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第十三章 第二話 道化師メフィストフェレスの策略

 今回のワード解説


炭酸飽和……二酸化炭素を水または水溶液に溶かすことをいう。

「アハハハハハ、アーハハハハ」


 ガリア国の兵士たちがこの場から去り、俺たちは何が起きたのかが理解できずに呆然とする中、ゾム兵士長が独りでに笑い出す。


「何がそんなに可笑しいっていうんだい?」


 ライリーがゾム兵士長に尋ねるが、彼は込み上げてくる笑いを抑えられないようで、ひたすら笑い声を上げる。


「これが笑わずにいられるというのですか。まさかこうも上手くことが進むとは思わないので」


 ゾム兵士長が笑い声を上げた理由を語るが、俺はその意味を理解することができないでいる。


「あーすみません。こちらの話なので気にしないでください。これで私の役目は終えた。もう彼を演じる必要がない。お前たちも偽りの仮面を外しなさい。幕は閉じた。これより出演者の紹介の時間です」


 ゾム兵士長がそう告げると、彼が連れてきた兵士は自身の肉を剥ぐ。


 スカルナイトの上位の魔物、ボーンジェネラルが姿を見せる。


「ボーンジェネラル!ということは!」


 俺はゾム兵士長に視線を向けると、彼は黒い霧に包まれ、ゾム兵士長を偽って人物が正体を現す。


 白い肌に顔には星の模様が描かれ、派手な衣装を着ている道化の男だ。


「それでは改めて自己紹介を、私の新の名はメフィストフェレス。メッフィーとお呼びください」


 メフィストフェレスと名乗る魔物が、ゾム兵士長に成り代わっていた。


 いったいいつの間に?


「本物のゾム兵士長はどこだ!」


「ゾム?あの男は墓の中ですよ。なにせ十六年前、あなたが生まれた日に盗賊に殺されているのですから」


 彼の言葉に衝撃を受ける。


 俺は右手を額に置き、脳の中にある海馬から記憶を引っ張りだす。


 確かに、どうして気づくことができなかったのかと思うほど、可笑しな点があった。


 ゾム兵士長を名乗っていたメフィストフェレスは、自己紹介の際に父さんとはたった一人の親友関係であると語っていた。


 それは嘘ではない。


 何せ、ゾム兵士長の本当のプロフィールなのだから。


 それを証明できるのは、城の地下にある墓場で、母さんが墓に眠っている人物は兵士長で、父さんとはたった一人の親友関係だと言っていたからだ。


 たった一人ということは、墓に眠っている人物はゾム兵士長でしかありえない。


 それにゾム兵士長と矛盾している箇所がある。


 そのことを本来であればあのときに気づくべきだったのだ。


 墓に眠っている人物はトマトが好きと聞き、兵士長つながりで俺は勘違いを起こしてメフィストフェレスにトマトを渡した。


 だけど最初の自己紹介のときに、彼はトマトが嫌いと言っていた。


 それに父さんが過去話をしてくれたときのゾム兵士長の一人称は『俺』だった。


 だけどゾム兵士長を偽っていたメフィストフェレスは、姿や口調は変えても一人称は『私』のまま。


 これが同じ人物の名前でありながら矛盾している点だ。


 どうして俺はこのことに気づけなかった。


「どうやらそうとう驚いているようですね。十六年間コツコツと作戦を実行していたかいがありましたよ。まぁ、気づかないのも無理はない。王都に住む者は全員に私をゾム兵士長だと思い込むように、認識阻害の魔法を常に発動させていましたので」


 メフィストフェレスの言葉に俺は驚愕した。


 いくら魔物でも、王都に住む人間全てに認識阻害の魔法を発動させるのは不可能のはず。


 何かからくりがあるはずだ。


 だけど、それでも常に発動しているということは、尋常ではないほどの魔力量を持っているということになる。


「お前、まさか魔王なのか!」


 俺が言葉を放つと、この場の空気が変わったような気がした。


 空気が張り詰め、ピリピリとしているかのようだ。


 気を失っているエミ以外は、全員がメフィストフェレスに注目する。


「いえいえ、私はそのような大物ではないですよ。ですが、私の主は魔王であることだけは伝えておきましょう」


 こいつはセプテム大陸の魔王の配下!


「そろそろお開きの時間といきましょう。私は十六年ぶりに主のもとに帰ります。あとのことは頼みましたよ」


 メフィストフェレスが指をパチンと鳴らすと黒い霧に包まれて姿を消す。


 彼が消えたあと、ボーンジェネラルが襲いかかってくる。


 ボーンジェネラルは、ジェネラルと名がついているが別にジェネラル級の階級にあたる魔物ではない。


 戦士タイプの魔物に毛が生えた程度だ。


 しかし骨の腕が六つあり、六本の剣を扱う。


 二本剣で相手の攻撃を受け止め、残りの四本で敵を切り裂く。


 しかもスカルナイトとは違い、事前に命令を出していれば、ネクロマンサーがいなくとも活動することができる。


 普通の人間なら脅威となるだろう。


 だけど相手が悪かった。


 こっちにはカレンがいる。


 物質タイプの魔物には、既に攻略方ができているのだ。


 今の俺たちの敵ではない。


「カレン、魔法はまだ使えそうか?」


「大丈夫、例の魔法なら精神力や精霊の負担が少ないから、問題ないわ」


「わかった。きついかもしれないが頼む。ライリーとレイラはエミを守ってくれ。ランスロットとジルは動けるなら手を貸してほしい」


 みんなに指示を出し、俺は直ぐに呪文の詠唱を始める。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。カーバネットウォーター」


 空気中にある複数の水素と酸素が結合し、水素結合を起こすとそれらが集合し、水を形成する。


 そして今度はその水に対して二酸化炭素が溶解し、炭酸飽和を起こす。


 これにより炭酸水が生まれると、俺の意思のどおりに分裂し、複数体のボーンジェネラルに付着させる。


(まじな)いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ゼイレゾナンス・バイブレーション」


 俺の魔法がボーンジェネラルに接触した瞬間にカレンが呪文を唱える。


「「合成魔法キャビテーション」」


 炭酸水塗れとなった敵に、同じ周波数の音が襲いかかるとボーンジェネラルは全身が砕け散り、再起不能となった。


 久しぶりに二人の魔法が融合する合成魔法、キャビテーションを発動させたが、タイミングはぴったりだった。


 ジルとランスロットがボーンジェネラルの動きを止めている間に、キャビテーションで骸たちを全滅させる。


 今度こそレイラの配下を除いた魔物は全て倒した。


 だけど休んでいる暇はない。


 エミを医務室に運び、今起きたできごとを父さんに伝えなければ。


 俺たちは急ぎ城に帰る。


 ジルとランスロットは、レイラの指示でスライムたちとともにこの場に残ることにした。


 俺たちは安全だとわかっていても、急に魔物たちが王都に入ってきては民が驚き、混乱を招く恐れがあることを考慮してのことらしい。


 城に帰還すると、カレンとライリーはエミを医務室に連れて行き、俺とレイラは事態を知らせるために父さんたちのいる玉座の間に向かう。


 扉を開けると父さんたちは頭を抱え、顔色が悪かった。


「父さん、どうした。大丈夫か?」


「デーヴィッドか。俺は悪い夢でも見ていたのか?どうして死んだゾムを今まで生きていると思い込んでいたのかがわからない」


「わたしもよ。とても気分が悪いわ」


 メフィストフェレスが消えたことで、認識阻害の魔法の効果が切れたようだ。


 二人はとても辛そうにしている。


「今日の職務は中止としよう。デーヴィッド、これはお前の戦った敵と関係があるのか?」


「ああ」


 俺は二人に海辺での戦いのことを伝える。


 鬼の軍団に勝利したこと、ガリア国の兵士が突然現れ、魔物と手を組んでガリア国に攻め入る準備をしていると誤解されたこと、それを裏で糸を引いていたのが、ゾム兵士長に成りすましていたメフィストフェレスという魔物だったということを全て話す。


「何だと!それはまずい。すぐに使者を送り誤解を解かねば」


 父さんは勢いよく立ち上がると頭痛を感じたのか、額に手を置く。


「貴男、ムリはしないでください。とにかく今日はもう休みましょう。今後の方針を決めるのは明日の会議でも間に合います。体調が優れない状態で考えても、いいアイディアは出てきません」


「わかった。そうしよう。デーヴィッドも今日は休め。明日話そう。誰か手を貸してくれないか?」


 父さんが人を呼ぶと近くで控えていた兵士が近づき、彼に肩を貸してこの場から離れていく。


 寝室に戻って行った父さんたちだったが、ゾム兵士長のことがよほどショックだったのだろう。


 二日間も体調は回復せずに寝込んでいた。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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