魔法使いはシンデレラに会いに行く
王都に着いたヴィオルは宝石店に行き指輪を見て回りました。
そしてある1つの指輪を買って次の日に備えたのでした。
もう買い終えた頃はすっかり日も落ちて暗くなっており、6日間も移動し続けたヴィオルは自宅に帰る気力もなく、近くにある旅館に泊まって一夜を過ごしました。
そして次の日、ヴィオルは旅館から出て、そのままエラの家に向かいました。
するとポムの世話をしているエラの姿が見えました。
「エラ、こんにちは。入って良いかい?」
エラは、懐かしい声に大変驚きました。
「ヴィオルなの? いらっしゃい!」
嬉しそうな声を聞いてヴィオルは安心して庭に足を入れます。
「ヴィオル、今回は魔法で勝手に入って来ないのね」
「前、エラにクリティカルヒットされたからね。あれはもう食らいたくない」
「いやだ〜もう」
あれが出会いだったと思うとエラは恥ずかしくなり、ヴィオルの肩を叩いてもう忘れてと返しました。
肩を叩かれ、地味に痛かったものの、エラの顔が赤く染まる姿をヴィオルは可愛いなと思いました。
「ヴィオルは元気にしてた? 私とポムは元気よ」
ポムは勢い良くヒヒィーンと鳴きました。
本当に元気そうです。
エラも以前会った時より顔色が良く元気であるのは本当のようです。
「ヴィオル、また会えるとは思わなかったわ。本当に嬉しい。最近良い事しか起こってなくて怖くなっちゃうわね」
エラは屈託のない笑みを浮かべます。
色々大変だった自分とは反対に、エラは本当に楽しそうでした。
「どんな良い事があったんだい?」
ヴィオルはふと問いかけると、望みの舞踏会に行けたこと、ヴィオルと言う友人が出来たこと、ガラスの靴は消えずに今も残っていることをまずは話しました。
そこでヴィオルは王子から預かったガラスの靴の存在を思い出し、魔法で取り出してエラにガラスの靴を返しました。
エラは大変嬉しそうにありがとうと笑みを浮かべました。
そしてランカスター公爵家で高待遇でメイドとして働いていることを嬉しそうに語ったのでした。
ヴィオルは何故ガラスの靴が未だになくなっていないのかは疑問に思いましが、それ以上にランカスター公爵家で働いていることには大変驚きました。
何故ならランカスター公爵家のメイドはとても人気職であり、とても高いスキルを求められ、その上に退職する人がほとんどいないため超激戦区だからです。
そんなところに勤められるエラの実力は確かなどだと実感しました。
それにしても自分を友人だと言われ、複雑な気持ちになります。
ますます緊張が高まっていくのでした。
「あと、お義姉様達も仕事場が良いと喜んでいたわ。それは確かに嬉しいのだけど、でも……少し気が怠そうな時があって、それが少し気がかかりかも。やっぱり仕事で疲れているのかな?」
エラは2人は仕事がキツイのかもしれないと心配しているのです。
2人は大丈夫だからと言われたら、エラは何も出来ないので力になれず悲しいのでした。
ヴィオルは、確かに王宮侍女と候爵家の侍女ならハイスキルを求められるし、何より慣れていない環境だと疲れるのは無理もないだろうなと思いました。
「ヴィオルはここ2週間で良い事あった?」
「エラに会えたことが何よりも良かったことだよ」
ヴィオルは何の偽りもなくそのように答えました。
エラは私もよと返答したのでした。
「エラ、これから君に伝えたいことがあるんだ。話は長くなるけど聞いてくれるかい?」
「勿論、良いわ。さあどうぞ!」
何ともこれからの雰囲気に合わないエラの発言に、調子が狂いそうになりますが、覚悟を決めて切り出したのでした。
「最初は祖父の遺言だからと義務感でエラと接していたよ。でも関わっていくうちに振り回されて変な子だなと思ったけど、惹かれている自分がいた。そして、エラが昔出会った少年の話をした時に、あの時出会ったのはエラだと気づいた」
「えぇ~! あの男の子ってヴィオルなの? でも納得だわ。こんなに素敵だものね」
エラは一世一代の告白をしようとしているヴィオルの告白に気づいていないのか、なんとも雰囲気を壊す発言をしてしまいます。
そんな時でさえ、エラらしくて良いなと思ってしまうのは恋は盲目とか痘痕も笑窪とかの状態なのだろうと分かってはいますが、止められないので仕方がありません。
ヴィオルは気を取り直して再開します。
「それでその時エラが初恋相手だと分かったんだ。あの時は俺がアレクシスのことを本当に尊敬していて……今も尊敬しているのだけど……いつも彼のことを語っていたのだけど、誰も共感してくれなくて悲しかったんだ。だから凄いと褒めてくれた時は本当に嬉しかった。それに普段褒められない俺のことも凄いと褒めてくれて本当に嬉しかった。だからずっと彼女のことを忘れることは1度もなかったよ」
エラはまさかの告白をされて体が熱くなっていくのを感じました。
私も忘れたことは無かったと言いたかったのに、ヴィオルの気迫で答えることは出来ませんでした。
「本当はあんまり言いたくないんだけど、どっちみちバレることだから今言うね。これ以上騙したくもないし……。俺の正式な名前はヴィオル・アーサー・ジェームズ・ハワード。王の甥で現在第2王位継承権を持つ者なんだ。ちなみに、昔話していたアレクシスは俺の従兄弟だ」
「えええぇ~! 貴族じゃなくて王族なの!? その上、権力バリバリにあるじゃないの!」
エラは仰天し過ぎて、思わず大声を上げてしまいました。
貴族と言っても男爵、良くて子爵ぐらいの令息だと思っており、まさか王族だとは夢にも思わなかったのです。
ヴィオルは首を縦に振ります。
「騙してごめん。王族だと言ったらエラが気軽に接することはないと思ったから……。でも、どうせすぐに臣下する身だから権力はそこまでないよ」
権力の有無に関わらずヴィオルが王族だと知っていたら、確かにあそこまで気軽に接することはなかっただろうなと思いました。
「エラ、俺は心の底からエラが好きだよ。王族である俺からだと迷惑かもしれないけど、それも受け入れて欲しいと思っている」
ヴィオルは一呼吸をして箱を取り出します。
「エラ・アン・ヴァーンズ嬢、私ヴィオル・アーサー・ジェームズ・ハワードと婚約してくれませんか?」
ヴィオルは箱を開けてエラの方へ向けます。
それはピンクダイヤモンドの指輪でした。
ヴィオルが宝石店に行った時、どれも綺麗なためどれが良いのだろうと長い間散策し回ったところ目を奪われたものがその指輪。
あまり見かけない宝石であり、濃いピンクの色が可愛らしい宝石のため、エラにピッタリだと思って購入したのです。
エラは見たこともないとても綺麗な指輪を見て息を飲みました。
それと同時に不安も込み上がります。
「エラ、父からは婚約の許可は貰ってる。問題はエラがどうしたいかだ」
ヴィオルは6日かけて手に入れてきた婚約書を取り出して見せました。
エラはもう許可取ってるのかと驚きました。
2人の文字は癖は違うものの、とても丁寧で綺麗な文字でした。
どうやらその婚約書は、自分の名前と継母の名前を入れたら完成するようです。
もし、自分が婚約したいと言ったら間違いなく継母は喜んでサインしてくれるでしょう。
そうなるとやはり、自分の意思で決まるようです。
確かにヴィオルのことは好きです。
でも、この気持ちがはたして友情としてなのか、恋愛としてなのかはよく分かりませんでした。
それに、やはり王族と婚約するのはいくら元令嬢とは言え、子爵令嬢と身分も低いですし、その上、今や庶民となっている自分とはあまりにも分不相応な気がしました。
それを考えると即座に無理だと断るべきなのでしょうが、エラにはそれをすることは出来ませんでした。
「あと、これもあんまり言いたくないんだけど、実はあと2週間で王子の婚約者候補が王宮に集められる。その対象が舞踏会で王子と踊った令嬢だ。これは王命だから逆らうことは許されないんだ。そうなると少なくとも2年は拘束されると考えた方が良い。それを回避するには俺と婚約することだけ」
ヴィオルは顔を俯いて悲しそうな顔をします。
「ごめん。脅しているように聞こえるよな。でも、これは脅しているのではなくて事実を告げているだけなんだ」
ヴィオルはますます悲しそうな顔をします。
「婚約して欲しいと言うのは俺の願望。だから嫌ならハッキリ断って欲しい。でも、俺としては王子のところには行かせたくない。だから、少しでも俺に気があるなら婚約して。どうしても嫌なら最悪破棄しても良いから。俺を選んで欲しい」
エラはヴィオルの真剣な告白に胸を打たれます。
「今すぐには返事をするのはやっぱり無理か?」
エラはゆっくりと首を縦に振りました。
「分かった。でも時間もあんまりないから、1週間後に返事を聞きにくるよ。その時までに返事を用意しておいて」
ヴィオルはそう言い残して箒に乗り、エラとは別れました。
ヴィオルはすぐに嫌だと言われるのが怖くて逃げてしまったことを後悔します。
良い返事をして欲しいと思いますが、エラの選んだ答えなら良くない方でも受け入れようと強く決意をしました。
それでもやはり良い返事が欲しいと願わずにはいられないのでした。




