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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第七章

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第七章「神の島」#5

 夕食も手短に済ませ、庭のプールとリビングルームを仕切るフォールディングドアのガラス部分の反射を利用してダンス練習に励むルビアと蒼生。


 送られてきた動画を参考にしながら振り入れは順調に進んでいった。


「だいぶ形になってきたんじゃない。今度は精度を上げていくわよ! 指先、足先まで意識して……」


 曲の頭からもう一度通しで踊り始めようとした矢先、ルビアの(まぶた)が急激に重くなり、千鳥足でよろめき、そのままへたり込んだ。


「ルビアさん!?」


 心配そうに駆け寄る蒼生の手を取る。


「根をつめ過ぎたかしら。少し休憩にしましょ」


「ルビアさんはどうしてそこまでして、そのプロデューサーさんとやらに義理立てするのですか?」


 無理難題に近い、代役を引き受けたそもそもの理由を訊ねてみると、その解答は至ってシンプルなものだった。


「きっと一番悔しい思いをしているのは、明日来るはずだった学生時分のまだ幼いあの子たちなのよ。彼女たちには大きな未来って言う可能性がある。だからその先に繋げたいのよ」


「短い付き合いながら、らしい理由ですね」


「結果、わたしのわがままに付き合わせてしまってる。ごめんなさい」


「なら、今からは私に付き合ってくれませんか?」


 皆が各々のヴィラで就寝し、静寂に包まれる中、ただ夜の大きな満月が二人きりの部屋を照らし出す。


「私がどうして逢ったこともない兄さんを好きになったのか」


「そういえば、温泉の時に訊きそびれていたままだったわね」


 蒼生が過去の記憶を紐解きながら言い聞かせていく。ルビアは静かにそれに耳を傾けた。


「私にとってロンドンでの魔術の鍛錬は苦ではありませんでした。出来なかったことが出来るようになっていく過程は心地良かったですし、性にも合っていると思いました。その一環として地下工房のプールに水鏡(みずかがみ)を張った日。観察対象を決める際に、兄にしたんです。これはほんの気まぐれで……」


 石造りの真暗闇のプールサイドに片足を立てて座る蒼生が水銀を流した水面を見つめる。


 数分の後、暴力沙汰を起こし、周囲から怖がられ孤立した学生時代の真中が写し出された。


「これが私の兄……」


 事件の委細(いさい)を知っていた蒼生はどんなガタイの良い不良学生が出てくるのだろうと、内心興味は尽きなかった。自分には無い感性に触れてみたかった。しかし実物を見た瞬間にそんな想像は吹き飛んだ。


「どうしてそんなにつらそうなのですか」


 真中が通る道はモーセの十戒(じっかい)の如く人が引いていき、教員ですらその一挙手一投足に戦々恐々とする始末。相手をするものは生徒も大人も、誰一人としてその箱庭の中にはいなかった。


 追い討ちをかける様に、真中が助けた生徒の転校が決まる。何の為に戦ったのか。それからというもの真中が学校に行く頻度はみるみると減っていった。


「兄は悪くない。行動そのものは賞賛に値しなくても、時に人は目の前で起こるオーバードーズを必要とする場面もあります」


 実の家族が思い悩み、苦しむ姿は見ていて楽しいものでは決してなく。蒼生も沈む兄に手を差し伸べるもただ波紋を作るだけの日々に悶々としていた。


 転機が訪れたのは真中が珍しく登校した良く晴れた日の朝だった。


「天動君だよね。やっと逢えた!」


「……あの時の」


「そ、私は希嶋ヒロ。ヒロはカタカナね。本当は直ぐにでも声掛けたかったんだけど、大会で遠征しててさ。帰ってきたらきたですれ違ってばっかり」


「正直もう学校には居たくない」


「べつに心殺してまで行くところじゃないでしょ? そうと決まればほら、立って!」


「ちょっと……」


 授業などほっぽって、ヒロに手を引かれ一日を遊び尽くす真中。水族館で非日常を味わい、昼ご飯にはファーストフードでハンバーガーにかぶりつく。制服を着たままのボイコットに背徳感を覚えながらも何故か、真中の心はほんの少し軽くなっていった。


「ノープランだった割には結構、楽しめたかな」


「どうしてそんなに俺に構う?」


「決まってる。ほら、着いた。ここが私ん家」


 視線の先には柔道畳が敷き詰められた道場があった。


 真中は半ば強引に道着へと着替えさせられると、同じ道着姿のヒロと対峙した。


「着たけど……これって」


「打ち込んで来て」


 そう言うと、ヒロの顔つきがガラリと変わった。


「無理だし出来ない」


「自分と向き合って答えが出ないなら、他人を頼ってもいいんじゃない?」


「それは、俺にもどうしていいか……」


「無自覚に本能のまま(ふる)う拳なら、それを自覚して理性で制御するしかない」


「どうやって? わけもわからず人を殺しかけてどう変わればいいんだよ!」


「そのキッカケを今あげるって言ってるの。加減無しで殴りかかって来て。あの日と同じ様に。暴走したって構わないから」


「…………」


 ヒロの表情に一片の恐怖もない。恐れているのは真中の方。


 数歩踏み込まれた瞬間、何が起きたか理解する間も無く、真中は既に天井を見上げていた。


「そんな腑抜けた状態でも受け身だけは取るんだ」


 それからはただ一方的に投げられるだけ。その日は一度もやり返すことなく終わった。


 悲観的な真中と対照的に将来を有望視されているヒロ。神童と謳われた蒼生はヒロに共感していく。


 事あるごとに稽古に誘うヒロに根負けする形で道場へと上がるも、やはり一分(いちぶ)も動けない。


 ヒロとの出逢いによって兄がどういう形であれ、踏み出せさえすれば何かが変わる。蒼生にはそんな予感が芽生えていた。


 そして決定的な事件が訪れる。


「じゃあね、ヒロ」


「またね! ほら、行くよ」


 友達と別れたヒロの数メートル後を申し訳なさそうに真中がついて歩く。今日も強引に稽古に誘われていた。


「気の使い方間違ってる。あの子だって真中のこと、分かってくれてるって」


「いや、それもあるけど。恋愛相談の話されてたろ? 聞いちゃまずいと思って」


「なーんだそんなことか。まぁ、確かにそれは正解かも」


 他愛の無い会話までする様になった二人が大通りの交差点に差し掛かった辺りで、甲高いパトカーのサイレン音が鳴り響いた。


 違反切符を切られたくないのだろう、警告を無視してその白の中型車が逃走に入る。


「やけに近いけど、何だろ……」


 ヒロが不安げに漏らすと、あろうことかその車両は時速100kmのスピードで歩道に乗り上げ、ヒロの立つ交差点前へと突っ込んで来た。


 拡大鮮明になっていくフロントの外装。変わらず運転手はブレーキを踏む気配も無い。


「ーーーーっ!」


 やがて大きな音を立てて、車両は後部座席だけを残して潰れていった。


 ヒロの身体の上に影が出来る。追突したのは紛れも無く真中の背中にだった。


「真中……何で……」


「この身体のことは俺にも分からない。だから訊くな」


 恐る恐る真中の後ろに視線をやると、運転手含め、乗員全員が無事では済まないだろうと想像出来るほどに圧砕(あっさい)された車両があった。


「また、護る為に誰かを犠牲にした」


 悔いるように独り言ちる真中に、ヒロが間髪入れず言い放った。


「真中は絶対に見て見ぬふりなんて出来ない! 例えそれが自分じゃコントロール出来ない力だったとしても、困っている人がいれば真中は使うよ。そういう優しさを持った人だって知ってるから。だから正しい使い方を学ぶの! 向き合っていけば、きっと丁度良い真ん中が見つかるはずだから」


 それは頭で考えて出た発言では無かった。気がついたら口を突いて出ていた。


「こんな時に言うことなのか」


「今、この言葉に価値があるんだよ。変わろ、真中」


 この事件を境に真中はヒロとその父親に師事することとなるのだが、蒼生もまた日毎(ひごと)に真中を観察する日課が楽しくもなっていった。


「人間は完璧じゃない。身代わりに誰かが背負わなければならない業が確かに在るのだと、幼いながらに私は理解しました。きっと惹かれた理由もそれです」


 蒼生がまん丸の月を見上げて言った。


「今夜は星も綺麗です。そんな強くなった兄さんは明日の私のステージ、見てくれるでしょうか?」


 ルビアが確信を持って答える。


「勿論よ。あなたが見守ってきた分、ちゃんと見届けてくれるわ。そういう奴よ、真中は」




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