第九章 第一話 恋愛というのは戦わずにして負けることもある
ドンレミの街で依頼をこなして資金を稼いだ帰り道、俺は仲間たちと一旦分かれて宿屋に急いで帰る。
部屋に戻って窓をみると、窓越しにリピートバードが部屋を覗き込んでいた。
時間どおりだ。
今回のリピートバードは小柄で窓よりも一回り小さかったので、窓を開けて室内に招き入れる。
「ナコさんからのメッセージが届いています。メッセージを読みますか?」
「ああ、教えてくれ」
鳥にメッセージを言うように促すと、聞き入れた言葉を俺に伝える。
『こんにちは。いきなりで申し訳ないのですが、退会しようと思っています。理由としては、他にメッセージのやり取りをしていた人に暴言を吐かれてしまい、怖い想いをしたのです。もうしばらくはそういったことから離れようと思い、辞めることを決めました。いきなり消えるのは不誠実だと思い、ご連絡いたしました。今日の夜には手続きを終える予定です、身勝手で申し訳ありません。短い間でしたが、お話とても楽しかったです。ありがとうございました』
リピートバードから代役としての言葉を聞き、俺は心臓の鼓動が早くなる。
一時は何も考えられなくなり、呆然と立ち尽くす。
「このメッセージに対して、お返事はしますか?」
「め、メッセージは送る。少し待ってくれ」
鳥の言葉に、俺は我に返ると待ってもらえるようにお願いする。
ちょっと待て、ナコさんが他の男と連絡を取っていた?
確かに、あの恋活婚活センターの会員は、男性は有料。女性は無料で利用できる。
なので、女性は男性とは違い、何もしなくても連絡がくることが多いので、複数の人と連絡を取っても不思議ではない。
俺が彼女の立場なら、今は男とは連絡を取りたくはないはずだ。
だけど、こんなときだからこそ、伝えないといけないことがある。
「リピートバード、ナコさんにはこう伝えてくれ。そうなのですか。ナコさんの気持ちを考えると胸が痛みます。俺もとても楽しかったです。あなたと連絡が取れないのは凄く寂しいです。俺にとって、ナコさんが一番だったので…………こう伝えるんだ」
「分かりました。今のメッセージを受託いたします」
そう一言いうと、リピートバードは窓から出て行く。
「終わった」
俺は酷く落ち込み頭を抱える。
ショックで頭が回らなくなり、他にも言うべきことがあったのにそれが言えなかった。
もう彼女からメッセージが届くことはないだろう。
無気力となり、俺はベッドに横になる。
依頼をこなして報酬をもらうのも軌道に乗り、資金が増えた。
なので、今は俺一人だけでひとつの部屋を使っている。
このような状態でいても、誰にも迷惑をかけない。
ぼーとしていると、窓に何かが当たったような音が聞こえ、顔を向ける。
窓の外に先ほどのリピートバードがいた。
おそらく運営からのお知らせだろう。
女性と連絡を取っていなくとも、お知らせを伝えにやってくることがよくある。
面倒だが、この鳥はメッセージを伝えない限り、離れることはない。
重い腰を上げ、リピートバードの前に来ると窓を開ける。
「ナコさんからメッセージが届いています」
その言葉に俺は驚き、直ぐに部屋の中に入れた。
「メ、メッセージを教えてくれ」
「了解しました。ナコさんからのメッセージはこちらです」
『お返事ありがとうございます。とても嬉しいです』
「以上となります。返事をいたしますか?」
「当たり前だろう」
今度こそ、俺が言いたかった言葉を彼女に間接的に伝える。
「ナコさんに伝えたいこと、聞いてほしいことがあります。ナコさんが暴言を吐かれたシーンを想像すると、俺も辛い気持ちになります。ナコさんは悪くはありません。悪いのはナコさんの気持ちも考えないで、自分の気持ちだけを圧しつけていた男のほうが悪いです。ですが、今回の件で恋愛を諦めないでください。諦めなければ、ナコさんを理解してくれて、あなたのことを一番大事にしてくれる人がきっと現れます。今夜はお酒を飲んで嫌なことを忘れてください。知り合いにでも愚痴を聞いてもらってください。口に出すだけでも少しは気分が晴れるかと思います」
言葉が長くなってしまった。もしかしたら重いと思われるかもしれない。だけど、これだけは絶対に伝えたかった。
恋愛に関わらず、諦めないで前に進めば、その想いはいつか成就される。
諦めないことが一番肝心なのだ。
道は一本道とは限らない。
他の道を辿ったとしても、例えそれが遠回りであっても、最終的には目指した道へと繋がるのだから。
俺の言葉がナコさんにどれだけ響いたのかはわからない。
でも、連絡を取り合っていた一週間、彼女は楽しそうにメッセージを送ってくれた。
運命の人を探すべく、頑張っていた。
今までの内容から、そう読み取れる。
いつか、ナコさんが運命の人と出会い、あたたかな家庭を築くことができればいいなと思う。
彼女の隣には俺はいない。
だけど、そのポジションに相応しく、ナコさんを幸せにできる男が現れてほしいと思った。
この一件で俺は、恋愛において学ばされた。
マッチング形式の出会いは、連絡が取れるようになったからといって勘違いをしてはいけない。
連絡が取れる=彼女のようなものではない。
連絡が取れる=デートに誘える権利を相手からもらえたが正しいのだ。
まさか、どこの馬の骨ともわからない男に、俺の恋路を邪魔されるとは思わなかった。
気がつくと、俺の目尻から涙が流れていた。
「あ……れ?どうして……涙が流れる?失恋が初めてってわけじゃないのに」
モモさんにふられたときも、涙を流すことはなかった。
悲しくても涙なんか流れなったのに。
俺は涙の原因を考える。
すると、その答えにいたった。
悔しかったのだ。
全力を出し切っていない中で、勝負にも、試合にも負けたようなものだから。
自分で考えて行動した結果、ふられてしまったのなら仕方がない。
むしろ気持ちがスッキリする。
だけど、俺は悪いことは何もしていないのに、嫌な想いをしたからという理由で、土俵にすら上がれないのは悔いが残る。
「クソッ、止まれよ……こんな……みっともない姿……みんなに見せられないだろう」
必死に感情を押し殺して涙を止めようとするも、一度堤防が決壊するとすぐには治らないように、俺の涙は止まるどころか勢いを増す。
「く……くそっ……くそ。俺はまだ……全力を出していないんだぞ。納得できるかよ!こんな終わり方って」
俺は恋愛に関しての現実の厳しさを思い知らされた。
涙を流して泣き疲れてしまったのだろう。
いつの間にか眠ってしまった。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。




