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四通目

「えー、自信満々に行った推理が皆目見当違いであったこと、調子に乗った探偵セットの買い物、髪の毛を軽んずるような発言、その全てを許してもらいたい立場で申し訳ないのですが、推理小説だけは読ませてください。よろしくお願いします。」


 義男は頭を強く玄関の床に擦りつけて、謝罪と懇願をした。


「こんな短期間に土下座を連発する奴からは形だけって感じで、心がないように見えるなあ。


 まあ、そんな謝ることじゃねえよ。こんなの誰も分からねえよ。完全な密室を自由に行き来するなんて、もう幽霊が犯人じゃないと無理なんじゃないか。」


「確かに今一番可能性があるのは、そんな幽霊や超能力の超常現象の類だな。現実世界で起こっていることとは思えない。


 ……まあ、一度帰ってから、考えることにするよ。」

 義男は肩を落として、俺の家を出ていった。


 俺は自分の部屋に入って、四通目の手紙をもう一度見た。


「和樹君へ


 もう昔みたいに君と一緒にいることはできないのかな?


 和樹君は私のこと嫌いかな?


 君はもうみんなみたいになっちゃったのかな?


 そうかもしれないね。


 これで私から送る手紙は最後です。


 君には君の人生があるもんね。君はあんないい友達と一緒に人生を歩むことができるんだもんね。


 手紙でしか君とつながれない私は、わがままを言っちゃいけないよね。


 ごめんなさい。」


 なぜだろう。この手紙を読むと、目が潤む。思い当たるものはないのに、この手紙の意味もよく分かっちゃいないのに、心は動かされる。


 何かを忘れている。


 それはきっとこの手紙の彼女との思い出。


 何度その手紙を読んでも、その思い出は思い出せない。ただ、心が泣いている。


「和樹~。ごはんよ~」

 お母さんの声が聞こえてきた。その声でふと我に返る。気付くと、義男が帰ってから、一時間以上が経っていた。お母さんが帰っていたことも気づかなかった。俺は手紙を机の上に置いて、晩御飯が用意されているリビングに向かった。


「なんか家具動かした?」

「ああ、今日、いろいろあって、義男と一緒にあちこち物を動かしたから、それだと思う。」

「家具の位置がちょっと動いてる感じがして、泥棒でも入ったのかなと思ったんだけど、和樹が動かしたならよかったわ。」


 俺とお母さんは、互いにごはんをパクパクと口の中に運びながら、話をした。


「なんだか、良かったわ。和樹にも友達ができるようになって。」

 話はしばらく途切れた後に、お母さんが続けるようにこう言った。


「もうそれ以上言わないでくれ。その話は聞きたくない。」

「なによ。親として心配だったのよ。いつも一人で遊んでいるだけならいいんだけど、一人で遊んでいるのに、誰かと遊んでいるような感じで、あまりにもおかしかったから、真剣に和樹は病気かなと思ったこともあるんだから。」


 俺はごはんを食べる手が止まった。


「そう、いつもあの古い橋のあたりで、一人でずっと遊んでたわよね。まあ、あの橋は取り壊されちゃったけどね。」


 橋?


 橋だ。いつも一人で遊んでいた。学校が終わると、毎日、一目散にあの橋に向かっていた。まるでそこに何かがあるみたいに。


 何をしていた?


 かくれんぼだ。そうだ。俺はかくれんぼの鬼だって、見つけるのが上手いから、言われてた。いや、書かれていた。確か、今受け取っている手紙の文字みたいに綺麗な字で。


 誰が?


 なぜだか、橋や文字の光景は浮かんでくるのに、この記憶の中心にあるはずの誰かの姿が浮かび上がってこない。


 ……


 誰だ?


 俺は結局、思い出せなかった。夕食食べ終わり、食器を流しに持っていくと、部屋に戻った。


 俺はもう一度、手紙を見るが、やはり思い出せない。俺はもう一度、この状況を整理してみることにした。


 あの橋で遊んでいた時の光景は、思い出せるのに、そこで遊んでいた誰かの姿は思い出せない。


 そして、今、引き出しの中に、その時の誰かと同じ文字の手紙が置かれている。限りなく普通の人間では、不可能な方法で。


 義男の言葉を思い出す。


 不可能なものを除外していった時、どんなものが残っても、それがどれだけ信じられなくても、それが真実なんだ。


 俺はこの一連の出来事に、一つの結論を出した。


 俺は机から立ち上がり、目を閉じた。そこから何かを感じる方へ歩いて行った。何歩か歩いたところで、感じる何かに向けて、両手をかけてみた。


 すると、人の肩のような感触を両手に感じることができた。

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