魔法使いと騎士団長
騎士団がいるところに向かうと、ちょうど彼らは休息を取り始めているところでした。
今ならスムーズに話が出来ると思い、ヴィオルは騎士団長に声をかけます。
「レオ、話したいことがある。今大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
そう言って騎士団長は、 立ち上がってヴィオルの方へやって来ました。
彼はヴィオルとは立場に違いがあるとは言え、親友のように大変仲が良く、気さくに話し合える関係なのです。
「話したいことって何だ?」
騎士団長は真面目な顔にしてヴィオルの話に耳を傾けました。
ヴィオルは先程王子から言われたらことを偽り無く全てそのままに話しました。
勿論、侍女のことも含めて。
「明後日って、予想していたよりも全然早いな。休息が終わり次第伝えておく」
騎士団長も急な王子からの伝言に驚きながらも、素直に受け入れました。
「確かにその侍女、不思議に思うよな。彼女のことを誰にも言うなって言われているし、アレクは彼女に肩入れしているみたいだし」
騎士団長はヴィオルだけでなく王子とも同様に仲が良くよく3人で遊んでいた仲でした。
彼は王子のことをアレクと愛称で呼んでいました。
「俺も隠したがる理由が分からないんだよな。バレたら困ることでもあるのか?」
「好意寄せてるっぽいから、知られたくないんじゃない?」
ヴィオルも彼と同じように侍女に想いを寄せているから正体を明かしたくないのかなと思いましたが、自分と同様に今まで全く女に興味がなかったため、正直そのような光景を想像することが出来ませんでした。
それに仮にそうだったとしても何だか腑に落ちないのです。
「前回はとても筋が通っていたし、納得もいったんだが、今回は唐突過ぎるしアレクシスらしくない」
王子は合理的に物を進めて行くタイプ。
こんな強引な行いはしたことがありませんでした。
「まあそう気にするなよ。今、侍女のことを気にしたってしょうがないだろう。ここではヴィオルが1番立場が上なのだから、しっかりとした姿で俺達を引っ張ってくれないと」
「その通りなんだけど、それを言われると、どんな時もほぼ俺が引っ張らなければならないだろう」
この国でヴィオルより上の立場と言うと、王や王子、王兄である前公爵、公爵達と数えるほどしかいません。
勿論、彼らは全員ここにはいないので必然と立場が1番上となります。
ヴィオルは王族としての務めを蔑ろにすることはありませんが、いつも気が重くなり、こう言うのは向いてないなとひしひし感じるのです。
「俺の予想している侍女だとすると、頼りになる子だからそこまで気にしなくて良いと思うぞ」
「会ったことあるのか? 一体誰なんだ?」
「あるぜ。でも、アレクがヴィオルに言ってないんだったら俺からは言えないな。俺はヴィオルに仕える立場でもあるけど、1番に仕えるのはアレクだから」
それはヴィオルも同じこと。
あくまで彼らが仕えるいるのは王子。
彼が嫌がるなら無理に聞き出すことは出来ません。
「でも予想って何だ? 直接聞いてないのか?」
「聞いてない。侍女も多くいるから断定は出来ねえけど、王子の周りにいる侍女で、そのような態度を取っているのって彼女ぐらいしか思いつかない」
どうやら騎士団長も詳しくは聞いていないと言うこと。
これは考えても仕方ない、悪い人でないことを祈るのみです。
王子の命令に素直に従うしかないと腹を括り、騎士団長との話し合いを終わらせようと思いました。
「休憩時間まだあるから、俺から質問して良いか?」
ヴィオルは一体何を聞くことがあるのだろうと不思議に思いましたが、まだ時間があると言うことで質問を受けることにしました。
「アレクから聞いたんだけど、求婚したんだって? 結果までは聞いてないから気になってんだよな」
「何でそんなことを話すかな」
「まあまあ。周りにはバレていないから大丈夫さ。本来なら王宮中で噂になりそうだけどな。王子と破局か!? みたいな感じで」
「何でそっちの方向で噂が飛ぶの?」
王子は男前の美形で、ヴィオルは美人の美形。
そのため、一緒にいれば美男美女のカップルに見えます。
また、お互いに相手がいなかったので、相手がいないのは2人が付き合っているからなのではと言う噂が流れていたのも知っていました。
2人はキッパリと否定しており、もうその噂は消えたかと思っていたので、まだ健在していたと知り、ヴィオルはガッカリしてしまいました。
「で? どうなの? 成功したの?」
騎士団長は相変わらずその質問をやめようとしません。
最悪黙っていたとしても、無事に戦争が終わったら知ることになるので言うのはやめようかなと思いましたが、とても知りたそうだったので素直に答えることにしました。
「まあ。一応成功はした」
「一応って何だよ。でも良かったな。友人として嬉しく思うぞ」
「状況が状況だから素直に喜べないのが悲しいがな」
ヴィオルとしては、色々ありましたし、複雑な気持ちではありますが、友人から素直に喜んでくれたことに対しては嬉しくなりました。
「それにしてもヴィオルが1番最初に独身から抜けるとは思わなかったぜ。絶対俺かアレクだと思っていたのにな」
「それは俺が1番驚いている」
ヴィオルは立場としては第2王位継承者で高いのですが、元々王位には全く興味がなく、自分が王になりたいと思ったことは1ミリたりもありません。
王子は周りから信用も信頼もされていますし、王としての資質も持ち合わせています。
それに対してヴィオルは、社交辞令はあまり得意ではなく、政治にはあまり詳しくありません。
主観的にも見ても客観的に見ても相応しいのは王子でした。
また、ヴィオルは公爵家の次男のため公爵家を継ぐこともありません。
そのため、王子が結婚して御子が誕生した際には王位継承権を放棄し、そのまま結婚なんてしなくてもいいかと考えていたのです。
結婚なんて縁もゆかりも無いであろうと考えていたのに、求婚までしたなんて不思議だなと感慨深く思いました。
「レオだってそろそろ結婚する歳だろう。誰かいるのか?」
騎士団長は、ヴィオルより3歳年上の25歳。
この若さで今年から騎士団長と言う大役を任されることになりました。
また、彼は国家設立の時から仕えるオールトン侯爵家の嫡男で、女性にはとても優しいので、大変人気も高いのでした。
「いや、付き合いたいと思う人はいるのだけど、アレクと同様に全くつれないんだよね。おまけに侍女に懸想しているってところまで同じと言う」
何だか似たもの同士だなと思いつつも、そう言えばエラも今は侍女だっけと思い出すと、3人とも似たもの同士だと思いました。
「そろそろ時間だな。俺戻るよ。気が重いけど」
今年騎士団長になり、その初めての仕事がこの大きな仕事と言う責任重大な役で、おまけに先程までまだ完全に心の準備が出来ていない状況で、明後日に向けて心を切り替えなければならないのです。
彼の気持ちはヴィオルにもひしひしと伝わってきました。
それでもヴィオルは良い言葉が見つからず、よろしくなとだけ言って彼と別れました。
その後、前公爵夫人に連絡を入れ、次には医師や薬師に連絡を入れて、明後日に向けて準備を備えます。
そしてようやくその日の未明を迎えたのでした。




