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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
14/75

十四話 森田家の晩餐

柴崎さんと白井さんが帰ったので、俺は急いで家を出た。森田さんの家に行く前に手みやげの菓子折りを買うためだった。


駅前の商店街に行き、最中の詰め合わせを買う。贈答用の熨斗も付けてもらう。母にお金を少しもらったので助かった。


菓子折りを買うと、そのまま森田家に向かう。


「こんにちは」と言って森田家の玄関を開けると、すぐに家の中から森田さんが出て来た。


「お姉さんいらっしゃい!」


「今日はお夕飯に招待していただきありがとう」そうあいさつして玄関に上がらせてもらう。


そのとき、玄関に松葉女子高校の通学靴が三足並んでいるのに気がついた。


誰か来ているのかな?と思ったとき、家の中から明日香と真紀子が現れた。


「お姉様、いらっしゃい」


「みっちゃん、待ってたわ」


「あら、あなたたちもお呼ばれしたの?」


「ええ、森田さんの家に来たのは二回目なの」


「またお姉様に会えて嬉しいわ」


「さあ、お姉さん、奥に入って」と俺は森田さんに促され、以前にもお邪魔した和室に通された。壁の上を見上げると俺が以前描いた森田さんの家族の肖像画がまだ飾ってあった。少し恥ずかしい。


「いらっしゃい、美知子さん。ゴールデンウィーク以来ね」と森田さんの母親が台所の方から出て来て俺に声をかけてくれた。


「またお招きいただきありがとうございます。・・・これ、つまらないものですが」と言って菓子折りを出す。


「あら、まあ、美知子さんなら気を遣わなくてもいいのに」と母親は言ったが、それでも菓子折りを受け取ってくれた。明日香たちもおみやげを持って来ていたようで、忘れなくて助かった。それなのに真紀子が俺を尊敬のまなざしで見ている。


「お料理の準備を手伝います」と俺は森田さんの母親に言った。


「あら、大丈夫よ。もうあらかた準備は終わってますから、席に着いてくださいな」


和室のテーブルには小皿や箸が並べられている。すぐに母親が台所に引っ込み、大皿に盛った料理を出してきた。


俺が受け取る前に明日香と真紀子が出て大皿を受け取った。森田さんも台所からほかの料理を運んできた。


「お姉さんは座って。今日は何もしなくていいから」


「わ、悪いわね」と言いつつも座布団の上に座らせてもらう。明日香たちまで手伝っているので、さらに俺が出て行くと渋滞して、逆に邪魔になりそうだったからだ。


森田さんがビールやジュースの瓶を出しているところに森田さんの父親が出て来た。


「やあ、藤野さん、久しぶりだね」


「今日もお招きいただきありがとうございます」と頭を下げる。


その間に料理の配置が終わったようで、明日香たちも席に着き始めた。


「卓郎はまだ来てないのか?」と聞く父親。


「茂子、お兄ちゃんを呼んできて」と森田さんが母親に言われた。


「しょうがないな。・・・兄さ〜ん」と呼びながら和室を出て行く森田さん。すぐにお兄さんの卓郎さんをつれて戻ってきた。


「遅いよ、兄さん」と文句を言いながら席に着く森田さん。ちなみに席順は、大きな座卓の向こう側に森田さんの母親、父親、卓郎さんと並び、こちら側は森田さん、私、明日香、真紀子の順だった。


「女の子ばかりで気後れしたんだよ」と卓郎さんは言い訳しながら、


「藤野さん、お久しぶり。それに水上さんと内田さんだったね?いつも茂子と仲良くしてくれてありがとう」と言った。


「お久しぶりです」とこちらも頭を下げる。ちょっと気まずいが、感情を顔に出さないようにしよう。


すぐにビールとジュースの栓が開けられる。向こう側の三人はビール、手前側は俺も含めて全員がジュースを注ぎ合った。


「では、藤野さんと茂子のお友だちに乾杯!」と父親が発声して、俺たちも唱和した。


「さあ、どんどん食べてくださいね」と母親に言われ、俺たちは小皿に料理を取って食べ始めた。


「今夜もとてもおいしいお料理の数々ですね」と褒める。


「ありがとう、美知子さん」と喜ぶ母親。


「藤野さんは落研おちけんに入ったって言ってたね?今も落語とか聴きに行ってるのかい?」と卓郎さんが俺に聞いた。


「はい。ここにいる明日香ちゃんのお姉さんに誘われて入部して、時々落語や漫才を聴きに行ってますよ。自分でするわけじゃありませんが」


「楽しそうでいいですね」


「それからつい先日、明日香ちゃんの従姉の黒田祥子さんに誘われて英研、つまり英語研究会にも入ったんです」と俺が言うと、


「え、英研?」と卓郎さんが動揺した。卓郎さんと英研の間でちょっともめごとがあったからかな(「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」二百三十二話参照)?


「まあ、英文学科に進学しただけじゃなく英語の部活もされるなんて、勉強熱心ね」と、母親が卓郎さんの気持ちに気づかずに俺を褒めた。


「英語の科目のレポートが難しかったので、勉強を兼ねて入部したんです」


「短大のお勉強って、そんなに大変なの?・・・卓郎からは大学の勉強のことをあまり聞かないけど、あなたもそうなの?」と母親が卓郎さんに聞いた。


「僕は適当にやってるよ」と卓郎さん。


「兄さん、だらだらと過ごしてそう」と森田さんが言って、卓郎さんが笑いながら「こら」と言い返していた。


「お兄さんは明応大学でしたね」と尋ねる。


「そうだよ」


「何学部ですか?」


「僕は経済学部経営学科さ」


なぜか俺が質問する様を森田さんと両親がにこにこしながら見ていた。


「先日、明応大学に進学した女子高時代の友人を訪ねたんですが、大きな大学ですね」


そのとき俺は一色と神田君の顔を思い浮かべた。今週はアポロ十一号の月面着陸が話題になっていたが、SF好きの神田君はあのニュースに興奮したのかな?・・・その後何度かアポロ計画で宇宙飛行士が月面まで行ったけど、それ以降は宇宙ステーション止まりで、五十年近く経っても宇宙旅行は身近なものとなっていないな、と俺は平成時代の宇宙開発を回想した。


それにしてもアポロ計画に使われたコンピューターのスペックは、俺の時代のパソコン一台より低機能だったと聞いたことがある。よくそんなシステムで月まで行ったもんだ。逆に感心してしまう。そう考えながら当時使っていたウィンドウズ7のパソコン画面を懐かしく思い出していた。


俺がそんなことを考えていると、明日香が爆弾発言をした。


「そう言えば姉さんたちから、お姉様が明応大の男子学生にプレゼントしたって聞いたけど・・・」


「え!?」と驚く森田さんと両親。


「卓郎、あなた美知子さんから何かもらったの?」と聞く母親。


「俺は何ももらっていない・・・。外で会ったこともないよ」と答える卓郎さん。


「お姉さん、ほかの人と浮気しているの?」と俺に追求する森田さん。


「そ、そんなんじゃないのよ」と俺はあせって弁解した。


「さっき言った女子高時代の友人を訪ねてレポートの課題に関することを質問したの。そしたら彼女の友人の男子学生を紹介してくれて、いろいろ教えてもらったの。そのお礼に手作りのブックカバーを差し上げただけなのよ」


「そ、そうなの?・・・その人と付き合っているわけじゃないのね?」と確認する森田さん。


「そういう関係じゃないから」と答える。流れで「安心して」と言いかけたが、何を安心するんだと思いなおして言葉を飲み込んだ。


「その学生に何を尋ねたんですか?」と俺に聞いてくる卓郎さん。


「何か知りたいことがあれば、卓郎を頼ってくださっていいのよ」と母親が真面目な顔をして言った。ちょっと怖い。


「英語のレポートで、文学における未来と過去の描写ってテーマで書いたんです」と説明する。時間旅行の話だったなんて言いにくかったからだ。


「そういう内容なら僕には手伝えないな」と卓郎さん。そう言ってもらえて助かった。


「過去はわかるけど、未来の描写ってどんなの?」と聞く母親。


「今話題の宇宙旅行の話じゃないか?」と森田さんの父親が言った。アポロ十一号のことを言ってるんだろう。


「女子高でも月面着陸のことは話題になってたね」と真紀子。


「私たちもいずれ月に行けるのかな?」


真紀子よ、多分俺たちが生きている間にその夢はかなわないぞ、と思ったが、もちろん口には出さなかった。


「白黒テレビだからよくわからなかったけど、草も花も、それどころか空気も水もない世界じゃない、月面って。そんな所へ行ってもつまらなそう」と明日香。正直な感想だと思う。


「水上さんって夢がないね~」と森田さんが言った。「きれいな地球が空に浮かんでいて、ここまで来たんだな~ってしみじみと思いを馳せられるじゃない」


森田さんの方がロマンチストだな、と思っているうちに帰る時間になった。


「今日はご招待いただきありがとうございました。お料理とてもおいしかったです」と森田家の人たちにお礼を言う。


「大したものじゃないから、気になさらずにまた来てくださいね」と母親に言われる。


「はい。ありがとうございます」と言って玄関に向かう。明日香と真紀子が靴を履いているときに、森田さんが俺を少し離れたところに呼び寄せた。


「お姉さん、内田さんの家の夏祭りに行くの?」


「マキちゃんに聞いたの?今年も行くつもりよ」


「・・・それ、私もついて行っちゃだめかな?」と上目遣いに聞く森田さん。


「え?森田さんも行きたいの?いいわよ、つれて行ってあげる」


「ありがとう・・・」まだ私を見上げている森田さん。


「ほかにも何かあるの?」


「水上さんは内田さんの家に泊めてもらうんだって」


「そうよ。マキちゃんが明日香ちゃんの家に下宿することが決まった年から泊まりに行ってるから、今年で三年目かな?」


「お姉さんのおじいさんの家が近くにあるんでしょ?」


「そうよ」


「私もお姉さんのおじいさんの家に泊まりに行っていいかしら?」


「えっ、私の祖父の家?」


「うん、だめかな?」と甘えるように俺を見上げる森田さん。


「泊めることはできると思うけど、弟が一緒の部屋で寝起きするわよ、多分」


「お姉さんが一緒なら大丈夫でしょ?」


「それはまあ・・・」


「なら、お願いします」


「一応祖父に聞いてみるわ。弟にも。・・・それから返事をしていい?」


「それでかまいません」と森田さんが言った。


改めて玄関に向かおうとすると、今度は卓郎さんに呼び止められた。


「先日は悪いことをしたね。その・・・柿崎さんが」俺が柿崎さんに襲われたことを言っているのだろう(「五十年前のJKに転生?しちゃった・・・」二百三十話参照)。


「いえ、もっと穏便に終わればいいと思っていましたが・・・。その、柿崎さんはどうされましたか?」


「結局大学を辞めて田舎に帰ったよ。今は親戚の伝手つてで事務員として働いているらしい」


「そうでしたか。・・・なんか、申し訳ありません」


「藤野さんが気に病むことじゃないよ。柿崎さんがしてはいけないことをしてしまったのが悪かったのだから。・・・柿崎さんも反省していたから、藤野さんももう気にしないで」


「はい。お気遣いありがとうございます」俺は頭を下げて森田家を辞した。


「何を話していたの、お姉様?」と待っていた明日香に質問された。


「森田さんが夏祭りに行くって。そういうお話をしたの」と俺は一部を隠して答えた。


十四話 登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺、お姉さん、お姉様、みっちゃん) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

柴崎由美しばざきゆみ 美知子の女子高時代の同級生。徳方大学一年生。

白井小夜しらいさよ 松葉女子高校二年生。柴崎由美の従妹。

森田茂子もりたしげこ 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

水上明日香みなかみあすか 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

内田真紀子うちだまきこ(マキ) 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

森田卓郎もりたたくろう 森田茂子の兄。明応大学経済学部二年生。

水上杏子みなかみきょうこ 明日香の姉。秋花しゅうか女子大学二年生。

黒田祥子くろだしょうこ 明日香の従姉。秋花しゅうか女子大学二年生。

柿崎塔子かきざきとうこ 元秋花(しゅうか)女子大学生。


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