シンデレラは公爵令嬢と対面する
3日後、エラは屋敷に入りメイド長に会うとすぐに公爵令嬢の部屋に案内されました。
こちらは全体的に掃除を定期的にされているようで張り切ってやる必要性が見当たりませんでした。
しかし、任された以上きちんと仕事を果たさなければなりません。
前回と同様に掃除を始めたのでした。
今回も蜜柑の皮を持ってよく目を凝らさないと分からない程度の汚れを綺麗にとっていきます。
みるみるうちに公爵令嬢令嬢の部屋は先ほどよりもより輝きが増していきます。
もうする所がないからメイド長のところに戻り、次の指示を伺いにいこうとした時、誰かが入って来ました。
公爵令嬢と彼女の専属侍女です。
2人はいつもよりも磨きがかかっているこの部屋に息を飲みました。
「本当に綺麗ね…………素敵だわ! ところで貴女はどちら様ですか?」
エラはしまったと焦り、慌ててカーテシーをとります。
「挨拶が遅れて申し訳ごさいません。先ほどこの部屋の掃除の担当をしておりました、エラ・アン・ヴァーンズとです。気に入っていただけたようで大変嬉しく思います」
公爵令嬢はあぁと首を上下にゆっくりも2回動かしました。
「貴女がエノレア先生の娘さんね。ごきげんよう。スカーレットから話は聞いているわ。流石、彼女が褒めるだけはありますわね」
エラは一瞬スカーレットって誰だっけと忘れかけていましたが、すぐにメイド長だと思い出しました。
「メイド長がそんなこと言っていたのですか?」
エラはその事実を初めて知って大変驚き、思わず叫んでしまいました。
何故ならメイド長は最初自分のことを嫌って、わざとハウスメイドにしたからです。
いくら信頼を得たと言っても、レディースメイドやパラーメイドになったわけでもありませんし、実際にハウスメイドのままでした。
そのため、とてもメイド長が自分のことを褒めるとは思いもしなかったのでした。
大きく目と口を開いて驚いているエラが可笑しかったのか、公爵令嬢は思わず声を出して笑ってしまいました。
「確かにスカーレットはハウスキーパーだから普段はいつも彼女が誰を雇用するか決めるの。だから最初は実力がよく分からない貴女を雇うのには大変反対していたわ」
やっぱり雇われる前からメイド長に気に入られていなかったのだと痛感しました。
「でも、信頼したエノレア先生が推す人だったからお母様はスカーレットの意見を聞かず勝手に採用したわ。最悪ダメだったらすぐに辞めさせたら良いってスカーレットを宥めてね」
継母が雇用される前から公爵夫人に信頼されていることは知っていましたが、そこまで信頼されていたとは思わず、エラは大変驚いてしまいました。
それと同時に継母を誇らしくも思いました。
それにしても、ダメだったらすぐにクビだったのかと思うと大変怖くなりました。
辞めさせるかどうかはメイド長である自分が決めるのだから、気に入られているからと言って調子に乗らないようにと厳しい目と口調で釘を刺されたのを思い出し、背筋が寒く感じました。
もし、ハウスメイドではなくレディースメイドやパラーメイドだったら失態をして、今頃ここにはいなかったかもしれないのです。
家事と言う天職に任されたことを心の底から安堵しました。
最近はヴィオラと言う一夜限りですが新たな友人ができて、望んでいた舞踏会にも行けたし、公爵家に勤めることが出来たと幸運の連続なため、今は神様が自分に味方をしてくれているのかもしれないとすら思いました。
「それでもやはりスカーレットは納得しなかったのでしょうね。だから元貴族令嬢である貴女にはレディースメイドやパラーメイドではなくてハウスメイドをさせたのだと思うわ」
確かに大抵の没落令嬢は義姉達のように他の貴族で家庭教師やレディースメイド、パラーメイドのように家事などには関わらない仕事をする人が多くいます。
エラのように家事が出来る元令嬢もいますが、それは出来ない元令嬢に比べると遥かに少ないのでした。
「ここのメイドは役割は決まっているけど、何かあったらすぐに誰でも対応出来るように基本は全般的に行える人ばかりだから。きっと家事が最低限も出来ないのならこの公爵家には不要だと言うつもりだったのでしょう。わざとキツイ言い方をして、スキルもメンタルも試すつもりだったのでしょうね。それぐらいでへこたれるようではやはり不要だと……」
流石、公爵家。
ここに居るメイド達は大抵のスキルとメンタルの強さがあるようです。
確かにそれならば、家事などが全く出来ない可能性が高いと考えてハウスメイドをさせるのも納得がいきました。
やはり、家事に精通していてメンタルも元から強いエラだからこそ乗り越えられた試験だったのでしょう。
それにしてもメイド長は、どうやら嫌がらせでハウスメイドをやらせたと言うわけではなさそうです。
嫌がらせで行っていたのだと決めつけていたエラは、メイド長に大変申し訳なく思いました。
「スカーレットは庶民でも実力がある人は素直に認めるし、貴族でも実力が無い人は絶対に認めてないわ。実際にここで働いてくれているメイド達は庶民の方も多いのよ。でも実力者ばかりなのよ」
公爵令嬢はここで働いてくれているメイド達を心の底から誇らしく思っているらしく、思いっ切り胸を張っています。
どうやらメイド長も大変信頼しているようです。
「本当に貴女のことを褒めていたのよ。真面目で実力もあって素晴らしい人材だと。彼女はあまりそう言うことを面と向かって言わないから分からなかったかもしれないけど、間違いなく貴女を認めているわ。本当に良い人なのよ。そこは理解してあげて。エラ、これからも自信を持って頑張ってね」
エラはメイド長からべた褒めされていたことを嬉しく思いました。
また、メイド長から大変大きな信頼を得て、公爵令嬢からも自分の名前で頑張れと応援され、心がとても温かくなっていくのを感じました。
「私も自己紹介するのを忘れていたわ。私はランカスター公爵家の長女リリアーヌ・キャサリン・ランカスターと申します。宜しくお願いしますね」
そう言って微笑む姿はまるで本物の天使のよう。
とても華やかで品のある素敵なオーラが見えた気がしました。
「リリアーヌお嬢様。私、エラ・アン・ヴァーンズは誠心誠意を込めてここ公爵家にお仕えさせていただきます。宜しくお願いします」
再び公爵令嬢にカーテシーを取り、不安を感じさせない屈託の笑顔で誓ったのでした。




