第10話
「……朝なのに、なにも変わりないな」
目覚めた俺は外の景色を窓越しに見て呟く。
眠りにつく前と変わらずに日はでておらず、この街は人工的な光で輝きを保っている。
常に夜の街、おそらくはそういう設定なんだろう。
「時間的に、クリスと会うまで一時間か」
俺は布団の上であぐらをかき、ウインドウを表示させ、スキルや魔法、様々な情報を頭に詰め込む。
自分に出来ることを考え、実践すること。それがこの世界で生き残るための秘訣。
暇な時間があればこうして、逐一情報を得ようとしなければいけない。スキルはもちろん、ヘルプの記載すら見落としは出来ない。俺は俺の命だけでなく、クリスの命も抱えているのだから。
「……とりあえず、重要そうなスキルはこれくらいか」
めぼしいものをピックアップし頭の片隅に置き、部屋を出る。待ち合わせ場所につくと、10分前だと言うのにクリスはすでに待機していた。
「あ、おはようございますアクアさん。よく眠れましたか?」
「……まあな。疲れていたし、ぐっすりだったよ」
本当は消えてくれない罪悪感に苛まれ、最悪な睡眠だったが、それを言う必要はない。
「それじゃ、今日は何をしましょうか?」
「とりあえず待つしかないだろ。宝探しの制限時間があと6時間ほど、それまでは適当にぶらついて……いや、街の外に出ればモンスターがいるかもしれない。レベル上げもいいかもな」
「なるほど、こんな状況でも生き残る道を探るなんて、さすがです!」
過大評価著しいクリスの発言は置いておいて、レベル上げできるかどうかは非常に重要だ。このゲームの攻略法、それは俺たちがこのゲームで力をつけることだ。
確実にクリアできるという保証はないが、生存の確率が上がることは間違いない。
「それじゃあ俺は街の外に行く。クリスはその辺で遊んでていい」
「いや、そんなことするわけないじゃないですか! アクアさんが頑張ってるのに一人だけ遊ぶなんて、そんな怠惰なことしません!」
「はは、冗談だよ。クリスも一緒に来てくれ」
「もう、そんな冗談はやめてください」
冗談ではなかった。戦いもしないクリスはいない方がよく、また俺の心情的にもクリスはいない方が良い。モンスターとの戦闘中には逐一クリスが無事かどうか確認しなければいけないし、なにより一人でいたい気分だった。
ただ無心でモンスターを殺し続ければ、この罪悪感も薄れるのではないかと思い。
だがクリスという仲間を失うこと、それは死の恐怖を増長させることになる。今は罪悪感に苛まれながらも、行動を共にしなければいけない。
クリスにとって俺は頼りになる存在、支えなのだ。弱い部分を見せることは出来ず、強い人間を演じなくてはいけない。
「っと、その前に武器屋だな。ナイフも使い勝手は悪くないけど、やっぱりこれからの戦闘はリーチが必要になる」
「私は小回りが利いた方が強そうに見えますけど……」
「ま、武器の好みは性格によって違うからな。俺は長物の方が今までのゲーム経験から得意ってだけで、クリスはクリスで好きな武器を選べ」
戦いもしないのに、だけどな。
ジョークとして言ってしまおうかとも思ったが、嫌味に聞こえそうだしやめておこう。
「確か街の北西に武器屋があっただろ? そこに行ってみるか」
「はい、なんなら私のお金を使っても構いませんから」
「んなことしないよ。お金は自分のために使え」
いざという時、戦わなければいけない時が来るのかもしれない。その時、ナイフ一本では心もとなさすぎる。武器でないにしても、防具の一つでもあれば、俺の気も多少は楽になる。
そして、武器屋と防具屋に赴いた俺たちは各々好きなものを購入した。
クリスの買った物が武器でも防具でもなく、道具屋で売っているサポートアイテムばかりだったことは少し気になるが。
「さて、必要なものは揃えたし、モンスターを探しに……」
色々と購入して街の外にでも足を運ぼうとした直後、突如として俺たちの体が光に包まれる。気が付くと、目の前には再び、巨大な何かがそびえたっていた。
こいつは、カルセドニーか。
『みなさんおはようございます。この場に転送された時点で気付いたかもだけど、見事、全ての宝が見つけられました。はい拍手~』
どこからかパチパチと手を叩く音が聞こえるが、プレイヤーの物ではない。くだらない効果音を流しやがって。
だがまあ、全ての宝が見つかったこと、それ自体は喜ばしいことだ。犠牲を最小限にとどめることが出来たのだから……。
『今この場には第一の地域をクリアしたすべてのプレイヤー、合計2476人がいます。本当にお疲れ様でした』
「…………は?」
カルセドニーの何気なく発した言葉で、俺は凍り付いた。
こいつは今、合計2476人と言った? バカな、ありえない。
だって宝の数は、2412個だっただろ? なら当然、生き残ったプレイヤーも2412人のはずだ。なのに、2476人のプレイヤーが生き残っているはずがない。
見れば、何人かも俺と同じ疑問を抱いているようだ。
しかしその疑問を誰も深く考えていない、もしくは単なる数え間違いだったのかと思い、カルセドニーに問うことはしない。
『それではこれから次の地域での課題を発表します。心して聞くように』
生唾を飲む音が聞こえる。ほんの数瞬の、間と呼ぶには短すぎる時間が、今の俺たちにはたまらなく苦しい。にもかかわらず勿体つけるようにカルセドニーは、たっぷり5秒の間を持って答える。
『次の課題、それは…………お金を稼ぐことです』
……金か。なんとも、RPGらしい課題だ。
『お金の稼ぎ方には複数あります。モンスターを倒す、素材を集めて売る、アイテムを探す、カジノで稼ぐなんて手もあるね。おすすめはしないけど』
カルセドニーは指を折りながら説明をしている。ご丁寧にお金を稼ぐ例を複数提示し、プレイヤーの道しるべを示しながら。
最初の地域での気付きにくいヒントとは打って変わって、俺たちに親切すぎる。
が、稼がなければいけない金額を聞き、親切心など皆無だということに気づく。
『1人につき10万ギル、これが最低ラインだ。もしも制限時間の48時間以内に10万ギルを上回っていなければ、その時点でログアウトになるよ』
「10万……だと?」
見ると、大抵のプレイヤーは10万という数字にピンと来ていない様子だ。しかし俺は、モンスターを狩りお金を多少なりとも稼いでいたから、それがどれだけ途方もない作業か知っている。
モンスターを1時間倒しまくって稼げるお金は大体2000ギル、素材を売ったとしても2500ギルといったところだ。
制限時間が48時間ということは、休息などを考えれば実働30時間ほど、つまり75000ギルを稼げればいい方ということ。
無論、レベルが上がり強いモンスターを相手取ることも増えれば、もっと効率よく稼ぐことは出来るだろう。だがそれでも、かなりギリギリな気がする。
それに俺の場合、クリスの分も稼がなければいけないのだ。一人10万という数字は、絶望的だ。
『あまりピンと来てない人も多いみたいだけど、10万ていうのは結構大変な数字だからね。ま、およそ正攻法じゃ難しいかもしれない』
そう、正攻法じゃ難しい。ならば、宝探しの時のように、何か攻略法があるのかもしれない。
俺はカルセドニーの言葉を一言一句聞き逃さないように、耳に意識を集中させる。
『とりあえず言えることは、カジノはおすすめしないってことだね。目の前の利益だけに目を囚われず、もっと広い目を持って行動することがお金を稼ぐ近道だ。現実でもゲームでもね。楽して稼ごうなんて思っても、うまくいく人間なんてほんの一握りってことを理解しておくんだ。お金は額に汗を流して稼ぐものだ』
「……これも、ヒントか」
今の言葉、深く考えればヒントと捉えることもできる。そして、俺がすべき行動も少しだが目途が立った。ヒントかもしれないカルセドニーの言葉で、少しだが希望が見えた。
当たっていれば、の話だが。
『それでは始めてもらおう……と言いたいところだけど、今回はみんなに一つお知らせがあるよ。君らが第一の地域で手に入れた宝、これはこの先の戦いで役に立つ代物だ。次の地域についた瞬間に送られるから、すぐに確認した方がいいよ』
宝、か。この場にいる全員が手に入れたのならアドバンテージにはならない。だが今回の課題は俺が頑張ればそれでいい、そういうものだ。
宝探しと違ってクリア者に制限がない以上、プレイヤーの優位に立つ必要性はないのだ。
『じゃ、すぐに転送するから。さっきも言ったけどゲームの制限時間は48時間、それを過ぎれば問答無用でゲーム終了だ。ちなみに、所持金が10万を超えた時点で休息の街に移動することが出来るから、頭の片隅に入れておくように。それじゃ、仲良く頑張ってね』
もはや定例文なのか、仲良くという言葉を最後に俺たちの転送が開始された。




