浩輔の成長
「ねぇ、こーすけはなんで飛ばないの?」
「へ?」
朝食の最中、水菜はふと疑問を浩輔にぶつけてみた。
思ってもみない言葉に浩輔は思考停止する。
「オレ、飛べるの?」
「風の能力者なんでしょ?」
「飛べるの?」
「いや、俺達に聞かれても。」
「飛べるの?」
「私飛べるけど?」
浩輔の言葉に順一と秋は苦笑、水菜に至っては逆に首を傾げている。
「マジで!?」
「ミィは飛べるんだ?」
「うん。」
「どうやんの!?」
「どうって…気流操作すれば簡単じゃない?」
水菜の言葉にテンションの上がっていた浩輔はピタと止まる。
「気流操作?」
「うん。」
モグモグと朝食を食べ続ける水菜はコクンと頷く。
「…そんなの出来んの…?」
まだ、そこまでのレベルに達していないのであろう。
浩輔は自分の手のひらを見つめた。
「ご飯終わったら練習してみれば?」
「おう!」
水菜の言葉にご飯を掻き込む浩輔だった。
◇◇◇
朝食後、四人は外に出ていた。
場所は河原の側の原っぱ。
そこならば魔獣も少なく、出てきたとしても秋と順一だけで事足りるという水菜の考えだ。
「まずは…今何が出来るの?」
「なにって…カマイタチ?」
「それだけ?」
「うん。」
水菜と向かい合って座る浩輔を見て順一は思う。
「あの二人、似てるなぁって思うんだよね。」
「ミィと浩輔君?」
「うん。変に素直な所とか。」
「そう言われてみれば…似てるね。」
等と言われてるとも知らず、二人は能力の事について話している。
「なんて言うのかな、気流を感じるっていうのかな?そんな感じ?」
「曖昧だな…」
「仕方ないじゃん、感じたままに使って出来たんだから。」
「感じたまま…ねぇ。」
とりあえずは目を閉じてみる浩輔。
…だが。
「ダメだ、分からねぇ。」
「早いね。」
「大体、ミィはオレ達の前で飛んだことねぇだろ。」
「飛ぶ必要無かったし。」
「見本くらい見せてくれても良いんじゃねぇ?」
浩輔の言葉に目をパチパチさせる水菜。
最近はフードを被っていないのでよく見える。
「見本?」
「見本。」
「気流を操るの?」
「んにゃ、飛ぶ方。」
浩輔の言葉に水菜はチラリと空を見上げる。
不意に起こる風。
そして。
浩輔の目の前にいた水菜はフワフワと浮いていた。
「おおお!」
「ま、こんなもんかな。」
そしてストッとまた地面に降りる。
浩輔は水菜の視線を受けもう一度目を閉じた。
◇◇◇
あれから既に一時間近く。
なんの進歩も進展もなく、少々浩輔は苛立っていた。
「(なんでなんにも分からねぇんだ?)」
一人考え込む浩輔の後ろ姿を見て水菜も何かを考えていた。
そしてニヤリと笑う。
「…なに、考えてるの?」
水菜の表情に少し嫌な予感がした秋。
「いや、たまには思いっきり力を使わないとねって思っただけ。」
その言葉に秋はいつぞやを思い出して冷や汗をかく。
「まさか…」
この後起こりうるであろうあれこれを想像する秋。
水菜はニヤリと笑ったままで浩輔に近づいていった。
「どうしたの?」
「…うん、ちょっと…」
何も知らない浩輔と順一。
水菜が近付いているのに気付かない浩輔。
順一は二人のやり取りを見ているが何も分からない訳で。
「こーすけ。」
「ん?」
水菜はニヤリと笑ったまま、浩輔を呼んだ。
「たまには全力で力を使ってみよー」
「は?」
本当にいつぞやを思い出す秋。
この後の浩輔に起こる悲劇(?)を考えて一言。
「頑張ってね。」
「「は?」」
見事に浩輔と順一の声が重なる。
そして次の瞬間には水菜と浩輔の姿はそこにはなかった。
「えっと…なに?」
「水菜お得意の荒療治、ってとこかな。」
乾いた笑いを溢す秋に浩輔の身を案じた順一でした。
◇◇◇
さて、消えた二人はと言うと。
「は…はぁぁぁ!?」
「さて、頑張んないと地面とチューだよー」
「地面とチュー所の話じゃねぇだろ!?死ぬだろ!!」
「それは頑張らなかった結果だねぇ。」
水菜の瞬間移動によってだいぶと高い空から落ちている。
「ちょ、マジでヤバイだろ!!」
ただ慌てるだけの浩輔に水菜は言った。
「なんでそんなに慌てる必要があるの?」
「なっ…人を落としておいてっ」
しっかり浩輔を見据え水菜は言い放つ。
「自分の力をちゃんと認めていない…飛べないって思い込んでるあんたに、力は働いてくれないよ。」
「っ!」
「なんで、自分の可能性を否定するの。あんたは風使い、飛べないなんてないはずだけど。」
そう言うと水菜は消えた。
いや、風を使い浮いたのだ。
その間にも浩輔は落ちていく。
とにかくかなりの高度だったのだろう。
あれだけ水菜が話している間も落ちていたのに、まだ施設は小さく見える。
『なんで、自分の可能性を否定するの。』
つい今しがた聞いた水菜の言葉が頭を過る。
「別に否定的な訳じゃないっつの…」
その身に風を感じながら、浩輔はゆっくりと目を閉じた。
◇◇◇
「やっぱり…」
二人が消えて数分。
落ちてくる浩輔を視界に捉え秋は半眼になった。
「あの、落ちてくるんですけど。」
「大丈夫…だと思うけど…」
「…本当に?」
「…多分。」
近くに水菜がいないのでなんとも言えない秋。
とりあえず二人は浩輔が落ちるであろう場所まで走る。
と、いきなり風が強くなる。
「わっ!?」
「きゃっ!」
あまりの強さに二人は足を止めざるを得なかった。
そんな二人の上空に浩輔が。
「おっ…ととっ…これ、かなり難しいじゃんか…」
「浩輔!」
「おー、順一。」
「飛べたんだね!」
「おうよ!」
漸く気流を操れた浩輔に二人は駆け寄る。
「所でミィは?」
水菜の姿がないので首を傾げる二人。
そんな浩輔も首を傾げる。
「途中でいなくなったけど…」
と、いきなり落ちてくる何か。
「「なに!?」」
「なんだ!?」
と、よく見ればそれはこの前も見た大きな鳥の魔獣。
それが氷付けにされている。
「あー、もう…びっくりした。」
「ミィ!」
氷付けの魔獣に降り立ったのは水菜。
「びっくりした。じゃねぇよ!なんなんだよこれ!?」
「いや、浮いた後襲われて。」
「「襲われて!?」」
「で、勢い余って冷凍してしまったのよね。ま、トッキーへのプレゼントにしよう。」
念力を使い氷付けの魔獣ごと浮く水菜。
「やっぱこっちのが楽だねぇ。」
フヨフヨ浮く水菜に言葉を無くした三人だったとか。
◇◇◇
夜、いつもの如く浴場の休憩室にて。
「ふっはー!!」
「時津さん、泣いてたね。」
「泣いて喜ぶ人初めて見たよ。」
「てかミィ氷も持ってんのかよ。」
「うん。この前の暴走からこの姿でも使えるのが多くなったからね。」
今日も見事な弧を描き、ビンはゴミ箱へ入る。
「お見事。」
「フフン。」
順一の称賛に腰に手を当てて胸を張る水菜。
「でもミィって凄いよね。色んな能力があってさ。」
「そうだよね。」
「そうでもないよ。」
順一と秋が二人で笑いあう。
そんな水菜は小さく呟く。
「…あったって強くなきゃ意味無い…」
談笑する二人には聞こえてなかったのだろう。
変わらず談笑していた。
ただ一人浩輔だけがその呟きを拾っていた。
もう一度、よく見てみるも水菜の様子は普段と変わらないものであった。




