黒幕との決着
メイソンは先程とは比べ物にならないほどの炎を放ちました。
その力は少しずつ大きくなっていきます。
これは不味いとヴィオルは火の魔力に対抗する水の魔力を使って、メイソンの魔法を鎮めようとしました。
そのお陰で炎は先程よりも大きくなっておりません。
しかし小さくもなっておりませんでした。
「ヴィオル、また邪魔しやがって」
「もう十分だろ。これ以上やったら今度こそ本当に死ぬぞ」
「姫のためならこの身1つぐらい捧げてやる」
「シャーロット姫がそこまで望んでいるのか?」
「俺はやれと言われたことをやるまでだ」
メイソンの力はだんだん大きくなっていくため、ヴィオルの力では抑えきれず、少しずつ炎の大きさが大きくなり始めました。
このままでは、国もやられ、彼もそのまま亡くなるという最悪の事態になってしまうのは間違いありません。
エラもヴィオルのお手伝いをしたいところですが、生憎水の魔力を使ったことがないため、どう扱えば良いのかも分かりませんし、また仮にも水の魔力を使えたとしても、防御側の魔力ではほとんど力が出せず、効果はほとんどないのは目に見えています。
また、火の魔力で攻撃しても、今のメイソンの魔力では、エラの魔力で勝つことは出来ないため、こちらも意味はありませんでした。
エラはこの状況を打開させようと咄嗟に思いついた案を一か八かで行おうと、ヴィオルに次のような頼みをしました。
「ヴィオル、私に今すぐ変術の魔法をかけて。シャーロット姫に変えて欲しいの」
「は?」
「取り敢えず今すぐお願い。説明は後でするから」
ヴィオルはエラの言っていることがよく理解出来ていないものの、早急の願いということで、変術の魔法でエラをシャーロット姫に変身させました。
エラは美しいドレスに目を奪われそうになりましたが、ヴィオルにありがとうとお礼を言って、ヴィオルの元を離れて足を前に進め始めました。
エラは出来るだけ優雅に、そして大股にならないようにゆっくりと歩きます。
そして、エラはメイソンが見えるところまで移動しました。
「……姫?」
ヴィオルの変術の魔法により姫に変わったエラを見て、メイソンはひどく動揺しました。
そのことによりメイソンは気が抜けてしまい、魔力が一気に小さくなります。
そして、ヴィオルが出している水の魔力と同じぐらいになりました。
「メイソン、もうやめて。貴方がいなくなるのは嫌よ」
メイソンは姫の姿をしているエラにそのように言われて目を見張りました。
頭の中ではヴィオルの変術の魔法でシャーロット姫に変わっていると分かっていても、やはり動揺を隠すことは出来ませんでした。
メイソンの魔力は更に小さくなり、エラの魔力で攻撃出来るまでの大きさになったため、エラは杖を取り出して思いっきり火の魔力を出します。
そのことにより、炎はだんだんと小さくなり、最終的にはメイソンの炎は無事に鎮火しました。
そして、禁忌を犯したメイソンには、先程と同様の黒い光が自分の体に降りかかり、再び倒れてしまったのでした。
「エラ、大丈夫か?」
「大丈夫よ、何もされていないから。取り敢えず早く彼を運び出しましょう」
「ああ、そうだな」
ヴィオルは魔法の絨毯を取り出して、メイソンをその上に乗せました。
あまり力が残っていないヴィオルは、エラも魔法の絨毯の上に乗せて空の上に飛びますが、とてもゆっくり移動せざるを得ませんでした。
「それにしてもエラ、どうしてあんな無茶したんだ? シャーロット姫でないのはメイソンならすぐに分かるし、逆にエラに向かって攻撃される可能性も高かったのに。それに離れるなって言っただろう」
ヴィオルもよく分からないままシャーロット姫に変身させてしまい申し訳ないと思いつつも、まさかメイソンに堂々と近づくとは夢にも思っていなかったため、エラに対して怒りもありました。
「彼はシャーロット姫のことを自分の身を捨ててでも彼女の願いを叶えようとしているぐらい大切な存在ってことでしょう。だったら、姫にそっくりだったら動揺もするだろうし、攻撃も出来ないかなと思って」
「そんなの推測に過ぎないだろうが」
「まあ結果オーライじゃない。それにヴィオルは変術の魔法が1番得意だって言っていたし、変術の魔法は月の魔力を使うから、水の魔力とは関係ないから大丈夫かなって思って。ヴィオルは月の魔力が1番得意だしね」
「確かにそりゃその通りなんだけどさ」
ヴィオルはエラの無茶振りには呆れながらも、エラじゃなければ、今回ばかりはこの戦いは収束しなかっただろうと、それ以上は何も言いませんでした。
ただエラが無事であったことにヴィオルは安心するばかりでした。
「彼は本当に姫を愛していたのね。姫の姿をした私ですら攻撃出来ないほどに」
「メイソンはとても真面目だったし、忠誠心も強かったからな」
2人はメイソンに向けて哀しみの表情を向けて、館へと帰って行ったのでした。




