魔力の核
「魔力の核!!………って何?」
「驚くのか、尋ねるのかどっちかにしてくれ」
エラがまるで理解出来たかのように驚いたので、急な質問にヴィオルは戸惑ってしまいました。
しかし、エラはヴィオルの困惑を押しのけて魔力の核について説明するように急かします。
「魔力の核って言うのは、その名の通り、魔力の塊のことで、魔力を持っていない者や弱い者を思いのまま操ることが出来るんだ」
「じゃあ、ドラゴンは自分の意思で炎を吹いているのではないの?」
「ああ。ドラゴンは自分の身が危ない時にしか、絶対に炎は吹かない」
「それは確かに可怪しいわ。だって私達はドラゴンに何も攻撃していないもの。炎を吹かれる理由がないわ!」
「そう。誰かがあの魔力の核でドラゴンを操っているのは間違いない」
ヴィオルは声を荒げて断言します。
魔力でドラゴンが操られていることにとても怒りを覚えているのです。
「ねぇ……魔力の核の主は目星ついてるの?」
「一応な…………でも何だか腑に落ちない」
ヴィオルは、右手を顎に当てて訝しげな表情を浮かべていました。
「あの魔力は火の魔力だし、リンネ国に火の魔法を得意とする者はいる。でも、あんなに魔力は無かったはずだ」
「訓練とかで魔力が増えたんじゃないの?」
「いや、魔力の量は元々生まれた時から決まっている。訓練で上達するのは魔法の扱い方であって、量ではないんだ」
エラは自身がヴィオルや前公爵夫人に魔法の指導してもらった時、扱い方の上達と共に魔力も増えたような気がしたので、魔力の量が生まれた時に元々決まっていることには大変驚きました。
魔力が増えたように感じたのは、ただ魔法の扱い方が上手になったからだと今気づいたのでした。
しかしエラは、そこで新たな疑問が生まれました。
「じゃあどうやって増やしたって言うの?」
「禁忌に触れたぐらいしか考えられないな」
「禁忌? まさか……」
「寿命と言う対価を払い、魔力を持つ者の魔力を無理矢理摂取したんだろう」
「やっぱり」
エラは以前に前公爵夫人から、魔法には禁忌と言うものがあると仰っているのを思い出しました。
そこでは、時間を止めたり巻き戻したりするのには、自身の寿命を対価が必要だと言うことでした。
逆を言えば、寿命さえ差し出せば無茶なことが出来ると言うことを表しています。
そのため、ここでも寿命と言う対価が払われているのではないかと気づいたのです。
案の定、やはりその対価とは自身の寿命。
今回の場合は、禁忌を侵して、魔力の核の主は、大きな魔力を手に入れていたのです。
魔力を手に入れると言う禁忌があることには驚いたものの、寿命と言う対価を差し出したと言うのは非常に納得がいくものでした。
「でもな……」
しかし、ここまで分かっていても、やはり何が引っかかるヴィオル。
再び顎に右手を当てて考え込んでしまいました。
「やっぱり変だよな。そこまでしてこの国に何故勝ちたい? 本当にレインボーバードを手に入れたいだけでここまでするか?」
ヴィオルは独り言をブツブツと言って首を傾げていました。
まだこのことについては全く納得がいっていないのです。
「ぎゃー」
ヴィオルが考え込んでいる間に、再びドラゴンが炎を吹き始めました。
エラはドラゴンの炎と、ヴィオルの気が緩んだことによるノーガードの状態に、品もない声を上げてしまったのです。
ヴィオルはその悲鳴に反応し、即座にバリアを張ってギリギリのところで何とか免れました。
「エラごめん。大丈夫?」
「驚いたけど、問題はないわ」
このまま何もしなければ、この状態が続くことは間違いありません。
この状況が続いたら、いずれ耐えることが出来なくなって、ドラゴンの炎により、そのまま自分達は亡くなり、領地や国も崩壊してしまうでしょう。
ヴィオルは、魔力の核の主のことを考えるのは一旦止めて、ドラゴンとどのようにして向き合うべきか考えることにしました。
「ねぇヴィオル、あの魔力の核を撃ったら、ドラゴンの凶暴化は止まる?」
「………………」
ヴィオルはエラの質問に何も答えずに、黙ったままでした。
少し時間が経ってから口を開きます。
「確かにその通りだ。でも、やっぱり危険過ぎる。だから、ドラゴンの心臓を撃ってくれないか。そうすれば、凶暴化は……止ま……る……」
ヴィオルは撃つ場所を変えるように指示しながらも、最後の方は言い淀み、表情が暗くなっていきました。
「でもそれってドラゴンを殺すことにならない? そんなことして良いの?」
「しょうがないだろ。核は小さすぎて当てられやしないさ。的が大きい心臓の方が撃ちやすいし、位置も低いから的中率も上がるし………」
ヴィオルの体はだんだん震えているのが、目に見て分かりました。
また、顔色も悪くなっていました。
「本当はそんなことしたくないんでしょ。私だって殺したくないわ」
「そりゃしたくはないけど、軍人や国民の命の方が大事だ」
ヴィオルの言いたいことは、エラにもよく分かりました。
エラだって軍人や国民の命をドラゴンによって奪われたくはありません。
ヴィオルは王族ですから、尚更その気持ちは強いのは当たり前のことでしょう。
しかし、被害者であるドラゴンを殺したくないと言うのも、ありありと伝わってきました。
エラはヴィオルの手を取って、真っ直ぐに訴えます。
「私に任して! 絶対に国民もドラゴンも助けるから。あの核を必ず撃つわ」
「でもあれを当てるのは至難の業だぞ」
「その通りね」
エラは一呼吸を置いてから、新たに口を開きました。
「私1人だけだと絶対無理。ここからだと距離も遠すぎるし、私が炎に巻き込まれたりする可能性が高いもの。でも、ヴィオルが助けてくれたら可能よ。私を核の近くまで連れて行って。そして炎に当たりそうになったら守って欲しいの。私はヴィオルを信じているわ。だからヴィオルも私を信じて!」
エラの訴えは真剣そのもの。
その強い意思にヴィオルは一瞬不安を感じながらも、エラの実力と固い決意を信じて、首を縦に振りました。




