第1話:誰にも書かれていないラスボスの始まり
ゲーム画面から最後の通知音が鳴り響いた。その音はレイにとって、もはや聞き慣れすぎていて、もはや感動などなかった。
「Congratulations! You've cleared the Final Hero Route of Eternal Chronicle.」
彼は古びた椅子にもたれかかり、画面の文字をぼんやりと見つめた。誰もクリアできなかった伝説のMMORPG、 「Eternal Chronicle」。
彼はそれを一人で、成し遂げた。 そして、誰にも祝福されることなく——
六畳にも満たないボロアパートの部屋には、微かな呼吸音と疲れきった扇風機の音しかなかった。
「……やっと終わった」
それが黒崎レイ——家族も友達も夢もない若者の最後の言葉だった。
そして、心臓が止まった。
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次に目を覚ましたとき——
そこには見知らぬ青空が広がっていた。 自然そのままの香り、風のぬくもり。
レイは直感で悟った。 「ここはもう、現実じゃない」
そうしてすぐに気づく。
ここは、彼が何千時間も遊んできたゲーム『Eternal Chronicle』の世界だ。
だが、目覚めた彼は「勇者」でも「七賢者」でもなかった。
ただの村人A。クエストすら存在しないモブキャラだった。
ステータスウィンドウもない。武器も装備もない。 誰からも見向きもされない存在。
——だが、彼はこの世界のすべてを知っていた。
この世界「アークラノア」は、五つの大陸に分かれている。
1. 光迅国:光と速度を操る者たちの国。
2. 森精国:エルフと自然の魔法使いたちの住む森の国。
3. 魔淵国:魔族と禁忌が渦巻く暗黒の地。
4. 人統国:人間たちが暮らす騎士や魔導士の国家。
5. 霊域:運命と予言を司る不死者の地、世界の中心。
この世界には「予言のシステム」が存在する。 子供は生まれながらにして、運命と職業が定められる。 勇者、賢者、魔王——
だが、そこに「レイ」は含まれていなかった。
彼は自分の手のひらを見つめた。 どこにでもいる普通の少年の手。 だが、彼は静かに目を閉じ、頭の中でコマンドを呼び出した。
「スキル一覧——開示」
空中に浮かび上がるウィンドウ。 そして表示された内容に、レイは小さく笑った。
七賢者のスキル:全て解放済み
歴代勇者のスキル:全て解放済み
魔力量:無限(∞)
「……バグだな、これ」
彼はこの世界の「全て」を知っていた。
隠しボスの位置、賢者の裏切りイベント、勇者が死ぬタイミングと原因——
だが、彼は助ける気などなかった。
「英雄ごっこはもう飽きた」
それが、何千時間もプレイしてきた彼の答えだった。
「なら今度は……」 レイは立ち上がり、魔淵国の方角を見据えた。
「ラスボスの役をやってみるか」
——これは、物語に名前すら書かれなかったモブが、 世界の“終わり”となる物語の始まりである。




