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第四章 第六話 魔王城の秘密

 今回はカレンが中心になっているので、三人称になっています。


 文章的に違和感などがありましたら教えていただけたら嬉しいです。


 今回のワード解説


 読まなくても問題ないかたは、本文のほうまで飛ばしてください。


固有振動数……物体が1秒間に振動する回数のこと。


嗅内皮質……海馬と共に記憶に深く関わる脳領域であり、双子のように類似した構造を持つ2つの領域、内側嗅内皮質と外側嗅内皮質から構成される。 内側嗅内皮質は空間情報を処理する一方、外側嗅内皮質の細胞は匂いや物体の情報処理に関わる。 内側嗅内皮質と外側嗅内皮質のどちらも、神経細胞が規則正しく整列した層構造から形成されており、層ごとに異なる配線を持ち、異なる情報処理を行なっている。


帰巣シグナル……動物が特定の場所へ戻るための信号。


 デーヴィッドが屋敷の中に入っておそらく十分以上経過した。


 ランスロットは約束を守ってくれているようで、こちらが仕掛けない限りは、何かをしようとする素振りは見受けられない。


 だけど油断は禁物だ。


 いくら人の形をしていても信用はできない。


 いつ戦闘に発展しても問題ないように、カレンはアイテムボックスの中身を思い出す。


 ケガに効く薬草に精神力を回復させる霊薬、それに前回活躍した幻惑草だってある。


 最悪の場合は幻惑草を使えば、ランスロットとジルには効果がなくとも、その他の魔物が同士討ちをしてくれるはず。


 一番はこのまま何も起こらず、無事にデーヴィッドが戻ってくるのが理想だ。


 だけど敵の本拠地にいる以上は、平和に終わる訳がない。


 そんなことを考えていると、何かが燃えているような焦げ臭い匂いが鼻腔を刺激し、カレンは匂いの発生源を探す。


 三階部分だと思われる位置に、炎が壁を燃やしているのが見えた。


「何だあれは! どうして城内で小火が起きている!」


 ランスロットが驚きの声を上げた。


「おそらく私が考えた策が失敗に終わったということでしょう。デーヴィッド殿はまるで普通の人間ではないみたいだ。二度も私の策を破るとは。しかも今回のものは魔王様の能力を活かしたもの、それを覆すとはただ者ではない」


「何だと! では、城内で戦闘が行われているということか!」


「おそらく」


 ランスロットの予想に応えるかのように、城の壁を破壊して三角錐の氷柱が飛び出してきた。


「こいつはとんでもないことになっているねぇ、だけど今がチャンスだ。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。スピードスター」


 後方からライリーの声が聞こえたかと思おうと、いきなり視界に青空が入る。


 身体を支えられている感触があることから、おそらくライリーが抱きかかえてきたのだろう。


「このまま城内に侵入するよ。言葉を発すると舌を噛むかもしれないから黙っていな」


 ライリーの声が聞こえると、瞬く間に青空が紫の天井へと変わる。


 視界がとらえていたものが変化したことを彼女は認識した。


 一瞬で何が起きたのか分からない。


 けれど状況から考えて、ライリーが人間離れした速度で城内へと侵入してくれたのだろう。


 階段を駆け上る音以外は聞こえない。


 どうやら魔物たちは、彼女の速度に追いつけないみたいだ。


 この速度ならすぐにデーヴィッドのいる場所に辿り着けるはず。


 そんなことを考えていると、ライリーが急ブレーキをかけたのか、身体に圧がかかる。


「びっくりした。もしかして着いたの?」


「いや、そういう訳ではない。だけど不思議だねぇ、あたいの今の速度は、時速四十キロ以上はある。なのに、どうしてお前たちが先回りすることができているのだい」


 視線を進行方向に向ける。


 するとそこには、撒いたはずのランスロットたちが立っていた。


「別に先回りなどはしていない。お前たちが玄関に戻ってきただけだ」


 彼の後ろにある扉からは外が見える。


 ついさっきまでいた中庭だ。


「どうして? どうして三階に向けて走っていたのに、一階に戻っているのよ」


「あたいは確かに三階に向けて階段を上っていたはずだよ。下った覚えはないのに、どうして一階に戻ってきているんだい?どう考えてもあんたたちの仕業だろう」


「ご明察です戦士殿、あなたたちが城内に侵入したあとに結界を発動させました。城内では人の感覚を狂わされるのです。それにより、あなたたちは上っているはずが、気づかぬうちに下っていたのですよ」


「何だと!」


「脳内にある嗅内皮質には帰巣シグナルが発信されており、人は目的地に到達するには、まず自分の向いている方向と、移動すべき方向を知らないといけない。哺乳類には頭方位細胞と呼ばれる神経細胞があり、この細胞は現在面している方角のシグナルを送り、人が方角を知る手助けをしております。このシグナルの質によって、方向が理解できるのかに差が生まれます」


 ジルの語る言葉は専門過ぎて理解するのが難しい。


 だけどデーヴィッドなら、きっと彼の言葉を理解できたのだろう。


「その顔は私の言っていることが分かっていない様子ですね」


 自分たちが理解できていないのが、表情を見て悟ったのだろう。


 ジルは腕を組むと少し顔を俯かせた。


「うーん、そうですね。例えば、左に曲がるとき、脳にある嗅内皮質はこれを処理して向いている方向を変え、それに応じて目的地の方角を調整する必要がありますが、送り込まれるシグナルの量が少ないと、体の動きに脳が追いつかずに方角の調整を失敗してしまうのです。それにより、進むべき方向を間違ってしまうのです。これでご理解はいただけましたか?」


「ええ、何となくは分かったわ」


 つまりは、城内に貼られている結界のせいで、強制的に嗅内皮質から送られるシグナルを減少させられ、身体と脳にズレが生じてしまった。


 そのせいで方向音痴ではないはずが、信じられないほどの行動を起こしてしまったということになる。


「結界を解かない限りは、魔王の部屋に辿り着けないという訳ね」


「そうだ。だが、お前たちは到達することなどできない。ここで倒されるのだからな」


 ランスロットが剣を抜く。


 結界を解く前に、彼等を倒さなければならない。


 だけどそれは難しい。


 なにせランスロット一人でさえ、動きが見えないほどの速い剣戟を放っていたのだ。


 それにジルという戦力が図れない敵もいる。


 むだに戦うのは避けるべき。


「彼等と戦えば敗戦になることは間違いないわ。ここは撤退をするべきよ」


「だな、ランスロット一人なら、もしかしたらギリギリなんとかなるかもしれない。だけどジルや他の魔物もいる。デーヴィッドがいない以上は無謀な行動をしないほうがいいねぇ」


 後方から攻撃される覚悟のうえで、ライリーはカレンを抱きかかえたまま階段を駆け上がり、上の階に避難を試みる。


「追え、逃がすな!」


「それは止めたほうがいいかと」


「なぜだ? ジル軍師」


「いや、それがこの結界、我々人型の魔物にも適応されてしまうのですよ。同じ脳の作りなので。ですので、追いかければ我々も方向感覚が狂わされることに……」


「それでは我々が魔王様のところに辿り着くこともできないではないか!」


 一階からジルとランスロットのやり取りが聞こえた。


 一人の戦闘力は高くともアホなのではないのかと思ってしまう。


 自分たちにも効果の出る結界を張っては、本末転倒もいいところだ。


 だけど彼等の言葉どおりだとしたら、人型以外の魔物は普通に追ってくる。


 早くデーヴィッドと合流しなければ。


 思考していると、さっそく魔物が現れた。


 二足歩行で歩く猪であるオークや、怪物の石像が魔王の魔力によって意思をもち、動き出したと伝えられるガーゴイルだ。


 こいつらは脳の構造の違いや、脳事態がない無機物だ。


 そのため正確に追って来られる。


 今のところはこの二種であるが、また別種の魔物が現れる可能性がある。


 早々に倒さなければ。


「私がガーゴイルを倒すわ。ライリーはオークをお願い」


「毎度のことだが、どうしてオークが現れたときはだいたいあたいが担当になるんだい?これは何かの呪いなのかねぇ」


 ライリーの言葉にカレンは首を傾げる。


 彼女の言っている言葉の意味が分からない。


 自分はただハルモニウムによる音波攻撃は、ガーゴイルに相性がいいからお願いしているだけ。


 一緒に行動を共にしているとき以外の彼女の戦闘を知らないが、どうやらオークとの経験が豊富みたい。


「お願い。戦いながら私も突破する方法を考えるからどうにか時間を稼いでほしいの」


「分かったよ。ここはあんたに賭けようじゃないか」


 ライリーは抱きかかえていたカレンを下ろす。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。エンハンスドボディー」


(まじな)いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ゼイレゾナンス・バイブレーション」


 ガーゴイルの固有振動数と同じ周波数を浴びせると、敵の身体にヒビが入る。


 そしてしばらくすると割れて砕けた。


 予想どおり、スカルナイトと同じだ。


 この攻撃は物質には効果があるけれど、肉体を持つ生物には効果を発揮しない。


 自分のもつ精霊による攻撃は、発動条件などを考えると、ハルモニウムを使った攻撃に限定される。


 そうなると、オークには手も足も出ない。


 彼女には悪いが、全てのオークの相手をしてもらうしかない。


 ガーゴイルの肉体を破壊しつつ、カレンは増援が来る前にデーヴィッドのもとに辿り着く方法を考えた。


 すると、どこから音が聞こえてくる。


「音……そうよ! 音よ!敵の結界は視覚を利用したもの。聴覚には影響を及ぼさない。シグナルの量が激減しても、音を頼りに進めば目的地に辿り着けるはず」


 確信はもてないが、おそらく聞こえてくるものはデーヴィッドの戦闘音。


 この音を頼りに進めば彼と出会えるはず。


 もし、違ったとしても何かの手がかりにつながるはずだ。


「ライリー、敵の増援が来る前にこいつらを倒すわよ。そのあとは私について来て」


「了解! なら、さっさとこいつらを倒すとしようか」


 カレンは音を使い、ライリーは己の肉体と剣で敵を倒していく。


「これで最後!」


「こいつで最後だ!」


 二人がそれぞれの担当する最後の敵を倒すと、お互い無言で頷く。


 そしてカレンは聴覚を頼りにデーヴィッドのもとに向かった。

 最後まで読んで頂きありがとうございます!


 誤字脱字などがありましたら、教えていただけたら嬉しいです。


 また明日投稿予定です!

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