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BLOOD HEAD〜不死になった彼とツン強めロリ吸血鬼は8人の最強魔術師たちと救世の旅をする〜  作者: 紙屋シキナ
第一章

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第一章「吸血王のゆくえ」#9

 同時刻。一方で梗吾は自身の予備工房で、ある実験の成果を報告していた。


「これまでは静観してとやかく口出しはしてこなかったけど、結論を言い渡すわ。やっぱりこの偽血? 商品としては使いものにならないわね」


「そうだろうね。サンプル実験は失敗だ」


 あっけらかんとする梗吾の態度にエリシアが業を煮やす。


「他人事のように聞こえるんだけど? 気のせいかしら。資金援助してるのはワタシたちなんだから、後ろ盾がなくなって困るのはアナタよ、Mr.梗吾」


「不安要素があるからこそ、君もお得意先には配らず、身分を偽った上でこの世の果てのはぐれものにばかり売り捌いていた。違うかい?」


「武器商人も信用が第一。政府軍関係者にお披露目するのも恥ずかしくって出来やしないわ。戦力増強はおろか生物兵器としても中途半端。失笑(しっしょう)を買うのがオチよ。だからそろそろ商品になりそうなもの、見せて欲しいところなのよね」


此度(こたび)の件でそれなりの収穫は得た」


 梗吾がパスコードを入力し、鉄扉(てっぴ)を開くと、瞬間。3mはあるだろう大男は梗吾に向かい襲いかかった。


 しかし、その振りかぶった拳は梗吾の張った結界を波打ち、震わせただけにとどまる。


「テメェ、ぶち殺してやるからさっさとオレを出すか、オメェからこっちに来い! 脳漿(のうしょう)ぶちまけてやるよ、クソが!」


「悪いね。この結界は君たちのような些末な存在に対して、声も通さないよう組んであるんだ。おかげで僕らはほら、君の耳障りで気品に欠けるであろう科白を聞かずに済んだ」


「あれも吸血体なの?」


「そう。あれらを僕は〝シルフィム〟と名付けた」


「偽血を投与されているのに自我を保ててる。凶暴性は増しているようにも見えるけど」


 梗吾とエリシアが会話に興じている間も、依然として彼は結界を殴り続けていた。


「あれは単純に個人の性格かな」


「吸血体に性格?」


「人間に投与した場合、脳の視床下部(ししょうかぶ)。特に本能的食欲と密接な関係を持つ摂食中枢(せっしょくちゅうすう)が過剰に刺激されたことに加えて、吸血王の持つ第五の塩基(えんき)が影響して起こる塩基配列の上書き。主だった失敗の原因はこの二点であると仮定した」


「じゃああいつは何者なの? 人間で耐えられないなら北京原人(ぺきんげんじん)でも蘇らせたわけ?」


「摂食中枢を排除し、第五の塩基を有するDNA個体を一から造ったんだ。食欲は持たず、ただ偽血に対応することのみに特化させた。あれは僕が錬成(れんせい)したホムンクルスに偽血を投与した非検体第一号」


 梗吾を殺すことに集中し、行動を起こしている姿や思考は(まぎ)れもなく、今までの吸血体にはなかった殺意というれっきとした自我であり欲求であった。


「次の試験運用も兼ねて、彼を息子の元へ送り出そうと思っている」


「また実験?」


 やれやれと言わんばかりにため息まじりで壁にもたれ掛かり、腕と脚を組むエリシア。


「君が商品として取扱っているものも失敗と挫折を繰り返して現在の形に至ったはずだよ。ともすれば現代兵器もまだまだ発展途上。核兵器が安全を担保(たんぽ)してくれるのは今だけかもしれない。分野は違えど大きな差異(さい)はない」


「ま、一歩前進ってことにするわ。アナタの息子を死なない身体にしたのは正解ね。データを取るにしても不死身の人間サンドバッグって重宝(ちょうほう)しそうだもの」


「そうとも限らない」


「どうしてよ?」


「心臓部はまだ完全に適合(てきごう)してはいないだろうし、血術もまた誰からも教わったことのない技法だ。自分の身を守る術は変わらず徒手空拳(としゅくうけん)のみだろう」


「それであんなのと殺り合えと」


「そうなると厄介なのが先代吸血王ルビア・アンヌマリーの存在だ」


 そこでふと、結界を解く梗吾。顔面を覆うように拳の影が出来る。


「僕を殺す前に一つ提案だ。戸籍と定住ビザと一生働かなくても遊んでいける金を手に入れ、大手を振って工房ここから出たくはないか? (すなわ)ちこの世でいう自由を僕は与えられるのだけれど」


 寸前で踏み止まり、彼は返答に及んだ。


「手前勝手に産み出しておいて挙句(あげく)お願いだァ? オメェはオレの神様か? だったら条件に神を殺していい権利を追加するこったな。交渉開始はそれからだ、気取り野郎」


 梗吾がエリシアの顔色を伺うと、我関せずといった具合に両手を上げて首を捻った。


「息子は今、先代と同じ道を辿ろうとしている。殺さず護る。入れ知恵したのは他でもないルビア・アンヌマリー。この思想は僕の計画に不都合をもたらす。真っ先に排除すべきは彼女だった」


「ご高説(こうせつ)はいらねぇ。何をいつ、どうすべきか手っ取り早く言ってみやがれ。こっちは気が立ってんだ」


「手始めにルビア・アンヌマリーを殺して欲しい。弱体化した今ならばこの世からの完全排除も不可能な話ではない。再起不能にまで(なぶ)ったのち、その血を貰い受けるといい。一世代(ひとせだい)前とはいえ吸血王の鮮血は、君らに幸福をもたらすだろう。ただし遺体の損傷や欠損はある程度にとどめておいてもらいたい。その剛腕で全壊にされては身元を割り出すのに骨が折れるからね」


 梗吾は端末にルビアと真中の写真を出して見せた。


「ガキ二人か」


「またその過程において、君が息子やその友人たちに危害を加えるとしても、全くもって差し支えない。成功すれば対価として君は永遠の命と共に、恒久(こうきゅう)の自由を得る」


「油断出来ない相手なのは今の口ぶりから理解したぜ。奇襲でいく」


「襲撃の方法は任せるよ。それと仮の身分を与えておこう。名前がないと何分不便だ。君は今時分(じぶん)をもってヤミだ、そう名乗るといい」


「で? 今こいつらはどこにいる?」


「日本国。首都、東京だ。ここまで僕に詳細を語らせたんだ。やる気になってくれたと考えていいのかな?」


「一口乗ってやる。オメェを殺れる上に息子までいたぶれるんだ。最っ高の気分じゃなきゃなんなんだ?」


「それはそれは。頼もしい限りだ」


 梗吾の顔は(うつむ)き加減でありながらも、確かに笑みを浮かべており、エリシアはそれを決して見逃さなかった。


「所詮はそこまでの男だったのか、と落胆させないでくれよ真中。君は出来る子だろう」





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