魔法使いと黒幕 シンデレラと義姉
「そんな複雑な状況があるとは知らなかった」
ヴィオルはあまり政治に関わらないとはいえ、隣国の情勢を全く分かっていなかったことに後悔を覚えました。それもかつては仲間であったにも関わらずと、なおさら強く感じてしまいます。
「このことは隠されていたし、貴族でもない自分が彼女と関わりがあるなんて思うのは無理な話さ。魔力を持っていなかったらそもそも王宮を跨ぐことも出来ないそんな身分だぜ」
メイソンは自分のことを嘲るように苦笑しました。
彼の話も終わり、そろそろ多くの人が目を覚ます時間になったため、ヴィオルはそろそろ彼を移動させようと思いましたが、1つだけ気になったことがそれを尋ねることにしました。
「メイソンはシャーロット姫を愛していたのか?」
尋ねたのは本当に素朴なこと。
彼の口からは彼女のことをどう思っていたのかはハッキリと明言されていなかったため、本当のことを聞きたいと思ったのでした。
ここまでするのなら特別な感情を持っていたのではないかと思い、こう尋ねました。
「どうなんだろう? 憧れなのか愛なのかはよく分からない。でも、彼女の笑顔を取り戻したいと強く思っていたかな」
メイソンは涙を浮かべながら苦笑しました。
ヴィオルは今まで彼と旅で、メイソンの喜怒は見てきました。
また、怒は戦いの中で見ました。
しかし、哀は今まで1度も見たことがなく、初めて泣いているところを見ました。
きっと今までずっとその感情を押し殺して、これまで生きてきたのだろうと思うと、ヴィオルはメイソンのことを尚更不憫に思いました。
メイソンは先程涙を流してから、その涙はどんどん溢れてきます。
またもやメイソンは声を上げながら、それを持ってしみじみと苦笑します。
「なんでこんなに涙が出るんだろう? こんなに泣いたのは彼女と一緒にいた時以来だな」
素の自分をさらけ出すことが出来る唯一の相手が姫だったからこそ特別な存在だったのだとヴィオルは痛感しました。
「ヴィオル、どうか姫には救いがあるものにしてくれよ」
それはメイソンの本来の願い、そして最後の願いでした。
これが実現しなかったら、彼にとってはこの戦争はあまり意味のないものになってしまいます。
もともと彼は捨て身の覚悟で挑んできたのですから、自分のことはどうでもでも良いのです。
ヴィオルの魔法のせいで出来ないだけで、何ならこのまま死にたいとすら思っていました。
彼の顔はとても真剣で、力強い瞳で見つめてきます。
「さっきも言ったけど、俺には決定権はない。でも進言ぐらいはしておくよ。すぐには裁判は始まらないだろうから」
メイソンはその言葉を聞いて安心したのか、また今度は少し唇を上げながら少し涙を零しておりました。
ヴィオルはメイソンが泣き止むのを待ってから、瞬間移動させてメイソンを王宮に連れていきました。
そして、案の定力を使い果たしたヴィオルはその場で倒れて、近くにいた侍従が彼を寝室まで連れていったのでした。
目覚めたエラは体を起こし、カーテンを開けて日光を浴びて体をシャキッとさせます。
伸びをしていると太陽が真上にあり、もう昼であることが分かりました。
いつもは朝早く起きるタイプなので、こんなに寝過ごすのは久しぶりです。
それほど疲れていたことがよく分かりました。
正直日光に当たったので、お腹は空いておりませんが、少しでも食べるように言われているので、トボトボとダイニングルームに向かうことにしました。
ダイニングルームに着くと、そこにはロゼリアが食事を取っていました。
予めそれぞれの人が多くの量を食べれるように作られており、義姉も普通の昼食並みの量が置かれてあります。
エラは普通の朝食よりも少ないレタスもハムを挟んだ1切れのサンドウィッチと牛乳だけを取り、義姉の隣の席へと座りました。
「ロゼリアお義姉様、一緒に食べても良いですか?」
「あら、エラちゃん。勿論よ。一緒に食べましょう」
ロゼリアは喜んで快諾してくれます。
最近は一緒に食事を出来なかったので、久しぶりに一緒に食べることが出来てエラは嬉しくなりました。
ロゼリアは笑みを浮かべておりましたが、エラの持ってきた食事を見て首を傾げます。
「エラちゃん、あまりにも量少なくない?」
エラはロゼリアにそのことを言われてギクッとしてしまいます。
いつも家では朝と昼は全く食べないのですが、朝は自分が朝食を作るからと先に食べていることにしているにしてますし、昼はそもそも義姉達は基本いないため食べていると嘘を吐いているのです。
「別に今はお腹が空いてなくて。だからそんなに食べられないのです」
エラは体質のことは黙って、事実を述べます。
これで引き下がって欲しいと思うものの、ロゼリアはさらに口を出してきました。
「でもこれだけの量だと倒れるわよ。ただでさえ朝食べていないんだから。もう少し食べなさい」
「これ以上食べたら胃が破裂するわ!!」
「それぐらいで破裂するわけないでしょう。せめて朝食分ぐらい食べなさいよ」
エラは思わず声を荒げてしまいます。
しかし、ロゼリアはエラの言う分を聞くことなく、最ものことを言われてしまい、エラは反論することが出来ませんでした。
そのため、エラは渋々普通の朝食分ぐらいを用意し、テーブルの上に置きました。
朝を抜いている人にとってはとても少ないでしょうが、エラにとっては最近食べている量の2倍ぐらいあるため、とても多く見えます。
これをどうやって食べようかエラは悩み始めてしまいました。




