魔法が解ける前に
「ありがとうございました」
エラはそのように王子に言ってその場を去ろうとしました。
しかし、王子はエラの腕を掴みエラはその場を去ることが出来ません。
「エラ嬢、もう1度私と踊っていただけませんか?」
まさかの2度目の申し出にエラは勿論、周りの令嬢達も大変驚いてしました。
何故なら、王子が今まで同じ相手に2回ダンスを申し込んでいなかったからです。
こんな前代未聞の状況にエラはどうすれば良いのかと頭が痛くなりました。
1度でも踊りたいと思っていなかったのにもう一度踊るなんて真っ平ごめんです。
しかし、相手は王子。
爵位の低い元貧乏貴族令嬢が王子の頼みを断るわけにはまいりません。
エラは仕方が無くその申し出を受け入れようと王子の手を取ろうとしたその時。
カーンカーンと鐘の音が鳴り響きました。
時計を見ると2つの針が綺麗に重なっていました。
つまり現在0時。
ヴィオルが帰ろうと言った時刻になっておりました。
エラはますます混乱して頭が下がると大変なことに気づきました。
なんと両方の耳にぶら下がっていた大粒のエメラルドのイヤリングが無くなっていたのです。
エラはヴィオルの魔法が解け始めているのだと分かりました。
どうやら思っていた以上に魔法が持たなかったようです。
このままでは美しいドレスも魔法が解けて、普段着に変わってしまうでしょう。
もしこの場でそのような事態が起こると、ヴィオルと一緒にレッスンした成果が水の泡となります。
それに何より、恥をかき、継母達にも迷惑をかけるとこになるのです。
「王子様、本当にすみません。失礼致します」
エラは王子の手を取るのを止め、咄嗟にヴィオルの方へ向かいました。
そして、ヴィオルの腕を掴み階段の方へかけて行きます。
王子は待ってと呼び止めますが、エラは止まるつもりは全くありませんでした。
2人は大慌てで長い階段を降りたため、2人はエラの片方のガラスの靴が脱げたのには気付かず、そのまま馬車に乗り込んだのでした。
馬車は勢いよくどんどん加速していきます。
お城が見えなくなった時、2人は安堵しどっと疲れが現れたのでした。
その頃には化粧は完全に消えて、ドレスと片方のガラスの靴のみが魔法として残っておりました。
2人はエラの家に着くまで少し仮眠をしたのでした。
家に辿り着き、2人が馬車から下りようとした時、ようやく2人はエラの片方のガラスの靴を落としてしまったことに気づきました。
幸いエラの足には怪我が無かったのでヴィオルは安心しました。
しかし、再び素足で歩いて怪我をされても困るため、ヴィオルは先に降りて、エラを地面に付かないよう下ろしてお姫様だっこをしました。
2人が下りた瞬間、役目を終えた馬車は魔法が解けて消えてしまったのでした。
エラは少し恥ずかしくなって、下ろすように言いましたが、ヴィオルはその言葉を一切聞かずそのまま進み始めたのでした。
エラがヴィオルに抱き抱えられたまま、2人が家の中に入るとポムが走ってきて、エラの頬を舐めてお出迎えです。
「ポム、ただいま。お留守番ありがとう」
ポムは褒められて嬉しそうにひぃ~んと一声上げました。
そしておかえりとヴィオルの頬も舐めました。
「ポム、ただいま」
ヴィオルもポムに迎えられ嬉しくなりました。
2人はポムを馬小屋に連れて行き、お休みのキスをした後、そのまま家の中に向かいました。
「ヴィオル、本当に舞踏会へ連れて行ってくれてありがとう」
「エラ、今回の舞踏会は楽しめたかい?」
「ええ、勿論。王様の顔も見れてお父様も思い出せたし、料理も美味しかったわ」
エラは満足そうに答えましたが、最後に何で2回目に食べた料理は美味しくなかったのだろうと疑問をぶつけました。
ヴィオルも大した理由が思い当たらず、時間が経ったから味が少し落ちてあまり美味しく感じなかったんじゃないのと答えました。
エラはその回答に納得しスッキリしたのでした。
「あと、王子とのダンスもけっこう楽しかった。王子って本当にダンス上手よね。おかげで無事に終えることが出来たわ」
後で付け加えた感想にヴィオルは少しモヤッとしました。
「本当は殿下ともう1回踊りたかった?」
「いや、踊りたいわけないじゃない。だってもう1回踊ったら今度こそ失敗するかもしれないし嫌よ。でも断ってはいけないと言われたから踊らなきゃいけないと思っただけよ。あの時、イヤリングの魔法が解けて良かったのか悪かったのか」
エラは肩をすくめます。
ヴィオルはエラの回答に安心しました。
「でも、王子と踊った時よりもヴィオルと踊っていた時の方が楽しかったの」
「殿下のエスコートは完璧だっただろう? それに比べて俺は下手でエスコート全然だったのに……どうして?」
ヴィオルはエラの言ったことが理解できず、自嘲気味に理由を尋ねました。
エラはよくわからないけどヴィオルの方が楽しかったわと笑顔でそう答えたのでした。
2人が会話をし終えるとちょうどエラの部屋に辿り着きました。
ヴィオルは失礼するよとドアを開けました。
そこには最低限なものしかなくとても質素でした。
またそのせいか、とても部屋が広いのでした。
ヴィオルはベットの所まで移動し、エラをベットの上に下ろしました。
エラはヴィオルにありがとうとお礼を言います。
「魔法は長くても1時間ぐらいで解けるからそれまではその格好で辛抱しておいてね。じゃあ、俺はここで退散するね。お休みなさい」
そう言ってヴィオルがエラの部屋を出ようとした時、エラはヴィオルの腕を掴みました。
「ヴィオル、もう一つだけお願いがあるの」
ヴィオルは帰るつもりだったのでその頼みには驚きましたが、その理由を聞くことにしました。
「私、ヴィオルともう1度踊りたいわ。魔法が解ける前に」
ヴィオルはその提案をそのまま受け入れようと思いましたが、そこに問題点があることに気づきました。
「俺はドレスで君と踊れって言うのか! 今魔法が使えなくて元の服には戻せないのに?」
エラはその言葉にビクともせず、そうよと首を縦に動かします。
「大丈夫よ、ヴィオルは男性側をやってくれたら良いから。私は女性側をやるわ」
「そもそも、俺は女性側をやるつもりは全くないし、それにエラは男性側をやったことがないからしたくないだけだろう!」
「確かにそれはそうなんだけどね。でもさあ、ヴィオルはどんな格好をしていても格好良いからさ気にしないの」
「俺が気にするからダメ!あと、その発言は勘違いを招くから本当に止めて」
「私は事実を言っただけよ」
ヴィオルはレッスンする前の時のように戻ったこの感覚は大変だけど、それと同時に楽しくも感じました。
「ヴィオル、私と踊ってくれますか?」
エラはヴィオルに手を差し出しました。
ヴィオルはやれやれと思いながらも喜んでとエラの手を取りました。
2人はそれぞれ礼をします。
ヴィオルは思わず綺麗だと呟きました。
エラは化粧もしてないのにと聞き返しましたが、ヴィオルは化粧してなくてもカーテシーも綺麗だしエラの顔も綺麗ですよと返しました。
エラは調子良いとこ言っちゃってと笑っておりますが、顔はほんのり赤くなっていました。
そして2人はお互いの合図に合わせて音楽なしで魔法が解ける前にエラの部屋の中で楽しく踊ったのでした。




