第六章 第一話 誰にも言えないライリーとの秘密の関係
今回のワード解説
ヒッグス粒子……「神の子」とも呼ばれ、宇宙が誕生して間もない頃、他の素粒子に質量を与えたとされる粒子。
相転移……ある系の相が別の相へ変わることを指す。しばしば 相変態とも呼ばれる。熱力学または 統計力学において、相はある特徴を持った系の安定な状態の集合として定義される。
空の旅を終え、俺たちはキャメロット城に帰還するも、すぐに行動に取りかかる。
ジルとレイラは、ランスロットに調査の結果の報告とこれからの方針を伝えに向かい、ライリーはカレンを部屋に運びに行く。
そして俺は、旅に必要な準備を行おうと、自分が使っている部屋に向かう。
出発はカレンの体調がよくなってからだ。
もしかしたら数日はかかるかもしれないが、ムリして目的地に向かったとしても、再びぶり返す可能性もある。
中途半端なところで足止めをくらうよりかは、遥かにマシだろう。
自身が使っている部屋に戻り、俺はリュックから、紙幣と硬貨の入った瓶を取り出す。
これは俺が魔学者だった頃に溜めていた貯金だ。
今では皆で共有する財産になっている。
瓶から紙幣と硬貨を取り出し、残りのお金を数える。
「大分減っているな」
これまでの旅で食料やアイテム、宿屋の料金や情報料など、あらゆるものに出費している。
「そろそろ、お金を稼がないとな」
目的の場所はおそらくラ・シャリテの岬になるだろう。
ワイバーンの力を借りれば一時間もかからない。
だけど、今回は飛行によるルートはむりだ。
もう、ワイバーンに乗りたくないというわけではない。
目的地に向かうには、この大陸で一番の賑わいをみせる王都、オルレアン付近を通らないといけないのだ。
王都には王族を守るための兵士がたくさんおり、警備に敏感なのだ。
近づけば、ワイバーンであっても撃ち落とされて墜落するおそれがある。
皆を危険な目に遭わせたくはない。
なので、陸路で向かうことになる。
だが、王都に到着するころには所持金が減り、懐が寂しくなっているかもしれない。
そのことを考慮すると、通り道であるドンレミの街で資金を調達したほうがいいだろう。
俺の中で今後の方針を考えると、提案をしに玉座の間に向かうことにする。
玉座の間の前に来ると、扉越しにレイラたちの声が聞こえた。
どうやらまだ三人の話し合いは終わってはいないようだ。
扉を開けて中に入る。
俺が入室したことに気づいたようで、三人が一斉に視線を向けてきた。
「デーヴィッド、何か用であるか。すまないが、まだ今後についての会議が終わってはおらぬのだ」
「それはちょうどよかった。俺も参加させてくれないか」
「いいだろう。四人で話せばよい案がでてくるかもしれない。ジルよ、今まで話していたことをデーヴィッドに教えてやってくれ」
「御意! デーヴィッド殿、私たちはセプテム大陸にいる魔王の心内を知るために、ラ・シャリテの岬に向かうべきだと話していました」
やっぱり、俺の予想どおりにラ・シャリテの岬に向かう方針になっている。
「ですが、ルートを陸と空、どちらにするべきかで意見が割れておりまして」
「俺は空から向かうべきだと思っている。空路であれば早く目的地に着く。その分情報収集に時間を割くことができる」
「私は陸路がいいと考えております。空路では岬付近でしか情報を得られません。ですが、陸路にすれば、移動に時間がかかりますが、途中の街々で人々と交流し、情報を得ることが可能です」
「余はどちらでもよいと思っているのだ。デーヴィッドはどちらがよいと考える?」
レイラに話を振られ、部屋で考えていたことを話す。
「俺は陸路で進むべきと思っている。ラ・シャリテの岬に向かうには、空路であっても王都、オルレアン付近の上空を移動することになる。だけどあの場所は兵士が常に警戒している。ワイバーンに乗っていては、途中で撃ち落とされる可能性が高い」
「そんなものは避ければいいだけの話だ。当たらなかったら意味がないだろう」
ランスロットは、俺が陸路側の意見を言っていることに対して、不服に思っているようだ。
説明に反論し、無茶苦茶なことを言う。
「王都の兵士や精霊使いがライトウォールのような拘束魔法を使ってきたらどう対処する? 一瞬で張り巡らされる結界は避けようがないぞ」
「グッ」
俺の言葉にランスロットは一歩後退する。
ライトウォールは俺がレイラと戦った際に、彼女の巨大なファイヤーボールを封じ込めた技だ。
ウィル・オー・ウィスプの力で空気中にある光子を集め、フラウが気温を下げることにより相転移が起きる。
そして空気中にあるヒッグス粒子を光子に纏わりつかせるのだ。
これにより光に質量が生まれ、触れることのできる光の壁を生み出すことができる魔法である。
「それに、ライトウォールの中では酸素が供給されない。閉じ込められれば酸欠で死ぬことになる」
追撃の言葉を浴びせたからか、ランスロットは俺から視線を逸らす。
ここまで論理的に危険であることを伝えれば、彼は反論しないだろう。
俺の意見を押し通すために脅しのつもりで言ったが、今言ったことは半分嘘だ。
王都の兵士や精霊使いがライトウォールを使えるわけがない。
第一に契約している精霊に、ウィル・オー・ウィスプと氷を司る精霊と契約ができる二重契約者以上の人間であること。
基本的に、人が契約できる精霊の数は一人一体。
だが、才能の富んでいる人物は二体、多くて三体の精霊と契約することができる。
俺のように多重契約者と呼ばれる化け物精霊使いもいるが、それは夢物語にしか存在しないことになっているらしい。
第二に知識がないこと。
術者は精霊に指示を出さないといけない。
例えば炎を生み出したいと思えば、火を司る精霊に火を生み出せと指示をだせばいいが、それでは漠然としたものしかできない。
一般的に共有されているもので言えば、ファイヤーアローは、炎で矢の形を生み出すように精霊に指示をする。
するとその声に反応して、精霊が炎を矢の形にして現実に実現させることができる。
ウィル・オー・ウィスプと氷を司る精霊と契約をしていても、ただ光の壁を生み出せと命令したところで、光は目に見えはするが、実態をもたない。
実態がないものをどうやって壁にする? と精霊たちは困惑して発動させることができないのだ。
強力な魔法は威力が高いが、その分事細かく指示を出さないと現実には実現できない。
このふたつから、おそらく俺以外の人間にはライトウォールが使えないと言える。
だが、何事にも例外はある。
仮に、俺のもつ知識の本に書かれている文面を、他の誰かが読んで理解すれば、精霊さえ揃っていれば発動させることは可能だ。
「どうやら話は決まったようだな。移動は陸路だ」
「「御意」」
レイラが決定すると、ランスロットとジルは右手を胸に当て、軽く頭を下げる。
「それでルートだけど、最初はドンレミの街に向かい、そのあとに王都オルレアン、最後にラ・シャリテの岬に進むようにしたい」
「ほう、それはいったいどうしてなのだ?」
俺の要望に疑問でも浮かんだのか、レイラが尋ねた。
「所持金が少なくなっている。これから長旅になることは容易に予想できるが、先のことを考えると蓄えを増やしたい。だからドンレミの街で、情報収集と共にギルドの依頼をこなして、軍資金を増やしたいと思っている」
「なるほど、了解した。ならばそのようにして進むとしよう。それでラ・シャリテの岬に向かうメンバーだが、余とデーヴィッド、それにライリーとカレンの四人。ジルとランスロットには城の警備を頼みたい」
「「御意」」
俺が介入して意見を出したからか、思っていたよりも早く話し合いを終えることができた。
「出発はカレンの体調がよくなってからだ。では解散としよう」
レイラが宣言すると、俺たちは玉座の間から出て行く。
廊下に出ると、俺は今後の方針を伝えにカレンの部屋に向かう。
おそらく彼女の部屋にはライリーもいるだろう。
あれで面倒見がいいところがある。
きっと今も、カレンをベッドに寝かせて側にいるはず。
「おーい、ライリーいるか?」
小さく扉をノックし、小声で部屋の中にいると思われるライリーに声をかける。
カレンが眠っていた場合、俺の声で起こしてしまう可能性があるからだ。
もしかしたら俺の声が小さすぎて聞こえないかもしれない。
そのときはゆっくり扉を開けて中に入るとしよう。
そう考えていると、扉が開かれて前髪を作らない長い黒上の褐色の女性が顔を出した。
「ライリー、カレンの様子はどうだ?」
「今ようやく眠りについたところだ。城に戻ったときよりも大分顔色がよくなっていたから、明日には元気になっているとおもう」
「そうか。よかった」
少しずつ、体調がよくなっていることに俺は安堵する。
「あたいは自分の部屋に戻るよ。デーヴィッドはカレンを見ておくかい?」
「いや、俺が部屋の中にいたら物音で起こしてしまうかもしれない。だから遠慮しておくよ。それより今後の方針が決まった。歩きながら話すよ」
この場所で会話を続けていたら、カレンの眠りを妨げることになり得る。
場所を変えることを告げ、歩きながら先ほどの話をライリーにした。
「なるほど、了解した。なら、動きやすい服装のほうがいいねぇ、部屋に戻ったら準備をしておくよ」
ライリーは何度か俺の顔をチラリと見る。
まるで恥じらう少女のように、顔を朱に染めていた。
「それより、最近はご無沙汰じゃないか。デーヴィッドがあたいの相手をしてくれないから、毎日一人でしているんだ。レイラやカレンの相手をしているのはわかっている。だけど我慢ができない。いまからあたいとしてくれないか?」
思いきった告白に、俺は鼓動が高鳴るのを感じた。
「ダメ……かな?」
返答ができないでいると、ライリーは目尻から小さな雫を零す。
まさか、あのライリーがここまで俺のことを求めているとは思わなかった。
確かに、最近は色々とあって彼女と接する機会があまりなかった。
女性にこれ以上恥をかかせるわけにはいかない。
覚悟を決め、ライリーが俺に求めることをしてあげることにする。
「わかった。だけど、俺だって久しぶりなんだ。下手でも幻滅だけはしないでくれよ」
「わかっている。そのときは一から十まで、あたいが優しくリードしてやるから」
俺たち二人は城の外に移動すると、人気のない場所に向かう。
「ここなら誰もこないだろう。早く始めよう」
「そう焦る必要はないじゃないか?ここにはあたいとデーヴィッドしかいない。時間の許される限り、二人の世界が広がっていく」
確かに時間が許される限りは、この場には二人だけだ。
だけど万が一のことも考えられる。
できれば早くライリーを満足させて、終わらせたい。
そうでなければ、俺の体力がなくなって、終わるころには足腰が立たなくなるだろう。
俺は上着を脱ぐと地面に置く。
「どうせ汗を掻くことになるからな。衣服に汗の臭いが染みついたらレイラに疑われる」
「あたいたちのこの関係のことは、レイラにも、カレンにも内緒だからねぇ。それじゃあ始めようか」
二人で密会して一時間ほどになるだろうか。
俺はライリーに見られながら、何度も抜くことになった。
「違う。もっと早く、抜刀しないと先にやられちゃうよ。デーヴィッドよりも強い剣士はたくさんいるんだからね」
この一時間、俺は剣の鞘から抜刀する練習をひたすらさせられていた。
「よし、少しはマシになった。次はあたいと対人戦だ。好きなだけ打ち込んできな」
「はぁ、はぁ、はぁ……ライリー……少しは……休憩させて……くれないか?」
「こんなのでへばってどうする! 少し間隔が空いただけで、その程度になっちまったなんて言わせないからね。股間についているそれはただの飾りか! 男なら根性をみせな」
やっぱりこうなってしまったか。
レイラとの戦いのあと、俺は戦闘する機会が減った。
平和なことはとてもいいことなのだが、運動不足を痛感し、ライリーに稽古をつけてもらえるようにお願いをしたのだ。
だけど、彼女の稽古は地獄だった。
時間が許される限り、ほとんど休憩なしの訓練をさせられる。
そのため、最近は何かと理由をつけて彼女の稽古を断っていた。
久しぶりだから余計にきつい。
「それなら、あたいに一太刀でも当てることができたら、今日の稽古は終わりにしてやるよ」
「い……いったな。もう撤回はできないからな」
俺は気力を振り絞り、鞘から剣を抜くと地を蹴って刀身を振る。
この日は結局、ライリーに一太刀を浴びせることができずに終わってしまった。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
誤字脱字などがありましたら、教えていただけたら嬉しいです。
明日も投稿予定ですので楽しみにしていただけた幸いです。




