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パンジーの大望【ヤンデレif編】
突然バタンと豪快に扉が開かれる音と共に、若い女の悲鳴が聞こえた。魔法に関する書籍を扱った図書館の職員達は嗚呼またかと溜め息を吐く。すぐに彼女の嗜める声と、楽しそうな男の声が聞こえたからだ。クロエの恋人であるハーフエルフの神出鬼没ぶりはすっかり日常の一部になっている。今でもこれに苦言を呈するのは副館長くらいか。彼の来訪で敵勢力を退けた事もたびたびあり、現在は図書館関係者は目を瞑っている。気を使っているのかクロエの反応が楽しいのか、彼の転移術は彼女の部屋にしか繋がらない。だから他の職員の領域が侵される事はないのだが。
「いいなあ……」
それを快く思わない人間は現在でも全く居なくなったわけでもなかった。
「自分だって……」
魔導士見習いの青年の目に、とある著者の題名が入る。
望まぬ結婚を強要された二人が、異世界で幸福を手に入れる物語。
クロエの手を引いて、どこか遠く、誰も知らない場所で二人きりで――。
「出来たらいいのに」
音がしたので、窓に目をやる。お茶くらいは出すのか、クロエが茶道具と菓子を乗せた盆を持って歩いていた。




