第9話 朝
目覚ましが鳴る前に、湊斗は起きてしまった。
その原因は詩羽にある。
「…ん」
「…」
昨日の安心感が一気に来たことによって、詩羽はご飯を食べた後、お風呂に入らずに寝てしまった。
湊斗はそんな詩羽を背負い、自分のベッドに優しく寝かせたのだが、湊斗もそのまま眠くなってしまい、ベッドに突っ伏して寝てしまった。
普通だったらそのまま、詩羽がベッドで寝て、湊斗が突っ伏している光景なのだが…
そのベッドに、詩羽と湊斗が川の字で寝ていたのだ。
詩羽が時々起き、徐々に徐々に湊斗のことをベッドに移動させたのだ。
湊斗は起きそうになるも、ギリギリのところで起きれなかった。
(…やばい)
湊斗は、目の前に可愛い顔があったことにより、心臓がバクバクと鳴り始める。
詩羽に気づかれないように、ゆっくりと体を動かし、反対側へ移動した。
そしてゆっくりと体を起こし、ベッドから離れ、床に足をついた。
「んー…」
湊斗が起き上がったことで、詩羽の体が少し羽毛布団からはみ出してしまったことから、詩羽は羽毛布団を小さな手で掴み、もう一度体へかかるように戻した。
そのような光景を湊斗は見てしまい、唐突にも笑ってしまった。
口をふさぎながら笑って、温かい目で詩羽を見る湊斗。
(本当に、可愛いな)
湊斗はそう考えるが、ぶんぶんと顔を左右に振り、ピシッとほっぺを叩く。
そしてドアを開けリビングへと向かい出した。
◇ ◇ ◇
詩羽はカーテンから少し漏れる光で目が覚めた。
ベッドからゆっくりと体を起こし、寝ぼけた目で周りを見渡す。
「…?」
寝起きだからか、今どこにいるのかがわからなかった。
足を床につけ、もうそろそろ9月に入る頃だからか、冷たい感触を味わう。
だが、少し暖かい感触も感じられた。
(…あぁ、)
(湊斗の家か…)
詩羽はそんな理由もないことを思ったのだ。
そして眠い目をこすりながらふらふらとリビングへ向かった。
ドアがガチャリと開く。
湊斗はその音でドアのほうを向いた。
「おぉ詩羽。おはよ。」
「…」
詩羽は湊斗のほうを見る。
その見ている顔が眠たそうに見えたことから、湊斗は「もう少し寝ておけばよかったのに」と料理をしながら言った。
「…朝ごはん、作ってくれてるの?」
「そうそう。今日、姉さんと母さんが朝から友達の家に行ってるし、父さんも仕事らしいから」
「…」
詩羽は湊斗の言葉に相槌もせず、席に座った。
「よっし、完成。」
席に座るのと同時に、湊斗の料理が完成した。
二人分の料理をお皿に盛り付け、おぼんでテーブルに運ぶ。
「ちゃんと『いただきます』言えよー」
そう言いながらキッチンに戻り、エプロンをかけた湊斗。
その声に返事をしようとした詩羽だったが、テーブルに並んだ朝ごはんを見た瞬間、言葉を失った。
湯気の立つご飯、焼きたての目玉焼き、温かい味噌汁、そして手作りのたくあん。
あまりにも「普通」で、あまりにも「当たり前」で――けれど詩羽にとっては遠ざかっていたもの。
「……っ」
胸が詰まる。涙が視界をぼやかし、次の瞬間にはぽろぽろと頬を伝っていた。
「え、ちょ、どうした!?」
慌てて駆け寄る湊斗。
「い、いや……こんな朝ごはん……久しぶりで…」
湊斗は急いで詩羽のところに行き、背中をさすった。
まだ肌寒いリビングに、鼻をすする音が響く。
湊斗が起きてすぐに暖房を入れたが、まだ肌寒い空気は残っている。
湊斗は自分の部屋へ行き、上着を持ってリビングに戻った。
その上着を詩羽にかけ、肩を優しく叩いた。
「きょ、今日からはこれが普通だからな。……泣くなよ、な?」
湊斗はティッシュを詩羽に渡し、微笑みながらそう伝えた。
詩羽はティッシュで涙を拭き、鼻水をかんだ。
「…湊斗」
「ん?どうした?」
「…ありがと」
詩羽はぐすっぐすっと鼻水をかみながら、そう湊斗に伝えた。
湊斗は笑顔でこう言う。
「おう!」
「あっそういえば目玉焼きは何派?」
「…ソース」
「え!?…俺塩コショウなのに…」
◇ ◇ ◇
「うーん…」
湊斗の部屋にギターの音色が響く。
その音色は綺麗で、でもどこか物足りない、そのような音色だった。
詩羽はリビングで湊斗が持っていた漫画を読んでいた。
でも、その音色が気になり、湊斗にばれないようにゆっくりと部屋に近づいた。
(湊斗には部屋に入るなって言われたけど…)
そう頭をよぎったが、詩羽は湊斗の部屋に行こうと決めた。
ギシと少しだけ床が鳴り、詩羽は驚き、足を止めた。
「なーんか違うんだよなぁ…」
でも湊斗は夢中になっていて、その音に気付かなかった。
詩羽は胸をなでおろし、またゆっくりと湊斗の部屋に近づいた。
ドアの前まで行くことができた詩羽は、一回深呼吸をし、恐る恐るそのドアを開けた。
その部屋は、ギターの音色で輝いているように見えた。
詩羽はさっきまでいた部屋とは違って見えて、興味が湧いた。
ゆっくりと近づいていた足は、一歩ずつ、希望を乗せてその部屋へと向かっていた。
湊斗はギターを片手に、机に広げた楽譜を見つめながらメロディを確かめていた。
「やっぱ歌がないと、完成しねぇんだよなぁ…」
「だからといって俺が歌ってもしっくりこないし…」
小さく呟いたその言葉に、詩羽の胸がドキりと鳴った。
彼女の目に飛び込んだのは、まだ歌詞が書き込まれていない真っ白な五線譜。
思わずその楽譜を覗き込み、気づけば、口が勝手に動いていた。
「……♪」
小さな声で、けれど震えることのない真っ直ぐな歌声が部屋に響く。
湊斗の指が止まり、驚いた顔で詩羽を振り返った。
その瞬間、二人の間に――確かに「音楽」という光が生まれていた。
投稿が1カ月ほど遅れてしまいました!本当に申し訳ありません!
学校が始まって、テストとか受験勉強とかが忙しくて書けていませんでした…本当に申し訳ありません。
今日から多分(?)本気で書くと思うので、よろしくお願いします!
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これまで宣伝などしていませんでしたが、やっぱりしてくれると嬉しいです(笑)
よろしくお願いします!




