戦争に発展した理由
「猫は良いわよね。みんなから愛されて……」
彼女がいつも猫と遊ぶ時は、決まってそのように言って少しだけ暗い顔をするのです。
暫くメイソンの猫と戯れる時間を過ごしていると、ある日彼女はメイソンにこんなことを命じました。
「メイソン、私他の動物とも遊びたいわ」
メイソンはその言葉に驚いてしまいました。
彼女は今まで何も口をしなかったのに、初めてメイソンに願いを口にしたのです。
メイソンは彼女の望みなら叶えてあげたいと、ペットとしてよく飼われている犬やハムスターなどを連れてきて彼女の願いを叶えました。
彼女はメイソンが新たな動物を連れて来るたびに、嬉しそうに笑みを浮かべ、まるで昔一緒に遊んでいた時のような無邪気な笑みを想像させました。
メイソンはその笑みを見る度に、自身も自然と笑顔になるのは分かりました。
最初は何の問題もなかったものの、その要望はどんどんエスカレートし、ついにこんなことまで言い始めました。
「私、もっと珍しい動物が欲しいわ。ドラゴンとか象とか立派で素敵よね」
確かにドラゴンや象はこの国には存在せず、世界でもそこまで存在しないため珍しい動物です。
そんな動物はまず探すのから苦労しますし、体が大きいため持ち運ぶのも大変です。
そのため、メイソンはこれだけ多くの動物がおりますし、そこまで集める必要はないのではと提案しましたが、彼女は一歩も引かず、絶対欲しいと駄々をこねます。
しかし、メイソンは所詮彼女に仕える身。
彼女がどうしても望むなら従わずにはいられません。
メイソンは一時期塔を離れて、3ヶ月ほど時間を掛けて象とドラゴンを魔法で小さくして連れて帰りました。
3ヶ月前と比べて少しやさぐれておりましたが、象やドラゴンを見ると一気に雰囲気は華やぎ、とても幸せそうな顔をして、メイソンをありがとうと言ったのでした。
また暫く経った頃。
姫はまたメイソンに頼み事をしました。
「私、オルガ国にある狐が欲しいわ。とても美しいと言われているから見てみたいわ」
今度彼女がねだったのは隣国の狐。
この狐はオルガ国にか存在せず、その国では神聖なものとして崇め立てられている動物です。
この狐はどこも取引などしておらず、入手することは不可能でした。
そのためメイソンは出来ないと彼女に頭を下げて丁重に断ります。
しかし、彼女は諦めることはありませんでした。
「私はここから出ることは出来ないわ。メイソンが連れてきてくれないと私は一生見ることは出来ないの」
彼女はここ数年、ずっとこの離宮から一歩も出たことがありませんでした。
何故なら王妃に出ないように命じられているからです。
彼女は1度その命を破ってこの離宮から出たこともありますが、その時は罰として丸3日間食事を抜かれてしまい、また離宮から出たらもっと酷い仕打ちにあうかもしれないと怖くて無断で離宮を出ることが出来ませんでした。
ここに入るのは基本メイソンで、メイソンがいない時は1人の侍女が彼女のことを一切目をくれず、最低限のことだけして出入りするだけでした。
そのため本来なら彼女を連れてオルガ国に行くのが早いのですが、万が一それに気づかれて彼女が酷い仕打ちを受けると考えたらそれも出来ず、かと言ってこのまま無視をしたら折角少しずつ彼女の感情が豊かになったというのに、昔のように戻ってしまうのも目に見えています。
メイソンはこうなったら密猟をするしかないと、貧しい人達にこっそりと頼み密猟をさせ、取引をしました。
本来なら1度で終わるものでしたが、彼女はその狐が大変美しいがためにすっかり気に入ってしまい、もっと狐が欲しいと何度も取引をすることになってしまったのです。
また、他の国の保護されている動物も欲しいと言われたため、密猟させて取引をしておりました。
そんな取引が行われている際に、彼女は16歳と成人になりました。
そのため王妃は彼女をこの国から追い出したい、また折角なら彼女で大国である隣国と結びつけて利用したいと考え、オルガ国に王子と彼女の婚姻を結ばないかと持ちかけたのです。
それを聞いた彼女は、心の底から喜びました。
何故ならこの苦痛である離宮から出ることが出来るのですから嬉しくないわけがありません。
それにオルガ国の王子と結婚すれば、オルガ国の王宮にしか存在しない幻のレインボーバードも間近で見ることが出来ます。
そのため彼女は早く婚約が決まらないかと今か今かと待っていたのです。
しかし、その返答はまさかのNO。
彼女の視界は真っ暗になり、絶望を叩きつけられてしまいました。
まさかその理由が自分が命じた密猟が原因だとはつゆとも思わず、私の血統が悪いからなのか、それともこの話自体が王妃による策略で自分を絶望に貶めるために流したのではないかと思ってしまいました。
そして彼女はこんなことを口にしてしまうのです。
「メイソン、どうにかして私をオルガ国の王子と結婚させて」
それは彼女の本心であり、何よりの願いでした。
勿論それは無茶な願いであることは、メイソンは重々承知しております。
しかし、もしこの願いを叶えなければ、彼女が完全に壊れてしまうのは間違いありません。
相手は大国であるため、まず向こうの言い分をひっくり返すのは難しいですし、武力や魔力で戦うにしても優秀な騎士達と自分のよく知っているヴィオル、そしてヴィオルの母で生粋の魔女である前公爵夫人がいるため勝てるはずもありません。
それでも、しないで彼女が壊れるぐらいなら、少しでも可能性があるならと、メイソンはオルガ国に戦争に持ち込もうと決めました。
王や王妃も向こうの断りには大変腹を立てておりましたので、戦争を仕掛けようと説得するのは全く苦労せず、戦争へと発展することになるのでした。




