前編
前中後編かもしれないです
一 朝の訪ね人
朝のSHRが終わり、一限目の予鈴まであと十分。なんだかざわざわしている一年三組の教室のドア付近で、私を呼ぶ声がした。
「結衣!いるか⁈ちょっと来てくれ!莉子ちゃんも!」
喧騒の中心にいるのは私の兄の花崎翔のようだ。ロッカーに荷物を入れていた谷塚莉子とアイコンタクトをとる。
私と莉子はクラスメイトの視線を気にせず教室を出て兄が待つ廊下に出た。
廊下には、兄の後ろにもう一人の生徒が困った顔で立っており、その人が注目を集めているのだと分かった。私は一旦兄に声をかける。
「どうしたの?忘れ物でもした?」
同じ高校に通う兄は、よく私のところに割り箸やペンなどの忘れ物を借りに来る。
「いや、今回はそうじゃないんだ。俺の友達のこいつのことなんだけど…。」
“こいつ”は小さく微笑んで私と莉子に会釈した。
私はこの生徒を知っている。我が校の前生徒会長だ。多くの生徒から慕われる有名人であるが、その理由は、今彼に注目している女子生徒の恍惚とした表情からも明らかだ。芸能人と見紛うような端正な顔立ちにスタイルも良く、身長も180cmはあるだろう。その外見で中身も聖人のようだと評判で、アイドルのごとき人気と知名度は彼を生徒会長にまで推しやった。三年生になって会長を引退してからも彼の人気は止まるところを知らず、私の耳にもその噂は入ってくるほどである。
「友達の八木崎颯太、俺と同じ三年生だ。こないだまで生徒会長をやってたから知ってるよな。」
「どうも、初めまして、翔の妹の花崎結衣です。こっちは谷塚莉子。」
莉子も初めまして、と挨拶した。
「実はちょっと困ったことになって、莉子ちゃん……とついでに結衣の力を借りたいんだ。俺ももちろん力になりたいけど、自分の受験で正直手一杯なところもある。だから結衣たちに相談に乗ってもらおうと思って……」
『ついでに』に引っかかりを覚える私を抑えながら莉子は、「もちろん。私たちで良ければ力になります。」と微笑む。
「良かった。颯太、俺は莉子ちゃんが小さい頃から見てるけど、とても頭が切れる子なんだ。うちの妹も、突っ走るところがあるけど情に厚いし行動力もある。二人なら力になってくれると思う。俺もできるだけ協力するし。」
「ありがとう。気持ちだけで充分だよ、翔くんは大切な時期なんだから僕のことより自分のことに集中してほしい。僕のせいで翔くんも〜なんてことになったらそっちの方が嫌だよ。」
「……わかった、力になれなくて悪い。莉子ちゃん、結衣、頼む。」
“ついで”扱いから脱却して機嫌を直した私は快く相談を引き受けた。とは言え、込み入ったことですぐには説明できないとのことで、ひとまず今日の昼休みに中庭に集まることになった。
予鈴が鳴って教室に戻る。クラスメイトたちからの「今の八木崎先輩だよね⁈」「結衣たち知り合いなの?」といった質問攻めに曖昧に返しながら、相談の中身について考えていた。
二 始動
ほとんど上の空で午前中の授業をやり過ごし、莉子と連れ立って教室を出る。
一昨日まで降り続いた雨のせいで冠水していた中庭も、昨日の一晩でだいぶ乾いたようで、テラス席には座れそう。とは言え、雨が降るたびに通行止めになる南棟と北棟を繋ぐ小道は、未だ湖のようで、大雨の影響を多大に受けている。兄と元生徒会長は先に中庭に着いて乾いたベンチに座っており、私たちの姿を見つけて軽く手を挙げた。
テーブルを挟んで向かい側のベンチに座る。
「さっそくだが……経緯を説明しよう。食べながら聞いてくれればいいから。」
私と兄が広げているお弁当は中身が同じなので若干の気まずさがある。莉子はサンドウィッチを、八木崎先輩はおにぎりを食べている。
「えーと、今の時期はちょうど指定校推薦が決まる時期なんだが、その選考に当たって重要な書類、成績とか校内の小論文とか校内活動とか、さらにそれらの評価が記載されている書類が入った封筒が、進路指導室に保管されていたんだと。その重要な書類が、昨日の放課後に急遽行われた職員会議の間、進路指導室の金庫の鍵を閉め忘れたために、触ろうと思えば誰でも触れるようになっていた。この時点で俺は教員の失態だと思うけどな。それで、その書類ってのが推薦を受けたいヤツ全員分じゃなくて、颯太と同じ志望校のヤツらの分、厳密には颯太を合わせて二人分だけだそうだ。そんで、察しはついているだろうが、その封筒に開封された跡があり、そのことに教師が気づいたのが昨日の職員会議が終わった後。慌てて周りを見渡したら、ちょうど下校するところの颯太が見えたって言うんで、その教師の野郎は颯太が犯人だって決めつけてんだよ。証拠なんてほとんどない。進路指導室の隣が生徒会室だからーとか、少なくとも職員会議が終わる時間までは颯太が校内に残っていたのは事実だろーとか、意味わからんこじつけで犯人に仕立て上げようとしてる。そんなの誰が信じるんだとは思うが、封筒が開けられていたのは事実らしいし、疑わしい状態で校内選考に進んだら心象は悪いに決まってる。そういうわけで、なんとかこいつの疑いを晴らしてやることはできないか、っていう相談なんだ。」
私も莉子も黙って話を聞いていた。
「僕はそんな重要な書類が進路指導室に保管されてることも知らなかったんだ。今朝登校したらいきなり呼び出されてそんな話をされて。校内の選考会が来週明けてすぐにあるから、それまでになんとか無実を証明できないと推薦は絶望的で……。翔くんも言ってくれたけど、流石に証拠もないのに僕を犯人として何か罰を与えたりは出来ないと思うけど……。」
人気の元生徒会長は自分のことになると強く出られないタイプらしい。ほとんど諦めたような顔でしょんぼりと続けた。
「週明けすぐ⁈今日、水曜ですよ!」
「そう、時間が無いんだ。犯人を見つけろなんて言わないから、こいつの無実をなんとか証明できないか?お前たちなら何か良い案も浮かぶんじゃないかと思って……。何か質問があればなんでも聞いてくれ。」
私は大きく頷いて、
「わかった、考えてみる。そんなひどい話、私も許せないもん。先輩、絶対疑いを晴らしましょうね!ね、莉子も協力してくれるよね!?」
「今の時点ではあまりはっきりしたことは言えませんが……。」
莉子は慎重に言葉を続ける。
「できる限り力になりたいと思います。」
兄も八木崎先輩もほっとした表情で頭を下げた。
「助かるよ。ありがとう。俺は放課後は塾があるし、あまり手伝えなくて悪い。」
「できる限りのことはしますけど、上手くいくとは限りませんからね。そこのところは保証できませんよ。」
「分かってる。味方をしてくれるだけで嬉しいよ。今のところ僕の味方は翔くんだけだったから……。」
これだけ人気者なのだから、もっと味方は居そうなものだけど。取り巻きは多けれど友人は少ないということだろうか。先輩の事情はひとまず置いておかなければ。莉子が先んじて本題に入る。
「それじゃあ私からいくつか質問させてください。犯人が八木崎先輩だって決めつけてる理由ですけど、下校している先輩を見たって言うのは間違いないんですか?見間違いとかは?」
「そもそもなんだが、例の封筒が誰でも触れるようになっていたのが、職員会議の間である十六時半〜十七時半の一時間だけなんだそうだ。その管理を怠っていた教師が進路室に帰ってきたのが十七時半過ぎ。」
先輩に聞いたはずが、先輩よりも先に翔が答える。
「確かに昨日、僕が学校を出た時間は十七時半過ぎだったし、その教師っていうのが僕たち三年一組の担任なんだ。先生は僕のことをはっきり見たって言い切ってたし、進路室は一階だから昇降口を出た僕が見えててもおかしくないかなと思う。」
「なるほど、担任なら先輩のことも良く知っているでしょうしね。」そもそも、先輩はかなり目を引く存在だから、他人と見間違えるのは難しいとも思う。口には出さないけど。
「じゃあ私からも質問いいですか?先輩は昨日の十六時半〜十七時半の間はどこで何をしていたんですか?」
「結衣、そんなアリバイみたいな聞き方しなくても」莉子が呆れた顔で窘める。先輩は笑って、
「いいよ、確かにこれは僕のアリバイを証明できるかって問題だからね。ええと、この時期の三年生は大抵受験勉強で忙しいけど、僕は校内選考のための小論文と志望理由書はもう提出し終わっているから、一旦小休止って感じなんだ。もちろん本番の試験はまだだし、校内選考に残れるかも分からないから油断はできないけどね。それで昨日は、移動教室のときに廊下にゴミが溜まってるのが気になってたから、南棟の三階で掃除してた。」
さすが人気者の元生徒会長は自ら掃除までするらしい。私が感心している横で莉子は真面目な顔つき。
「南棟の三階って言ったら、進路室から最も遠い場所ですね。誰かに会って話したりとか、そこにいたことを証明できる人はいませんか?」
「うーん、南棟の三階って各教科室とか視聴覚室とかで、放課後はあんまり人がいないんだよね……。昨日も多分誰にも会ってないんじゃないかなぁ……。」
「なるほど……。聞き込みをしようにも手当たり次第、というわけにはいかないですし……。」
しばらく沈黙が続く。
「あ、そうだ、大切なことを確認し忘れていました。」
「どうした?結衣。」兄が覗きこんでくる。
私は八木崎先輩をまっすぐ正面から見据える。
「この一回だけ、確認させてください。先輩は、本当に犯人ではないんですよね?本当に、無実なんですよね。」
相手が相手なら、馬鹿にするなと気分を害されそうな質問であるが、これを聞かなければ話は始まらない。兄も莉子も、私の性格を分かっているので黙って見守っている。
先輩は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに真面目な顔で、
「はい。僕は封筒を開けていなければ、進路指導室に近寄ってもいない。完全に無実です。」
何秒か、見つめあう。
「……わかりました!私たちは、これ以降完全に先輩を信じます。何としても先輩の無実を証明して見せましょう!」
先輩も微笑んで、ありがとう、よろしくお願いします、と返した。いつものことだが、「私たち」とひとくくりにされた莉子も、仕方ないな、と言うふうに笑った。
ここで昼休み終了の予鈴がなる。私と莉子は、放課後までに作戦を立てておきます、と伝えて席を立つ。
「あ、それから、昨日の行動をなるべく詳細に思い出しておいてくださいね。何でもいいので思い出したことがあれば教えてください。」
放課後、また中庭に集まることを決めて私たちは解散した。
三 信じる人たち
「莉子は先輩の話、どう思った?」
中庭を後にして、教室に向かって歩きながら聞いてみる。
「そうだね、あんなこじつけだけじゃ、真っ当な大人であれば先輩が犯人だって決めつけることはしないと思う。だけど翔くんが言うように、心象は良くないだろうね。明確に先輩が犯人じゃないって証明できないと、選考への影響は拭えないと思う。先輩のアリバイを証明できる人は、探せば見つかるんじゃないかなとも思うけど、もう少し情報が欲しいね。」
私は少し意地悪を言ってみたくなった。
「莉子も先輩が無実だって信じていいの?先輩が嘘をついてて、私たちにアリバイを捏造させる気かもよ?」
「そこの前提はさっき確認したでしょ?結衣が信じるなら私も信じる。『私たち』は先輩が無実だと知っている。その上で、どう証明するか考える。……いつもそうでしょ。」そう言って莉子は柔らかく微笑む。
莉子はよく他人から「クール」とか「無表情」とか言われるけど、私はそんなことないと思う。莉子はいつもこんなふうに優しく笑う。
想定通りの答えをもらって満足した私は、話を元に戻す。
「そうだね、莉子の言うとおりだ。うーん、まずは身近な教師に話を聞くところから始めようか。」
まず私たちが目をつけたのは、担任の先生だった。ちょうど都合よく、昼休み明けすぐの授業は担任が教科担当をしている日本史だ。昼休みはもう終わりかけだったので、授業終わりに莉子と先生を訪ねる。
「吉川先生。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが……。」
「どうしたの?今日の内容は流れも分かりやすいところだったと思うけど。」
「授業についてじゃないんです。……三年生の八木崎先輩の件についてなんですが……。」
担任の吉川先生は、声を落とした私の様子に察するところがあったのだろう、廊下で話すように促す。
「噂で聞いたんです。昨日、進路室に侵入者がいたみたいですね。……八木崎先輩が疑われてるみたいだけど、先生はどう思われますか?」
「どこで聞いたのか知らないけど、憶測で物を言ってはいけませんよ。何も分かってない状況で、私から安易なことは言えません。」
私はもう少し踏み込んでみることにした。
「先生、実はこの話は八木崎先輩本人から聞いた話なんです。先輩はやってないけど、担任の先生が根拠もなく疑いをかけてきているって。私たちで先輩の無実を証明したいんです。先生も協力してくれませんか?」
「……。繰り返しになるけれど、安易なことは言えないの。だけど、無実の罪で生徒の人生に影響があるなんてあってはならないことだと思う。もし、八木崎くんの無実を証明しようと思ったら、証言を集めるくらいだと金子先生は認めないんじゃないかしら。あの人は自分の非を頑なに認めないから。ただ、複数の証拠や論理的に正しい説明が出来れば、私たち他の教員が収めることはできると思う。」
金子先生というのが先輩や兄の担任だろう。授業を教わってはいないが、名前に聞き覚えがある。確かサッカー部の顧問だったか。吉川先生もサッカー部の副顧問なので、苦労することもあったのだろうか。中立を装いながらも、金子先生への印象が良いものではないことが滲んでいる。
「金子先生が言い訳できないくらいの強固な証拠が必要ね。……私は自分から罪を認めるまでは生徒のことを信じたいと思ってる。私にできるだけのことはしましょう。」
私は吉川先生というお母さんみたいな教員を気に入っていた。口うるさいと言うクラスメイトもいたけど、その注意が生徒のためであることは明らかだし、生徒に寄り添った指導と甘やかしは違うと思う。今も、安易な言い方はせずとも生徒のことを信じたいと言ってくれる人間らしさに好感を持っていた。
ありがとうございます、私と莉子はお礼を言って頭を下げる。先生は次の授業があるから、と廊下を後にした。
ひとまずこれで、大人の味方と金子先生についての情報が手に入った。ここからは地道に聞き込みをするしかなさそうだ。
「結衣、次の授業体育だよ。私たちも急ごう」
四 噂話その一
「金子先生かぁ……」
莉子が呟く。バレーボールは一度に試合に出る人数が少ないので、暇な時間が多い。私と莉子は体育館のステージに寄りかかってしゃがんでいた。
「あんまり……」
「結衣ちゃん!こないだはありがとね〜!一緒に来てくれて助かったよ!」
何か言いかけた莉子に被さるように話しかけてきたのは、隣のクラスの女子生徒だ。体育はニ、三クラス合同なので、自分のクラス以外の生徒とも関わりが生じる機会でもある。
「ううん!こちらこそだよ。お力になれたならよかった。」私は笑顔で顔を上げた。
「ほんとに助かったんだよ〜あのキーホルダー大事なやつだからさ。ありがとね!」
私は隣できょとんとしている莉子に、隣のクラスの野上さんだよ、この前困ってるところを見かけたから一緒に探したんだ、と説明する。
「あ、そうだ、野上さん、金子先生って知ってる?」
なんとなく聞いてみる。
「カネコ⁈もちろん知ってるよ、サッカー部の顧問でしょ?ほんとキモいよね。」
野上さんは露骨に顔をしかめる。
「キモい?そうなんだ、私たちあんま知らないんだけどどんな人なの?」
「あたし陸上部だから放課後はグラウンドの端っこにあるトラックで練習してるんだけど、グラウンドの真ん中を使ってるのがサッカー部じゃん?アイツ、ほとんど部活なんか来てないくせに、たまに出てくるとうちら陸部か反対隣の女テニ見てんだよ。ジロジロ見てきてほんとキモい。他にも全然良い噂聞かないよ、アイツ既婚で子供もいるのにサッカー部のマネに手を出してるとか、成績も自分のお気に入りの生徒ばっかり贔屓してるとか。部活も、カネコがメインの顧問なのに全然見に来なくて、副顧問の吉川先生の方がずっとちゃんと指導してるよ、いつもいるのは吉川先生だけ。」
なるほど、吉川先生が苦い顔をするわけだ。
ホイッスルが鳴り、次の試合が始まる。あっ次あたしだ、行かなきゃ、と言って野上さんは手を振ってコートへ進んだ。
「……なるほどね、ほんとに良い噂は聞かないみたいだ。」
「結構噂になってる先生みたいだね?結衣は友達も多いけど聞いたことなかったの?」
「うーん。無いかなぁ。私だって友達が多いわけじゃないよ、声かけてくれる人は結構いるけど、何をするにも莉子と一緒が一番楽しいし。」
莉子は俯いて、ふーん、とだけ言った。照れてるんだ。
「……一旦、状況を整理した方がいいよ。」
莉子は小さく咳払いをしてから話を切り替える。
「事件は、昨日の放課後、十六時半〜十七時半の間に起きていることは確か。その時間に先輩が進路室にいなかったことを証明できればいい。」
「先輩は、昨日の放課後は南棟の三階を掃除していたって言ってたよね。」
莉子は頷く。
「そう、そこが肝だと思う。私たちの校舎はちょっと変な形をしてるでしょ?」
今度は私が頷く。
私たちの通う高校は、北棟、南棟、西棟の三棟がコの字型に並んだ作りをしている。北棟と南棟の西端を、西棟がコの字の縦棒のように結んでおり、真ん中の空いた空間が前述の中庭、南棟側にグラウンド、西棟の外側に図書館や部室などの入った小さな建物がある。
それぞれの建物を繋いでいるのは、二階にある渡り廊下だけ、それも西棟から各棟への廊下のみで、南棟と北棟へ直接移動するには一階のそれぞれの東端を繋いでいる小道のような、半分外の道を行く他ない。
「前提として、職員会議は緊急で行われたものなんだから、犯行に計画性は無いと言っていい。その上で、本来なら先輩のいた南棟の三階から、進路室のある北棟の一階までは二通りのルートしかない。」
「渡り廊下を回り込むか、外の小道かだね。……いや待って、各棟の昇降口から外を回るのは?」
「南棟は出入りできるけど、北棟は教室がないから十六時半には施錠される。職員用の出口もあるけど、職員会議中は閉まってるでしょ。」
「そっか、外から回り込むのは無理だ。だから二通りなんだ。」
「今回はさらに絞ることができる。」
「……!雨だ!」
「そう。一昨日から降り続いた雨で、小道は今でも浸水してる。つまり、先輩がもし南棟三階から進路室へ移動したのであれば、西棟二階の渡り廊下を確実に通過しているはず。」
「じゃあ、昨日の例の時間に渡り廊下を通過していないという証人がいたら、無実の証明になる⁈」
「もうひとつあるよ、今私たちは先輩が南棟の三階にいたという前提で話してる。ここが証明できないと意味がない。」
「確かにそうだね。じゃあ証明する事実は二つだ。少し見えてきたね!さすが莉子だ。」
莉子はそんなんじゃないよ、と言ってまた俯いた。頬はほんのり紅く染まっていた。




