シンデレラは王子と踊る
エラはヴィオルと令嬢達の会話が終わるのを待っていましたが、なかなか終わる気配がありません。
それどころか、令嬢達との会話がさっきよりも盛り上がっているように見えました。
それを見たエラはイライラし、ヴィオルを置いて帰ろうかとさえ思いました。
「お嬢様、少し話しをしませんか」
突然後ろから声をかけられました。
とても低いバリトンボイスです。
男の人にしては高く透き通ったヴィオルの声とは違いますが、これはこれで美声でした。
振り返るとなんとそこには王子が立っておりました。
エラは慌ててドレスの裾を掴み、ぎこち無くカーテシーをとります。
それと反対に王子は優雅に一礼をしました。
「私はオルガ国の皇太子アレクシス・アーサー・フィリップ・オルガと申します。貴女の名前をお聞かせ願いますか?」
名前を尋ねたければまず自分から名乗るがマナーです。
王子はマナーも動作も言葉遣いも完璧で流石だとエラは感心しました。
「私は元ヴァーンズ子爵のジョージ・リー・ヴァーンズの娘、エラ・アン・ヴァーンズと申します。殿下、お目にかかれて大変光栄です」
エラはヴィオルと練習したことを一言も噛まずきちんと言えたことに安堵しました。
「エラ嬢は、舞踏会を楽しんでおられますか?」
エラは、この質問に戸惑ってしまいました。
何故なら、時間があまり無かったせいで教えられることが限られており、そのような回答にどう答えるべきかヴィオルは教えられなかったです。
ヴィオルにはYesかNoで答えられるものはどちらかで答えとけと教えられましたが、これはとてもではありませんが、2択で答えられる質問ではありません。
そうなると王子が求めてそうな回答で答えるしかありませんでした。
しかし、今まで自分の思ったことをありのままに伝えてきたエラには自分で王子の希望する回答を探すのはとても難しいことでした。
自分にはとても無理だと、仕方が無くエラは言葉に気を付けながら素直に答えることにしました。
「勿論、楽しんでおります。料理も美味しかったですし、何より王様を拝見することが出来ましたわ」
王子は少し驚きましたが、そのまま質問を続けます。
「どの料理が美味しかったのですか?」
「お肉が1番美味しかったです」
「私も貴女と同じでお肉は好きですよ」
普通はスイーツなどを好きだと言うので、エラは令嬢らしくない回答をし、驚きましたが、王子は素直な人だなと微笑ましく思いました。
「それにしても、王をご覧になるのが1番楽しかったのですか?」
ここは王子の婚約者を決めるための舞踏会なので、まさか自分が目当てではないのかと、王子は面を食らったのです。
そのため、どう言う理由なのか尋ねたのでした。
「はい、実は父親に王様がとても似ておりまして、生きている父親を見ているような感じで嬉しかったのです」
エラはついその喜びの思いを王子に熱く語ってしまったのでした。
王子はヴァーンズ元子爵が事故で亡くなったのは知っておりました。
そのため、エラが自分の父親と似ている王を見て喜ぶのは当然だと思いました。
「実は今回私の婚約者を選定するために開かれた舞踏会でありまして、私は多くの令嬢と関わり合いと思っております」
王子は左手を胸に当て、右手をエラに向かって差し出し一礼をとります。
「エラ嬢、私と踊ってくださいませんか?」
正直エラは帰りたいし、何より王子と踊るのが不安だったため、本当なら今すぐこの場で断りたいところです。
しかし、ヴィオルには王子のダンスの誘いは絶対に断ってはいけないと強く言われたため、エラは王子の手をとり渋々と王子の申し出を受け入れるしかありませんでした。
「喜んでお受けいたします」
王子は嬉しそうに中央へ向かいますが、エラはとても強張った顔で王子に付いていきます。
中央に来たところで王子は手を離し、一歩後ろへ下がります。
王子の目でエラに合図を送った後、2人はそれぞれ一礼をしました。
そして右手を上に上げて王子の手を握り、左手を王子の右肩に乗せてスタンバイです。
この時、エラは自分の腰に王子の手を当てられ緊張がより高まりました。
少し待つと音楽が流れ始めました。
最初は緊張したものの、その緊張はすぐに解かれたのです。
なぜなら王子とのダンスはとても踊りやすかったからです。
ヴィオルの時はよくヴィオルの足を踏んでしまいましたし、よく踊りを間違えたりもしました。
それに対して、王子は自分が王子の足を踏んでしまいそうになっても上手に避け、また踊りも上手にリードしてくれたため、ヴィオルに比べてとても楽でした。
こうして音楽の最後の余韻が終わるまでダンスは恥をかくことなく、無事終えることが出来たのでした。
そして、全ての令嬢達から2人に大きな拍手を送られたのでした。




