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第六章 第二話 出会いの街

 三日後、カレンは元気になり、完全復帰を果たす。


 俺たちはドンレミの街に向かうことにした。


 中庭で集合することになっているが、現時点でこの場にいるのは俺とレイラだけだ。


 彼女に視線を向けると、表情が暗いような気がする。


 常に何かを考えているのか、最近はよく俯いているのだ。


 まぁ、友好関係であったものに裏切られた形となったのだ。


 表情が暗くなるのもわかる。


 だけどこのままではよくない。


 俯いていれば、その分視界が狭くなる。


 そして周囲の危険に反応するのも遅い。


 この大陸にいる魔物は敵ではなくとも、自然界では時として人々に牙を剥くときだってある。


 ケガをされるわけにはいかない。


「何か悩みごとでもあるのか?よければ俺に話してくれないか?レイラが一人で抱え込む必要はない。俺も一緒に考えるから、不安の半分を分けてくれないか?」


 とにかく何か悩みでもあるのであれば話してほしい。


 そう思って直球に彼女に問うてみた。


「ありがとう。いや大した問題ではない。最近この城でジルとランスロット以外の魔物の出入りが極端に減っているような気がしてな」


 レイラの話を聞き、過去を思い返す。


 確かに最初は魔王城だけあって、あっちこっちに様々な魔物が出入りをしていた。


 だけど、最近は時々見かける程度になっている。


 セプテム大陸にいる魔王の進軍のおそれ、それに城から去っていく魔物たち。


 急に様々なことが起き始めている。


 これはただの偶然なのだろうか。


 俺が気づけないつながりがあるような気がしてならない。


「それは俺も思っていたことだ。俺のほうでも原因を探るから、今はドンレミの街に向かうことだけを考えよう。俺が絶対に解決してみせる」


 大きくみえを張る。


 こんなことを言ってしまったが、解決できるのか不安でしかない。


 だけど、これでレイラの肩の荷が少しでも下りてくれればそれでいい。


「ああ、そなたには期待しておる。何せ余の見込んだ男だからな…………デーヴィッドたちは余から離れては行かぬよな」


「ごめん、途中からよく聞きとれなかった。なんて言った?」


 途中からレイラの声音が小さくなり、聞きとれなかった俺はもう一度言ってもらうようにお願いする。


「いや、なんでもない。ただの独り言だ。気にしないでくれ」


 彼女は笑みを浮かべるが、それが作り笑いであることは理解していた。


 どうしても気になってしまうが、何度聞いても答えてはくれないだろう。


「すまない、遅くなっちまった」


「準備に手間取ってしまった。ごめんね」


 遅れてきたライリーとカレンが謝罪の言葉を述べる。


 これで四人全員が揃った。


「それでは出発するとしよう」


 レイラが先に歩き出す。


 この前はランスロットが見送りに来たが、彼の姿は見えない。


 先ほどまで魔物の数が減っているという話をしていたからか、変に勘ぐってしまう。


 ランスロットなら大丈夫だ。


 彼はレイラに対しての忠誠心が高い。


 きっと城の中で警備をしているのだろう。


「ドンレミの街には行ったことがないが、どんなところなのか知っているやつはいるかい?」


「私はないわ」


「空中からなら、余は見たことがある。それなりに人が多く、活気に溢れていた」


「人口はロードレスよりも多い。この大陸では珍しい恋活・婚活センターというのがあり、出会いを求めて成人している男女が訪れると言われている。別名、出会いの街と呼ばれているらしいな。そしてそこでは結ばれる確率を上げるために――」


「ちょっと、デーヴィッド。やけに詳しいじゃない。もしかして資金を調達するのは建前で、恋人候補を探しに行くつもりじゃないでしょうね」


「なんだと!余という者がありながら浮気か!浮気をしに行くのか!」


「どうしてそうなる!俺は聞かれたからどんな場所か答えただけじゃないか」


 どうやら誤解されているらしく、俺は急いで弁明する。


 だけどすぐに否定したのが逆に怪しく見えたようだ。


 カレンとレイラはジト目で俺のことを見ていた。


「アハハ。こりゃあ街についたら、デーヴィッドを監視しないといけないねぇ」


 楽しそうにライリーは笑い声を上げている。


 こいつは絶対に今の状況を楽しんでいやがる。


 溜息を吐きながら、俺は居心地の悪さを覚えた。


 何で街の話をしただけでこうなる。


 何をしようとそれは俺の自由だ。


 確かに、期待していないと言えば嘘になる。


 俺だって恋愛に憧れる男だ。


 心の中でぶつぶつ文句を言いながら、目的地に向けて歩く。


 キャメロット城を出発して一週間が過ぎた頃、ようやく最初の目的地であるドンレミの街に着く。


「ようやく辿り着いたか」


 周囲を見渡すと多くの人々が道を歩き、買い物などを楽しんでいる姿が視界に入る。


 この町が出会いの場であるからか、若い男女の姿が多いように思えた。


「やっと着いた。早く宿を探そう。私お風呂に入りたい」


 街に着いた途端、カレンが生き生きとする。


 彼女の反応を見て、本当に女の子はお風呂が好きなんだなと思う。


 この一週間、水浴びをしたのは一日だけだ。


 山道を歩いていると、水の音に気づいたライリーが発見した。


 もし彼女が見つけなかったら、今以上に酷い体臭を放出しているかもしれない。


「そうだな。急いで探すとしよう」


 この街にいる限り、いつ運命的な出会いをしても不思議ではない。


 もし、仮に出会えたとしても、体臭だけで不潔な男認定をされては、チャンスを逃すことになる。


 一刻も早く宿屋を探すべきだ。


 宿屋を探すべく街中を歩いていると、ビラ配りをしている男女の姿が見えた。


 男性は屈強な身体をしており、強面の容姿だ。


 女性は可愛らしい水色のワンピースを着ている。


 可愛らしく鈴のようにきれいな声音だ。


 何を配っているのか気になる。


 当然ビラを受け取るが女性からではなく、屈強な肉体を持つ強面の男から貰う。


 俺の体臭で引かれたとしても、男からなら心のダメージが小さい。


 心が抉られるように痛むが、女性の手渡しを無視して男からビラを受け取る。


「やっぱり、デーヴィッドはそっちが本当の目的だったじゃないの!」


「心の奥底では信じていたのに、あんまりではないか!」


 ビラを受け取った途端に、カレンとレイラが怒りを感じさせるような声音で言葉を放つ。


「いきなりどうしたんだよ。俺はビラを渡されたから受け取っただけだぞ」


「そのビラに問題があるのよ」


「カレンも同じものを受け取ったじゃないか」


「全然違うわよ」


 カレンとレイラは同時に受け取ったビラを俺に見せる。


 用紙にはギルドの広告が載っており、クエストの依頼募集や、受注者の募集などが書かれていた。


 俺は先ほどもらったビラに目を通してみる。


 すると、そこには恋活・婚活センターと書かれており、出会いを求めている人は是非来てくださいと、大きく見出しが載っていた。


 そう、同じ場所に立ってビラを配っていたから、てっきり同様のものと思っていた。


 だが、実際は別ものだったのだ。


 ビラを配っていた二人を見ると、お互いが罵倒し、営業妨害だと言い合っていた。


「いや、これは違う。俺はてっきり同じものだと思って」


「サイテー。下心があったのに、それを認めず言い訳を言うだなんて。義理でも兄妹であることが恥ずかしいわよ。こんなやつほっといて、早く宿屋を探しましょう」


 カレンとレイラの二人は、道の先を歩いていく。


「どうして正直に言ったのに信じてくれないんだよ」


 俺は右手を額に当て、小声でと呟く。


「アハハ、災難だったね。まぁ、日ごろの行いが悪かったと思って割り切るしかないよ。あたいたちも宿をさがそうじゃないか」


「い、痛い。分かったから背中を何度も叩くなって」


 落ち込んでいる俺を励まそうとしてくれているのかもしれない。


 ライリーは俺の背中を叩いてくれた。


 だけど彼女は手加減というのを知らないようで、思いっきり強く叩かれる。


「いやー悪い、悪い。なんか知らないけど力が入ってしまったみたいだ」


 もしかして、わざとなんじゃないだろうか。


 彼女も声には出さないが怒っているのかもしれない。


 受け取ったビラをポケットの中に仕舞い、俺も再び歩き出す。


 街中を見ながら歩いていると、カレンとレイラが走って戻ってきた。


 つい走ってしまうほどのものでも見つけたのだろうか。


「宿屋は見つかったか?」


「ええ、凄いところを見つけてしまったのよ。まるでお城のような建物」


「しかも看板に書かれている料金を見る限り安いのだ。これなら出費を抑えられるのではないか」


「へー、そんな良心的な宿屋があるんだな。行ってみよう」


 お城のような宿屋を見て興奮しているようだ。


 彼女たちはさっきのことを忘れているようで、俺の右腕をカレン、左腕をレイラが引っ張る。


「両手に花とは見せつけるねぇ、デーヴィッド」


「からかわないでくれよ。それより見失わないように、ライリーも着いて来てくれ」


 二人に引っ張られる形で道を歩いていると、視界の先に大きな建物が見えた。


 あれがカレンたちの言っていた宿屋なのだろうか。


 確かに人の注目を集めそうなほどの大きさだ。


 建物の前に着くと、その大きさに圧倒される。


 レイラの住んでいたキャメロット城と比較をすれば、規模は小さい。


 けれど宿屋で考えればとんでもない大きさだ。


「ここに料金表が書かれているの。でも入り口は建物の中に入った先みたい出し、宿屋にしては不思議な時間設定なのよね」


 俺は料金表が書かれている看板に目を通す。


「なになに、お泊り三千ギル。ご休憩千五百ギル」


 って、これはラブな宿屋のほうじゃないか!


 大声を上げるわけにもいかず、俺は心の中で叫ぶ。


「ねぇ、安いでしょう。しばらくはここで寝泊まりしましょうよ」


「いや、止めねぇか。なんか怪しいぞ」


「たしかに何か裏があるような気がするけど、どんな感じなのか気になるのよね。一泊ぐらいならいいんじゃない」


「虎穴に入らざれば虎子を得ずと言うし、余も気になる。宿屋のくせに余のキャメロット城のような作り、内装が気になってしょうがない」


「だとよ、どうするんだい?デーヴィッド」


 ライリーがニヤニヤとしながら俺に尋ねる。


 あの表情からして、絶対この宿屋の正体を知っている。


 俺が困っているのを見て楽しみやがって。


「いいか。ここに泊まりたいというのなら、俺は一ギルも出してやらないからな」


 俺の言葉にカレンとレイラは納得しないようで、頬を膨らませる。


 財布の紐は俺が握っている。


 俺が了承しない限り、ほしいものは手に入らないのだ。


「だったらいいわよ。この街のギルドの依頼をこなして、貯めたお金で私たちだけで泊まるから」


 どんな手を使ってでも、ここに泊まりたいようだ。


 どうしたものかと悩んでいると、ライリーがカレンの横に立ち、彼女に耳打ちで何かを伝える。


 義妹に何を吹き込んだのか気になった瞬間、カレンは顔を赤くすると俯く。


 彼女の態度を目の当たりにして、俺はライリーが真実を伝えたのだと察した。


「そ、そうよね。やっぱり怪しいわよね。普通の宿屋を探しましょう」


「なぜだ!先ほどまでは一緒になって泊まりたいと言っていたではないか!」


「気が変わったのよ。いいから別の宿屋を探しましょう」


 突然の掌返しにレイラは不満を口にするも、カレンは強引に彼女の腕を引っ張ってこの場から離れる。


「助かったよ。さすがに俺の口からはエッチな宿屋だと言えなかったから」


「デーヴィッドの困る顔は見ていて飽きないが、さすがにこの宿屋を利用するわけにはいかないからね。でも、あたいとデーヴィッドの二人なら話は別だよ」


「はいはい、俺をからかうのもその辺にして、早く宿屋を探すぞ」


 俺を狼狽させようとしているのは見え見えだ。


 なので、こちらも塩対応をさせてもらう。


「ハハハ、さすがにこれぐらいじゃ動揺はしないようだね」


「お陰様でな」


 街中を彷徨っていると、ようやく宿屋の看板を発見することができた。


「今度こそ普通の宿屋よね」


「店の前に変な料金表がないだろう。普通の宿屋で間違いない」


 店の扉を開けて店内に入る。


「初めてみる顔だね。新しいお客さん?」


 入ってすぐのところに受付があり、この宿の女将さんだと思われる女性がカウンターから声をかけてきた。


「はい。三人部屋をひとつと、一人部屋をひとつお願いします。取敢えずは三日分を先払いさせてもらいます」


「あいにく一人部屋は埋まっていてね。三人部屋がひとつと、二人部屋がひとつでも構わないかい?」


「それでお願いします」


「四名が二部屋で、それが三日分となると六万ギルになるけど良いかい?それでいいなら名簿にお客さんたちの名前を書いてくれないかい」


 六万ギルとなると、一泊一人五千ギル。


 普通の宿屋よりも金額は高めにしてあるようだ。


 他の宿屋を探すのに労力を使うよりも、ここに決めて早く休みたい気持ちだ。


 たまには贅沢をしても良いだろう。


 ギルドで依頼をこなせば、宿代はどうにかなる。


「分かりました。カレン、名簿に全員の名前を書いてくれ」


 名簿を書くようにカレンにお願いし、俺はリュックの中にある瓶の蓋を開け、中から六万ギルを取り出すと女将に渡す。


「確かにいただいたよ。お客さんたちの部屋は二階の階段を上がってすぐのところだ。朝食と夕食がついてくるけど、昼食はないから。あと、この宿には温泉があって男女別のやつと混浴もあるよ」


「へぇーそうなんですね」


 料金が高い設定なのもこれで納得がいく。


 温泉が引いてある宿など滅多にない。


 だけど混浴まであるとは思わなかった。


 さすが出会いの街と呼ばれているだけのことはある。


「デーヴィッド、まさか混浴に行くなんて言い出さないわよね」


「当たり前だろう。俺を何だと思っているんだ」


「おいおい、ここで言い合っていたら女将に迷惑だろう。早くあたいたちの部屋に行こうじゃないか」


 ライリーが仲介に入り、俺は我に返る。


 急に恥ずかしさを覚え、俺は女将から部屋の鍵を受け取ると一人で部屋に向かう。


 階段を上り、自分の部屋の前に行くと鍵を開けて中に入る。


 壁際に箪笥とベッドがふたつあり、中央には四角いテーブルと椅子が二脚ある。


 一ヶ所だけ円形の窓があり、窓越しから外を覗く。


 人々の歩く姿が見えた。


 リュックをテーブルの上に置き、これからのことを考える。


 まずは温泉で今日一日の疲れを癒そう。


 そのあとは夕食まで時間があるだろうから、ギルドを探して内容を確認。


 よさそうなものがあれば明日受けることにしよう。


「デーヴィッドいる?」


「鍵はかかっていないから入ってきてくれ」


 扉越しにカレンの声が聞こえ、部屋の中に入るように促す。


「何かようか?」


「私たち、今から温泉に入りに行くの。だからデーヴィッドも一緒に行くわよ」


「もしかして俺がこっそりと混浴に向かうと思っているのか?だから監視として行動を同じにしたいと」


「そうよ」


「そこは否定してくれよ!」


 冗談のつもりで言ったのだが、彼女は本気で俺が混浴に向かうと思い込んでいるようだ。


 そんな度胸、俺にはない。


「分かったよ。どっちにしろ、そろそろ温泉に行こうと思っていたところだ」


 バッグから着替えとタオルを取り出し、椅子から立つとカレンと共に部屋を出て温泉に向かう。

 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます!


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので楽しみにしていただけたら幸いです。

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