだ。どうにかしてこの姿収めたい!とサクリは騒いでいる。
「で?だーれ?レオ?」
「なんでレオくん…確かに顔はいいと思う…」
「性格はカスって事ね」
「違うからぁ…」
フィラはひーひーと息を整えつつ、涙を拭う。サクリはくすぐる体勢に入った。中々言わないからだろう。フィラはギュッと身を抱きしめる。
「さーん」
「え、数えるの!?」
「にーい」
「早い!ねぇ、待って…やっぱりなしとか…」
「いーち!!」
「あーもうっ!!マリノくんだって!」
一瞬静寂が訪れた。フィラは恥ずかしくなりうぅと顔を隠す。サクリはキラッキラした目をしてフィラに詰め寄る。
「まじで!?!?」




