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気がついたら女子短大生(JT?)になっていた  作者: 変形P
昭和四十四年度(短大一年生・夏休み編)
13/75

十三話 妖怪退治の依頼(美知子サイド)

日曜日は夕方まで蕗子ちゃんたちと遊び、家に送り届けてから下宿に向かった。


いつもより遅めに着いたので、すぐに夕飯の支度を始める。今日は手軽に魚肉ソーセージ入り豆腐ハンバーグを作ろう。


魚肉ソーセージと水気を切った木綿豆腐をスプーンですり潰し、卵とパン粉を混ぜ、塩コショウを振ってからフライパンで焼く。


それにご飯とみそ汁と漬け物を付けてメニューの完成だ。


杏子さんと祥子さんと三人でテーブルに着き、「いただきます」と言って食べ始める。


「いつも食べるハンバーグよりもあっさりした味ね。おいしいけど」と杏子さん。


「これは豆腐ハンバーグです。健康的なんですよ」と言ったものの、この時代では肉をたくさん食べることは滅多にない。普段の食事が健康的ヘルシーだから、あえて豆腐ハンバーグを作る意味は薄いが、二人は文句を言わずに食べてくれた。


その夜、寝る前に今週の予定を確認する。今週は試験が二科目あるだけだ。何とか間に合うだろう。来週も二科目の試験があり、それが終われば夏休みだ。今週の土曜日に森田さんの家を訪ねると約束しているけど、何とか余裕でこなせるだろう。


その週はアポロ十一号の人類初の月面着陸が話題になっていた。そんな中、古田さんから封書が届いた。またパーティーへのお誘いかな?夏休みに入ってからなら可能だけど、と思いつつ開封すると、返信用の封筒とともに次の文面の便せんが入っていた。


藤野美知子様


前略


先日は祥子先輩と一緒に我が家においでいただき、とても楽しい時間を過ごしました。美里もみすずも芳野も、美知子先輩と祥子先輩によろしくと言っています。


さて、今回お手紙をさし上げたのは、白井小夜さんという二年生から妖怪についての相談を受けたためです。


私たちは妖怪について何の知識も対策も持ち合わせておりませんが、美知子先輩は在学中は妖怪関連の謎をいくつも解いてこられ、妖怪ハンターと呼ばれるほどに頼られていたとお聞きしています。


そこで白井さんからの相談内容をお伝えします。試験勉強でご多忙のことと思いますが、もし何らかの解決方法を思いつかれましたら、同封した封筒を使って白井さんにお返事を出していただけないでしょうか。


以下、相談内容です。


白井さんの母方の祖父母の家は東北にありますが、元々地主だったそうで古いけど大きな木造家屋だそうです。中は薄暗い部屋が多く、木材が軋む音もしばしば聞こえてきて、白井さんが子どもの頃には怖い思いをしたそうです。


その家は元々平屋でしたが、白井さんの母親が子どもだった頃に屋根裏に子ども部屋を作り、階段を設置しました。今では物置部屋になって大小の箱がたくさん置かれているそうです。


去年の秋頃の夕方に白井さんの祖父が畑仕事から帰ったときのことです。物置部屋に上る急な階段を見上げたところ、薄暗闇の中に子どもが立ってるのが見えたそうです。身長は一メートルくらいで、和服を着ていましたが、その子どもの顔は中年の男のように醜く歪んでいました。


その話を聞いて、私は江戸川乱歩の「一寸法師」を思い出しました。


白井さんの祖父は腰を抜かして、玄関まで這って出ると、近所の人を呼んだそうです。警察官まで来る大騒ぎになりましたが、家の中を探しても子どもも中年男もいませんでした。


お金や貴重品は盗まれていませんでした。しかし、物置の中に置かれていた箱のいくつかには動かした痕跡があったということです。


その後は怪異現象は起こっていませんが、白井さんの祖父母は今もなおその家でおびえて暮らしているそうです。


本当に妖怪がいたのか、それとも何かを見間違えただけなのか、その謎を解いてほしいと白井さんに頼まれました。冒頭に書いたように私たちには何もできませんので、美知子先輩を頼ってお手紙をさし上げました。


もし可能であれば、ですが、白井さんの相談に乗っていただけないでしょうか?


時間が経っているので急ぎはしないそうです。どうぞよろしくお願いいたします。


草々 古田和歌子


これを読んで俺は考え込んだ。


まず、この世に妖怪なんているはずがない。・・・多分。


田舎の旧家に背の低い中年男がいた。白井さんという人の祖父が顔を見たが、知った人ではなかった。直接危害を加えられなかったので、身長と服装はまずおいて、おそらく村外から侵入した空き巣狙いだろう。


だが、何も盗まれてないと言う。祖父に見つかったのですぐに逃走したのだろうか?


それとも、物置部屋の箱の中にお宝があって、奪われてしまったのだろうか?


さすがにこれだけの情報では結論が出せない。だから白井さんには、現場に行って調べないとはっきりしたことは言えないと返事を出そう。


現場に行くってことは、俺を祖父の家に招待することになる。白井さんの祖父がそれを受け入れてくれるだろうか?


「そこまでしてもらう必要はない」という返事が来れば、それでこの件は終わりだ。いや、むしろ終わりになってほしい。そう思いながら俺はざっと返事を書き、翌朝ポストに投函した。


その週の試験を無事に終え、土曜日になってお昼過ぎに杏子さんたちと帰省する。今日は夕方に森田さんの家に行く予定だ。いろいろあった森田さんのお兄さんがいなければいいと思ったが、会わないわけにはいかないだろうな。


駅で杏子さんたちと別れ、午後二時過ぎに家に着いたら、玄関に知らない女性ものの靴が二足そろえられていた。一足は松葉女子高校の通学靴だ。


「た、ただいま・・・」と用心しながら声をかけると、すぐに母が出て来た。


「おかえり、美知子。お客さまが来ているわよ」


「お客?」誰だろうと考えた。森田さんなら、夕方家に行くから、俺の家に来る必要はない。今頃俺を迎え入れる準備をしているはずだ。


俺がおそるおそる玄関に上がると、お茶の間に二人の女性が座っていた。ひとりは女子高時代の同級生の柴崎さんだ。


「あら、柴崎さん!?」


「お帰りなさい、生徒会長!・・・じゃなかった、藤野さん!」立ち上がる柴崎さん。


「久しぶりね。・・・その子は?」と俺は、柴崎さんにつられて立ち上がったもうひとりのお客を見た。松葉女子高校のセーラー服を着ている。


「この子は私の従妹の白井小夜よ」と紹介する柴崎さん。


「ご、ご無沙汰しています、みちこさま・・・じゃ、なくて、藤野先輩」と白井さんと紹介された女子生徒が頭を下げた。


ご無沙汰?・・・初対面ではないのかな?顔は覚えていないが。


「あなたが古田さんから紹介された白井さんね。は・・・こんにちは」初めましてと言いかけて言葉を選んだ。俺は三月まで生徒会長をしていたから、下級生が俺の顔を知っていても不思議ではない。


「立ち話もなんだから座りましょう」と俺は二人をちゃぶ台の前に座るよう促した。


二人が座り、俺は荷物を置いてその正面に座った。母は台所にお茶を淹れに行った。


「今日来られたのはおじいさんのおうちの件?」と俺は白井さんに尋ねた。


「柴崎さんが白井さんの従姉だとは知らなかったけど、そのことで柴崎さんも来たの?」


「そうなのよ、藤野さん。藤野さんから丁寧な返事をもらった小夜が母親、つまり私の叔母に相談したの。藤野さんをおじいちゃんの家に招待していいかって」


「そして母が伯母、つまり由美さんのお母さんに電話で相談したのです」と白井さん。


おそらくどこの馬の骨かわからない俺を実家につれて行くと白井さんが言ってるので、どうしたものかと相談したのだろう。


「そしたら伯母は藤野先輩のことをよく知っていて、信頼のできる人だって保証してくれたの」


「そこで話が私の耳に届いたってわけ」と柴崎さんが言った。


「妖怪が出たか出なかったかなんてどうでもいいけど、これは藤野さんを祖父宅に招待して、一緒に旅行ができるチャンスじゃないと考えたの。藤野さんも知らない人の家にひとりで行くより、私がいた方が心強いでしょ?」


「それはその通りだけど、結局おじいさんの家に行くことになったの?」


「ええ。おじいちゃんも私の友だちで小夜の先輩である藤野さんを招待することには賛成してくれたし、例の妖怪騒動の謎を解いてくれる頭のいい人だって言ったら、往復の旅費も負担してくれることになったの」


「そこまでしてくれるの?」さすがに旅費のことは心配だった。いくらかかるかわからないけど、往復数千円は必要だろう。まだバイトを始めていないから、懐具合は厳しかった。


「もちろんよ。おじいちゃんの家で一緒に寝泊まりしてもらうから、宿泊費もいらないわよ。・・・妖怪が出たかもしれない家だけど」


「妖怪なんていないわよ」と俺はさらりと言い返した。


「あれ?」と首をかしげる柴崎さん。


「前は妖怪とかお化けとかすぐに怖がっていたけど、全然平気なの?」


そういえば俺はオカルト話が苦手だった。女子高時代に妖怪がらみの事件がいくつかあったが、それらに関わってこれたのも妖怪の存在をただ否定したいがためだった。


でも、今はお化けや妖怪が出る家と聞いても何も感じない。知らないうちに耐性ができたのかな?命の危険があるような修羅場を何度もくぐり抜けたわけでもあるまいに・・・。


「特に怖くはないみたい。・・・短大生になったからかな?」


「よくわからないけど、より頼れる存在になったのなら何よりだわ。いつ祖父の家に行ってくれるの?」


「おじいさんの方の都合もあるんじゃない?」


「その点は大丈夫よ。藤野さんの都合に合わせるって」


「私は八月二日から夏休みになるから・・・」


「じゃあ、三日の日曜日に出発しましょうか?」


私はお茶を持って来た母に聞いた。「八月三日から柴崎さんのおじいさんの家に遊びに行ってもいいかしら?」


「どこまで行くの?」と母が聞くと、「東北です」と柴崎さんが言って住所を教えてくれた。


「山と田んぼしかない田舎です」


「じゃあ泊めてもらうことになるのね。何日くらい行くの?」


「とりあえず一週間くらいではいかがでしょうか?」


「なら、おじいちゃんちに行くのに問題はないわね」と母が言った。この「おじいちゃん」は俺の祖父のことだ。


「でも、旅費まで出してもらっていいのかしら?」


「藤野さんにはこちらからお願いして来てもらいますので、そこは遠慮しないでください。私たちの親も祖父母も了承しています」


「お父さんがいいと言うなら行ってもいいけど」と母が折れた。


「それではどうかよろしくお願いします」と柴崎さんと白井さんが頭を下げた。


「どうせなら坂田さんも誘おうかな?」と柴崎さんがうきうきしながら言った。


「今度会う約束をしているから、聞いてみるね」


俺は改めて白井さんを見た。俺に見つめられて頬を染める白井さん。最初は思い出せなかったが、だんだん見たことがある・・・いや、描いたことがある顔のような気がしてきた。


「ひょっとして、白井さんに似顔絵を描いてあげたかしら?」


「はい。入学したときに美術室で似顔絵を描いてもらいました。ご卒業前にはみちこさまにミチンガを作ってもらい、さらに手相を観てもらいました」


あの頃教室に押し寄せて来た下級生のひとりか。俺は当時一部の生徒からみちこさまと呼ばれていた。柴崎さんのせいで。


「そのとき、妖怪退治をお願いしたんですが、断られてしまいました」


そんなことがあったかな?・・・思い出せないけど、卒業前でばたばたしていた時期だ。東北への小旅行なんてする余裕はなかった。


「それは悪かったわ。あの頃は卒業式や短大入学の準備があって忙しかったの」


「はい、わかっています。でも、今度こそ妖怪退治に来てくれることになりましたから、とても感謝しています」


「話がまとまったところで、これから私の家に来ない?母も歓迎してくれるわよ」と柴崎さんが言った。


「ごめんね。今日は夕方から予定が入っているの。東北から帰って来たら寄らせてもらうわ」と断った。


「それは残念ね。英研に入ったことや、レポートや試験勉強に忙殺されているってことは坂田さんから聞いていたけど、それ以外にもいろいろ忙しそうね?」


「なぜか急に予定が立て続けに入っちゃったの」と俺は弁解した。


「忙しそうだからそろそろ帰ろうか」と柴崎さんが白井さんに言った。


一緒に立ち上がる二人。俺は二人を玄関先まで見送った。


お茶の間に戻ると部屋の隅に包装紙に包まれたお菓子が置いてあるのに気づいた。


「柴崎さんが持って来られたのよ」と母。みんな気を遣うようになったんだな、見習わなければと思った。


十三話 登場人物


藤野美知子ふじのみちこ(俺) 主人公。秋花しゅうか女子短大英文学科一年生。

水上杏子みなかみきょうこ 美知子の先輩で同居人。秋花しゅうか女子大学二年生。

黒田祥子くろだしょうこ 美知子の先輩で同居人。秋花しゅうか女子大学二年生。

森田茂子もりたしげこ 松葉女子高校二年生。美知子を慕う後輩。

古田和歌子ふるたわかこ 松葉女子高校三年生。美知子を慕う後後輩。生徒会長。

大野美里おおのみさと 松葉女子高校三年生。美知子の後輩。

矢田やだみすず 松葉女子高校三年生。美知子の後輩。

葉山芳野はやまよしの 松葉女子高校三年生。美知子の後輩。

白井小夜しらいさよ 松葉女子高校二年生。

柴崎由美しばざきゆみ 美知子の女子高時代の同級生。徳方大学一年生。白井小夜の従姉。

坂田美奈子さかたみなこ 美知子の女子高時代の同級生。秋花しゅうか女子短大家政学科一年生。


書誌情報


江戸川乱歩/江戸川乱歩全集第8巻(『踊る一寸法師』所収、春陽堂、1955年5月30日初版)

江戸川乱歩/江戸川乱歩全集第10巻(『一寸法師』所収、春陽堂、1955年3月5日初版)

江戸川乱歩/灰色の巨人 少年探偵江戸川乱歩全集12(光文社、1955年12月1日初版)


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