シンデレラは魔法使いの母に魔法を披露する
ヴィオルに言われた通り、館から外を出たエラ。
入って来た方に出たものの、前公爵夫人は何処にも見当たりません。
何処にいるのだろうと後ろ側まで歩き回ると、大きな魔法陣を敷いている前公爵夫人を発見しました。
とても真剣な表情で敷いていたので声をかけて良いか分からずオドオドしていると、前公爵夫人がエラに気づき声をかけます。
「エラちゃん、来てくれてありがとう」
前公爵夫人はエラの手を取って魔法陣まで引き連れて呪文を唱えると、2人は先ほどとは違う場所にいました。
その場所は何もない真っ白な空間。
比喩ではなく、本当に建物も人も何もない場所です。
「ここは無の空間と言って本当に何もないところだから誰にも邪魔はされないわ」
静かな空間なため前公爵夫人の声がよく通ります。
先ほど時間が止まっているかのように感じましたが、その声で動き始めたような感覚に襲われました。
そして、またその声がおさまるとその時間が止まったかのように感じたのです。
「ここは時間と言う概念はあるのですか?」
エラはこの空間に時間が存在するのか確認したくて、彼女にそのような質問をしました。
「勿論あるわ。時間を止めるなんて恐ろしいことはしなくてよ」
前公爵夫人は当たり前過ぎるエラの質問に笑いながら答えてあげました。
「時間を止めるのが恐ろしい……?」
前公爵夫人の後の言葉に引っかかったエラはボソッと呟きます。
前公爵夫人はエラの言葉に対して説明を入れました。
「時間を止めたり戻したりするのは禁忌なの。もしどうしてもしたいなら対価がいるわ」
魔女や魔法使いなら時間を止める魔法もよく使ったりしているのかなと勝手に思っていたエラですが、まさか禁忌だと聞き大変驚きました。
また、時間に対する対価が気になり、前公爵夫人に一体対価とはどう言うものなのかすぐに尋ねました。
「止めるには1分に1年、巻き戻すならその倍の寿命を差し出さなければならないの。生物全ての時間を操るわけだからそれぐらいの代償は当たり前だけどね」
たった1分の時間を止めたり、戻したりするだけでそんなに重い対価を払わないといけないと知り、エラは比喩ではなく本当に倒れ込んでしまいました。
いくら魔女や魔法使いの寿命が普通の人よりも長いとは言え、100年程度の寿命です。
つまり今自分がその魔法を使うとすると、1時間ほど止めたら寿命は半分以上は蝕まれますし、戻すとなると確実にそのまま死んでしまうことでしょう。
エラは恐ろし過ぎる事実を知り、そんな魔法が禁忌とは言え存在することに身震いします。
それに何より恐ろしいのは、そんな代償を平然と受け入れている前公爵夫人の態度でした。
理由は納得出来るものの、やはり恐ろしく感じるのです。
「そんなことより早く練習始めましょう。どれほどの腕なのか見たいわ」
前公爵夫人は本題に入って、エラに魔法を見せるよう要求しました。
エラは一体どんなことをすれば良いかよく分かりませんでしたが、やはりここはヴィオルを圧倒した的当てを披露することに決め、仕舞い込んでいた弓を想像して魔法で取り出し、また魔法で的を600メートル離れたところに設置します。
一息おいて弓を構え、弓をパンと放ちました。
勿論当てたのは的のど真ん中。
綺麗に刺さっています。
この結果を見た前公爵夫人は大変驚きました。
なんせ、普通の弓では300メートル前後が飛ばせる限界距離。
600メートルも飛ばせるなんて魔法を使わない限り不可能なのです。
その上ど真ん中と、とても的確に飛ばせられるので間違いなくとんでもない人物であることには間違いはありませんでした。
前公爵夫人が圧倒されている姿には、少し優越感を感じ、エラは思わず笑みを浮かべてしまいます。
前公爵夫人は体術に関しては教えることはない、寧ろエラから弓について教わりたいと思うほどでした。
そのため、エラに他の魔法を使うよう要求しました。
エラは、今度こそは何をすれば良いのか分かりませんでした。
魔法をもとに生命維持が出来ることは今すぐには証明出来ませんし、何も無い空間では掃除や家事も出来ないからです。
あとエラが使える魔法は、魔力保持者なら誰でも出来る仕舞い込む魔法と補助魔法なしではまともに飛ぶこともできない浮遊魔法。
ここはきちんと出来なくても浮遊魔法を見せるしかないと、ヴィオルから貸してもらった箒を取り出し、箒に跨ります。
そして大きな声でビビデバビデブーと唱えながら空を飛びました。
ヴィオルの補助魔法はまだ残っており、無事に飛び終えることができ、エラは心底ホッとしました。
「ヴィオルの補助魔法がかかっているのね。駄目よ。補助なしで飛んでちょうだい」
補助魔法がかけられていることに気づいた前公爵夫人は、杖を一振りして魔法を解除します。
エラは何でヴィオルの魔法がかかっているのが分かったのと疑問に思いながらも、尋ねる間もなく、箒が荒れてあちこちに飛び回り、エラは箒から手が離れてしまいました。
しかし、前公爵夫人が魔法をかけてくれたお陰で、エラは怪我せずに地面に付くことが出来ました。
「これは駄目駄目だわ。魔法では治癒出来ないのだからせめて落ちないようにになくちゃ」
エラも覚悟はしていましたが、ヴィオル同様酷評で少しガッカリしてしまいます。
それと同時に後の言葉が気になり前公爵夫人に質問をぶつけました。
「治癒の魔法もないのですか?」
「ええ。そのような魔法はないの。治すなら自然に治るのを待つか、薬で治すかどちらかね。ああ聖女の力で治すと言うのもあるわね」
「聖女?」
魔法で治癒出来ないのはとても不便なので、ガッカリしましたが、それ以上に『聖女』と言う言葉に疑問を感じました。
聖女なんて物語でしか存在しないと思っていたからです。
魔女や魔法使い、ドラゴンなど存在する世の中なので、聖女がいてもおかしくはないのかもしれないと思いながらもやはり気になってしまいます。
「聖女と言うのは、治癒能力を持っていたり、未来予知が出来たりする特別な存在なの。魔法は自然の力を借りるけど、聖女は自分自身が持つ聖力を活用するの。魔女や魔法使いと同様重用されるわよ。残念ながらこの国にはいないみたいだけどね」
エラは前公爵夫人の説明を受けて聖女のことについて納得しました。
どうやら自分が知っている聖女と同じようでした。
「そう言えばお義姉様達、聖女みたいだわ」
エラがそう呟いたのを聞いた前公爵夫人はどう言うことなのか気になり、エラの義姉達のことについて尋ねてみました。
「上のお義姉様は未来予知みたいなことが得意なんです。そして、下のお義姉様は治癒が得意なんです。2人とも博識で優秀だからそう言うのが出来るのですけどね」
アナスタシアは雲の形や土の状態などを見て、次起こるであろう災害などを当てるのが得意ですし、ロゼリアは薬に関してはスペシャリストなためよく効く薬や扱い方を知っており普通の何倍も早く回復したりとそれぞれの能力を活かして活躍していたのでした。
そんな2人はエラにとっては聖女みたいな存在です。
エラは2人のことを大変誇りに思っていました。
前公爵夫人は、エラも凄い子だけどエラの義姉達も凄いのだと改めて凄さを感じました。
そして、何故そこまでエラの家族が凄いのか疑問に思い始めたのでした。
前公爵夫人が考え込んでいる間、エラは倒れた体を起こして立ち上がります。
そして戻ってきた箒を手に掴むと、今度は跨ってもいないまま箒が暴走し、あらゆる方向へと飛び回りました。
少し考え込んでいた前公爵夫人は、エラの魔法が暴走しているのに気づき慌ててエラの魔法を止めました。
エラは暴走がおさまったことに安堵しました。
前公爵夫人は本当にこのままではいけないと本格的に練習をさせようと決意したのでした。




