↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍍金だらけの不良英雄は、天才少女に煽られて騎士の頂点を目指す  作者: 裕福な貴族
不屈の騎士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
86/142

エピローグ 混沌

『……あぁ、どうしてッ!?』


 其れは、恐ろしいほどに現実味を感じさせる夢であった。


『ごめん、ごめん……、こんなつもりじゃ…………ッ!』


 自分の身体を見下ろす、青年の影。

 青年は、焦りと混乱と恐怖を入り混じらせた声色で謝罪の言葉を連呼する。

 大丈夫。

 そう言葉をかけようとするが、どうしてか身体には微塵も力が入らない。

 どこかぼんやりとした意識の中で、自分はただその光景を眺めるしかなかった。


『どうすればッ!? 俺のせいだ! 俺が、俺がこんなことをしなければ、初めから断っておけばこんな事にはならなかったのに――――』

『おい、落ち着け!』


 青年の傍に、また別の人影が寄り添う。

 その人影もまた焦燥感を滲ませながらも、懸命に落ち着かせようと言葉を吐いていた。


『いいからお前は、おばさんたちを呼んで来いッ!』

『わ、わかった……!』


 その言葉と共に、青年はふらついた足取りでどこか遠くに走り去っていく。

 残されたのは、身体の動かない自分と人影のみ。


『クソッ、こりゃまずいぞ……!? 何か、何か方法は――――』


 ピタリと、人影の動きが止まる。


『いや、待て……。やめろ。考えるな』


 焦りの声色から一転、何か別の感情が声に滲む。

 それは、圧倒的な恐怖。


『……ありえねぇだろ。そんなことをしちまったら、俺は……』


 でも、と。

 人影は困惑の渦に揺れる。


『……………………俺、は』


 そして、人影は決断する。

 懐からナイフを取り出し、震える指先で刃先を自らの掌に押し付ける。

 それは自分の身体を傷つける事への恐怖か。はたまた何か別の、これから先の事態を予期してのことか。

 震えは指先だけに止まらず、人影の声にまで及ぶ。


『……巻き込むつもりが無かったなんて、言い訳するつもりはねぇ』


 泣き出しそうな、震え声。

 それでも、その言葉には確かな芯が通っていた。


『これは、俺の罪だ。そして、きっとお前の運命だったんだ』


 ゆっくりと皮膚に沈む、銀色の刃。

 真紅の雫が、静かに垂れる。


『俺は信じるぞ。お前がこれから先、どれだけの悪夢に苛まれようとも――――』


 雫は刃を伝い、掌を伝い、優しくその手から零れ落ちた。 


『俺を超えるくらい、とびっきりの諦めの悪さを見せてくれるって』


 ☨  ☨  ☨


「…………あ」


 掠れた声が喉を震わせ、薄ぼやけた視界に徐々に光が差し込む。

 視線の先に映る、真っ白な見知らぬ天井。

 その光景をぼーっと眺め、クルードはゆっくりと意識を覚醒させる。


「ど、こ……だ」


 カラカラに乾いた喉から声を必死に振り絞り、クルードは静かに辺りを見渡していく。

 だだっ広い部屋に、クルードの横たわるベッドが一つ。

 そして視界の端に映る、包帯を巻かれた自身の姿。


「どう、なってん……だっ!?」


 とにかく状況を確認しようと、ゆっくり体を起き上がらせようとしたその時。

 思わずふらついた身体を支えるべく、すぐ近くにあった机に手を伸ばした。瞬間、ガシャーンッと大きな衝撃音が部屋中に響き渡る。


 次いで訪れる、ドタドタとした足音。

 まるで嵐が近付いているかのような、そんな状況下にクルードは静かにつばを飲み込んだ。


「クルード先輩!?」

「クルード様ぁ!」

「よかった、起きたんですねぇ!」


 扉を勢いよく開ける音と共に、見覚えのある顔が並ぶ。


「お前、ら……」


 イリス、ホーネス、そしてカミュ。

 見慣れた顔ぶれの来訪に、緊張の糸が緩む。


「私、エルマーナ先生を呼んでくる!」

「それでは私は身の回りのお世話を! クルード様、何かお困りごとはありませんか!?」

「えーっと、えーっと。そ、そしたら私は何か余興でもやりましょうか? あ、ダンスとか!」


 バタバタと落ち着きのない様子であちらこちらへ移動する三者の様子に、クルードは呆れ、次いで笑みを弾かせる。

 嗚呼、日常が戻ってきたのだと。

 そんな実感と共に、クルードは再びベッドに横たわった。



「あのうっさい三馬鹿は別室で待機させたわよ。まったく。落ち着いて話もできないわよ、あれじゃ」

「ハハ、悪いな」

「……何よ。嬉しそうな顔しちゃって」

「べ、別に嬉しくなんか……!」


 水分で喉を潤わせ、すっかり普段通りに話せるようになったクルードはエルマーナとそんな軽口をたたき合う。

 その様子を見て、エルマーナは安心したように顔をほころばせた。


「体調は問題なさそうね」

「あぁ。……あいつらがあんなに取り乱すなんて、俺は一体どれくらい寝てたんだ?」

「丸三日よ」

「まるっ!?」


 それは随分と心配をかけただろうと、クルードは心の中で申し訳なさそうに謝罪の念を浮かべる。


「……あいつらには後で謝んなきゃな」

「そうしなさい。毎日のようにあんたがまだ目覚めてないか確認しに来ていたんだから」

「そっ、か。学校の授業もあるのに、ホント申し訳ねーな」


 クルードの何気なく呟いた言葉に、エルマーナはピクリと肩を震わせる。

 そして。


「……あんたが起きるまでの間に起きたことを、伝える必要があるわね」


 衝撃の真実を、明かし始めた。


「まず初めに。聖キャバリス学院は、学院長の拘束に伴い()()()()。この三日間、あの子たちは学院に行ってないわ」

「な……ッ!?」


 突然告げられた情報に、クルードは思わずベッドから起き上がろうと身体に力を込める。

 瞬間、全身に激痛が響く。


「痛ッ」

「ちょっと安静にしてなさい! まだ回復しきってないんだから!」

「休学!? どういうことだよ!?」

「詳しくは後で話してあげるから黙って聞いてなさい! ……それに」


 クルードを手で押さえつけながら、エルマーナは再び口を開く。


「まだ、話は他にもあるのよ」


 更なる衝撃を、言葉に乗せて。


「王立騎士団の事実上の崩壊に、権力闘争の激化。事態参考人としてあんたの名前が挙がってるし、もう情報がとっ散らかって大変なんだから」

「……一体、何が起こってんだ」

「でも、多分あんたにとって一番重要な情報は――――コレよ」

 

 莫大な情報に混乱するクルードを差し置いて、エルマーナは淡々と言葉を紡ぐ。

 だが、次に出てきた言葉に、クルードは本当の意味で衝撃を受ける。頭が真っ白になる程の、絶望と共に。


「キャバリスの白鬼。ガレッソは、重要参考人として指名手配されたわ」


 激動は、止まらない。



 燦々と眩く輝く、頭上の太陽。明るく照らす日差しを受け、男はその眩しさに目を細める。

 こんな日に、祝福かの様に光っているのは何かの嫌味かと悪態をつきたくなるほどである。


「……ここか」


 デネットは、閑散とした周囲の様子を眺めため息をついた。そして、目の前に佇む小さな墓石にゆっくりと跪く。

 栄光ある王立騎士団長の墓標が、こんなちんけなモノだとは夢にも思わなかったのだ。


「ま、仕方ない」


 そう自分に言い聞かせながら、デネットは一人寂しく墓石に花を添え、静かに手を合わせる。

 

「やぁ、ここにいると思ったよ」

「……何の用だ」


 そんな時、場に不似合いな爽やかな声が響いた。

 デネットは不機嫌そうな声を漏らし、その方角へと視線を向ける。そこには憎たらしいほどに整った顔立ちで笑顔を浮かべる青年、エレガスの姿があった。


「何って、墓参りだよ」

「……貴様がか?」

「いけないかい?」

「ハッ、貴様はゴルドレ様のことを嫌っていると思っていたが」

「それは少し違うね」


 デネットの隣に腰を屈め、エレガスは静かに口を開く。


「ただ、好きじゃなかった。自尊心の塊で、自分のことを王国で一番の騎士と信じてやまず、七雄騎将を欠陥だらけとのたまう態度がね」

「……私とて、七雄騎将には思うところはある」

「君の場合は俺に負けた恨みだろう? あの人は違う。もっと純粋に、七雄騎将の存在意義に疑問を抱いていたんだろうさ。戦争の無くなった時代に、名ばかりの英雄を集めてどうするか、ってね」


 どこか遠いところを眺め、エレガスはかつての傲慢な騎士の姿を思い浮かべる。


「でも」


 瞳を閉じ、手を合わせ、エレガスは静かに呟いた。


「嫌いじゃなかった」

「……それは」

「出身や血筋に捉われず、純粋に役に立ちそうな人材はどんどん採用する。"傭兵まがい"と馬鹿にされようと、俺はあの人の革新的な部分には好感を抱いていたよ」

「……私を拾い上げてくれた時も、あの方はそうだった」


 顔を俯かせ、デネットは言葉を振り絞る。

 僅かに、声を震わせて。


「目指すべき方角を見失っていた私に、『ならばうちに来い』と声をかけてくださった。例えそこに、戦力拡大という野心や下心があったにせよ、私がその言葉にどれだけ救われたか……」


 感謝の言葉は、どれだけ紡ごうとも二度と届くことは無い。

 打算だとしても自分は幸せであったと、当人に伝えていたら、何かが変わっただろうか。後悔は先に立つことは無い。

 残された者に許されるのは、ただ前に進むこと。


「あの方は、最後に間違ってしまった。だが、その間違いを正していくのが、これからの私の責務だ」

「……デネット」

「それを教えてくれたのは、貴様の弟だ」


 その言葉に、エレガスは大きく目を見開いた。


「あの背中に、私はかつての夢を思い出した」


 デネットはそう言って、静かに瞳を閉じる。

 脳内に蘇る、頼りない若き英雄の背中。血縁たる兄エレガスとは似て非なる、歪な輝き。

 だが、どうしてだろう。

 どの英雄よりも弱々しい、若輩の騎士のくせに。あの背中に、否応なく惹かれてしまう自分がいる。

 あの輝きを失わせてはならないと、自らの燻ぶった騎士の本能が訴えかけている。


「黒金のヴィクトや、白金のエレガスとも違う。持たざる者の痛みを知る、異色の英雄」


 デネットの横顔に目を向けながら、エレガスは心の中で静かに苦笑する。

 また一人、熱に当てられた人間が生まれた事実。そして弟の確かな資質に、兄は少し誇らしげな感情を抱く。


 お前はやっぱり凄い奴だよ、と。


()()()()()、クルード。無謀にも騎士の頂点を目指す若人に――私は少しでも手を貸してやりたい」



 荘厳なる空間に、王女は静かに鎮座する。


「やはり、その線で間違いは無いのですね」

「えぇ」


 王宮の最上階。天に最も近き一室から窓を覗けば、下界の街並みが雄大に広がっている。

 だが、誰もその光景に驚きはしない。

 何故ならこの場にいる人間は、常に世界を見下ろす地位にいるのだから。


「ゴルドレ君の検死結果から、彼の体内に薬物使用の形跡が確認されました」

「それは元から薬中の可能性だってあんだろ? クソジジィ」

「……ジジィじゃないのに」


 王女の面前であっても、二人は普段と変わらない態度で言葉を交わす。

 エリーゼに気後れすることなく、自らの望むままの振る舞いを許される者など世界でも限られている。

 ましてや()()()()()に足を踏み入れ、ソファに腰掛けるなど言語道断。


「ま、ベリエッタ君の言いたいことも分かるけどね。彼がそんなことをする人間じゃ無いのは僕がよく知ってるさ」

「てことはあれか、今の話が真実だってことでいいんだな?」


 顎に生えた無精ひげを撫でながら、飄々とした態度を崩さないスレイド。

 そんなスレイドの対面に座る巨漢の美女。鮮血よりも濃い、紅蓮の長髪を手で払いのけ、ベリエッタは不満げに眉をひそめる。


「王宮内に、裏切りもんがいるってのは」


 いかにも信じがたい内容の話に、ベリエッタは怪訝な表情を浮かべる。しかし、その発言を擁護したのは意外にもエリーゼであった。


「騎士団長ほどの人間に容易に近づき、長期間による薬の投与を行うなど並の人間には不可能でしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()


 エリーゼの言葉に、ベリエッタはやれやれと首を横に振る。


「また仕事かよ。ほんとヤになっちまうね」

「仕方ないさ。僕たちは騎士であり七雄騎将。国の為に生き、国の為に死ぬまで働く。それこそが本懐だからね」

「はいはいわーったよ。ジジィの話は長いから困るぜ」

「……泣いていい?」


 スレイドとベリエッタ、正反対の思想を持つ騎士。そんな二人が、何故ここにいるのか。

 その答えは、全てたった一人の女性に委ねられている。


「【天地、覆り】」


 エリーゼが、その言葉を呟いた次の瞬間。空間が一瞬にして引き締まり、緊張感を漂わせる。

 英雄は、静かに立ち上がる。主の言葉を、拝聴する為に。


「そのような蛮行を許してはなりません。世界は今のままでなくてはならない。正しさは、我々に無くてはならない」


 エリーゼは、にこりと可憐に笑う。


「ね、そうでしょう?」


 その言葉に、スレイドもまた静かに笑い、ベリエッタは仏頂面でそっぽを向く。

 二人の反応を眺め、エリーゼは静かに口を開く。


「さぁ、私のつるぎたてよ」

「おう」

「はい」


 今ここに、王宮は変革を余儀なくされる。王宮の怪物が、遂に動き出す。


「王国に巣食う害虫を、駆除しに参りましょう」






 カツン、カツンと、靴が石を弾くような心地よい音が静かに響き渡る。

 太陽の沈んだ世界には影が広がり、足音の主はその影を踏みしめながら歩いていた。

 やがて足音は静まり、男は目の前に佇む建造物へと目を向ける。


「やぁ、お待ちしておりました」


 男に対し、声をかける者が一人。

 物腰の柔らかい声に、恰幅かっぷくの良い紳士然とした男性は朗らかに笑う。


「そろそろ来る頃だと思っておりましたよ。ささ、()()もお待ちです」


 奥に促されるままに、男は静かに空間へと足を踏み入れる。暗い小道を突き進みしばらくすると、微かに光が漏れている扉が視界に飛び込む。

 扉に手をかけ、男は静かに口を開く。


「いつもすまねぇな、サック」

「いえいえ」


 男の言葉に、サックは優雅に頭を下げる。


「これからも、シュバルツ王立劇団をどうぞご贔屓ひいきに」


 そして、男が扉を開け放つ。

 瞬間、視界一杯に広がる無数の座席。赤一色で統一された上品な空間に、煌びやかな装飾の数々。そんな気品漂う劇場の中央を、男はゆっくりと歩んでいく。

 物語の主役のように。

 幾つもの視線を背中に感じながら、男は尊大な足取りで舞台へと近づいていく。やがて舞台の前に辿り着いた男は、片腕で自らの身体を壇上へとのし上げる。

 スポットライトが、淡く男を照らしていた。


「さて」


 男はゆっくりと振り返る。


「我々が影に追いやられ、およそ三十年余りが過ぎた」


 ぽつりぽつりと、座席に腰掛ける黒い影。劇場に不似合いな装束を身に纏い、彼らは舞台を見上げていた。


「長い屈辱の日々を乗り越え、我々は遂に革命の希望を見つけた」


 男は、雄大な白髪を靡かせる。獰猛に牙を剥き、野蛮な笑みを顔に張り付ける。


「喜べ、()()()()()()


 その声に乗せられた感情は、たった一つ。

 複雑な感情も、葛藤も存在しない。ただ純粋なまでの、研ぎ澄まされた感情。

 どす黒い、歓喜。


「七雄騎将も、王族の血統も。その全てを偽り続けてきた王国に、いよいよ反旗を翻す時も近い」


 男は拳を固く握りしめ、そして天に掲げる。


「さァ、亡霊共レヴェナントよ」


 男は――――白鬼は不敵に嗤う。


「天地を、ひっくり返そうじゃねェか」




【第二章 不屈の騎士】完

ここまで読んでいただきありがとうございました!

もしよろしければブックマークや感想、評価やレビューをいただけると大変励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします……ッ!!!(「このキャラ好きです」とか「これってこうなんじゃないか」などの考察大歓迎です)


第三章もどうぞ引き続きお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ・二章完結おめでとうございます! この章も面白かったです [一言] ・この二章は完結したあとに読み返したら面白そう。一回目では気付かなかったこととか絶対ある
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。