現場検証
俺は何かに引っかかって、こけてしまった。本棚に頭ぶつかりそうになるところを、なんとか手で本棚を押さえて、難を逃れる。
しかし、本棚は俺の体重にバランスを崩し、倒れてしまった。本棚に入っていた本が部屋中に散らばる。
「何をやっとるんだ。何もない所でこけやがって、ラブコメの主人公か。」
俺は床に叩きつけられた上に、本棚の下敷きにもなった。義男は心配することもなく、しょうもないツッコミを入れており、体中が痛む俺をイライラさせた。
部屋の中に手紙の差出人のが使っている隠れ場所や隠し通路がないか探していただけが、とんだ災難に遭ってしまった。痛い。
「盛大にこけやがって、まあ、本棚の後ろには、何もなかったことは分かったな。」
義男は、倒れた本棚を起こして、落ちた本を拾い集め、本棚に戻していった。その途中、突然大きな声を上げた。
「これ、送られてくる手紙の便箋じゃないか?」
義男はそう言って、散らばった本の中にある便箋を拾い上げた。
「やっぱ、……いや、なんでこんなところにあるんだ?」
義男は差出人が家にいる可能性に注意しながら、驚いた。俺は体に乗っている本を払いのけて、立ち上がった。
「まあ、返信を確認して、手紙を書くわけだから、この部屋に隠しておいた方が便利だからな。特に不思議はないだろう。」
しかし、もし、この家の中に差出人がいるのならば、この便箋を奪うことは手紙を書けないことにつながる。義男の推理の是非を確かめる最適な方法だと、考えた。どうやら、義男もそれを察したようで、義男は静かに、便箋を自身のポケットの中に入れた。
俺は倒した本棚を元に戻した。
それから、部屋中の家具を動かして、隠れ場所を探すが、何もなかった。この直方体な部屋の六面すべてを調べたが、人ひとりはいることのできる場所はなかったし、ネズミ一匹はいる穴もなかった。義男は最後に、引き出しに何か細工はないかと確認するが、特に何もなかった。
「じゃあ、他の部屋も探すか。ここには何もないと分かったわけだから。」
そう言った義男は、スマホに何かを打っていた。それを見て、俺のスマホを確認してみると、義男からメッセージが来ていた。
「今から他の部屋を探すが、その前に明日から使える侵入者確認ギミックを紹介する。」
そのようなメッセージを送った後、義男は俺に近づいて来て、頭に手をやった。
ブチっ
義男は俺の髪の毛を掴み、引き抜いた。
「痛っ、何するんだよ。」
俺は義男を問い詰めようとすると、義男は口に人差し指を当て、静かにするようになだめ、もう一度メッセージを送ってきた。
「侵入者確認ギミックには、硬い髪質の髪が必要なんだ。俺みたいな柔らかい髪質だと、精度に欠くからな。」
そういうメッセージを送られると、俺の机の上にあったセロテープを小さく二つちぎった。そして、一方の窓サッシ上部に髪の毛をセロテープで張り付け、もう一方の窓ガラスにかかるようにした。その後、俺を外に出るように仕向け、部屋のドアを閉めた。すると、義男は扉上部のドア枠にも髪の毛を張り付け、扉に髪の毛がかかるようにした。
「よし、他の部屋も見てみるか。」
そう言って、義男は別の部屋に向かおうとしていた。義男は後で詳しく教えるからと口パクで伝えた。
その後、別の部屋を探したり、天井を突いて、天井に隠れ場所がないか確認したが、結局、人が入ることのできる隠れ場所は見つからなかった。
「今回も推理が外れたんじゃないのか。人が隠れることができる場所はすべて探したぞ。」
義男は人差し指を口に押さえて、静かにするように促した。
「じゃあ、こんだけ探してなかったら、どこに隠れ場所があるっていうんだよ。」
義男は人差し指を口から離した。
「じゃあ、最後の手段を見せてやる。」
そう言うと、義男は俺の部屋に戻っていった。俺は義男についていった。
「さっき言った侵入者確認ギミックの説明をする。さっき張った髪の毛がドアにかかっているのを確認してくれ。」
そう義男からのメッセージを受け取ると、俺は張り付けた髪の毛を見ると、先ほど張り付けた時と同じように、こちらのドア側に髪の毛が見えていた。義男は俺の部屋に入り、すぐにドアを閉めた。
「今、張り付けた髪の毛はどうなっている?」
そのメッセージを受け取り、髪の毛を見てみると、ドアを開けたことによって、髪の毛がドアに巻き込まれていた。
「髪の毛がドアに巻き込まれている。」
「これが侵入者確認ギミックだ。扉を開かなければ、髪の毛はドアにかかったまんま、扉が一度でも開けば、髪の毛が巻き込まれる。こうすれば、家にいない間、扉が開かれたかどうかが分かる。
すべての部屋にドアと窓以外の脱出通路がないことを確認した。なので、これを家のすべての扉と窓にすることによって、手紙の差出人がどこの部屋から出てきて、この部屋に入っているか確認することができるって訳だ。」
義男は自信満々にメッセージを送ってきた。
「家じゅうのドアに髪の毛仕掛けたら、ハゲるわ。」
俺はドアを思いっきり開け、義男にドアツッコミをかました。
「痛い。」
義男は鼻を押さえて、痛がっていた。
「たった数本の髪の毛の犠牲で、謎が解けるんだ。安いものだろ。分かった。これで一つもギミックが発動せずに、手紙が出されたら、もうお手上げだ。土下座だ。」
義男はメッセージを送ることもせず、声を出して言った。確かに、義男の推理が外れていても、差出人の侵入経路は必ず分かるようにはなるか。
「でももし、この誰もこの部屋を開けていない状況で、引き出しに手紙が入っていたらどうする?」
俺は冗談めかして、義男の意思を確かめてみた。窓の髪の毛は窓に巻き込まれていなかった。
「今後、一生、推理小説は読まない。」
義男はきっぱりと言い張った。俺はそうかそうかと首を振りながら、引き出しを開けた。俺は何となく四通目が入っているんじゃないかと思いながら、中身を確認した。
すると、封筒の中には、いつもの便箋ではなく、あの綺麗な字で何かが書かれたノートの切れ端が入っていた。




