第四章 第二話 魔王との再会
今回のワード解説
クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。
ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。
翌朝、俺たちはチェックアウトを済ませ、宿屋を出るとロードレスの門を潜って、魔王のいる霊長山に向けて歩く。
一週間が過ぎたころ、俺たちはようやく目的地である霊長山に辿り着いた。
森の入り口は薄暗く、足元はゴツゴツとした石や枝などが転がっており、足場はあまりよくない。
「足場が悪いわね」
「こんなところで魔物に襲われでもしたら、戦闘は難しくなるな」
「大丈夫なんじゃないのかい? あれから魔物共の襲撃はなかったし、ランスロットのやつも姿を見せることもなかったじゃないか」
そう、不思議とカムラン平原での戦いのあと、魔物が俺たちを襲撃することはなかった。
魔物の気配は感じるも、姿を現すことはなかったのだ。
まるで監視されているかのような感じで、少々気持ち悪さを感じる。
「だけど油断はしないほうがいい。早かれ遅かれ、魔王城に辿り着いたら、今まで以上の魔物を相手にするんだ。俺たちを待ち構えるために集められているから、遭遇しない可能性だって十分ある」
二人に油断しないように声をかけながら歩みを進める。
一時間ほど歩いただろうか。
山道に沿って歩いていると次第に建物が見えた。
遠くからでは貴族が住みそうな建物だなという印象であったが、距離が近づく度に認識を改めさせられる。
豪邸なんかの言葉では生温い。
山奥に城が聳え立っていた。
門には門番の姿は見当たらない。
「凄い。森の中にお城があるなんて」
「廃墟になった城に魔物共が住み着いたのだろうねぇ、魔物のくせにいいところに住んでいるじゃないか」
カレンとライリーが口々に城の感想を洩らす中、俺は城門を開こうと扉に手を重ねる。
扉を押そうとした瞬間、力を入れていないのに扉が開いた。
「招待されているのは本当みたいだな」
城門を潜り、中庭と思われる場所に足を踏み入れる。
「全員配置に着け!」
どこからか声が聞こえたかと思うと、カムラン平原での戦いを思い出させるほどの魔物がこの場に出現し、俺たちと対峙する。
「早速お出ましか。ライリー、カレン戦闘準備を」
魔物に警戒をしつつ、いつでも詠唱を唱えられるように構えを取る。
しかし、敵は襲いかかることはせずに左右に分かれると道を作った。
「これはいったいどういうことなんだい?」
ライリーが言葉を洩らす。
彼女の疑問は最も、なぜ魔物たちがこのような行動を取ったのか理解に苦しむ。
「油断するなよ。何が起きるのか分からない」
しばらく様子を窺っていたが、魔物が行動に出る気配を見せない。
このままこの場に留まっていても何も変化しないのであれば、先に進むしかないのだろう。
流石に訪れて早々に引き返す訳にもいかない。
「先に進もう。先頭は俺がする。ライリーは殿を頼んだ」
「了解、背後から攻撃されないように後方には気をつけておくよ」
魔物たちによる道を真っ直ぐに進んで行くと、扉の前に人型の魔物が門番のように立っていた。
一人は白銀の鎧に身を包んでいるランスロット、もう一人は初めて見るが、ローブを身に纏っている猫背の男だ。
大きく見開かれたギョロ目が、不気味さを感じさせる。
「よく来てくれたな。デーヴィッド」
ランスロットが声を上げた瞬間、後方から抜刀音が聞こえた。
ライリーが剣を抜いて構えたのだろう。
「女剣士よ。そんな怖い顔をするな。別に今から殺し合いをしようとは思っていない」
「そうですよ。私共はただデーヴィッド殿を出向えただけなのですから」
ギョロ目の男がこちらに近づいてくると、彼は笑みを向けながら俺の手を握る。
男の手は冷たく、まるで死人に手を握られているかのようだった。
それに加え、彼は友好的な笑みを向けているのだろうが、頬の筋肉が強張っているようで、引き攣ったような笑みになっている。
大きく見開かれた目と合わさって、ホラー感を醸し出していた。
正直、生理的にむりな相手だ。
「あなたがデーヴィッド殿ですね。ランスロット卿から話は聞いております。カムラン平原での戦いは見事なものでした。まさか私の策が覆されるとは、その知略に敬服いたします。どうです?今夜にでも私と軍略について語り合いませんか?」
「ジル軍師、彼の相手は魔王様だ。さっさとその手を放せ」
「おお、そうでした。ついお会いしたことがうれしくて取り乱してしまいました」
「デーヴィッド、魔王様は城内の玉座の間におられる。謁見を赦されているのは貴殿だけだ。連れの二人はこの場に留まってもらう」
「あたいたちは魔王を倒しに来たんだ。あんたの言うことを聞く義理なんてないね」
「そうか、ならば」
ライリーの態度を目の当たりにして、ランスロットは指をパチンと鳴らす。
その刹那、背後で道を作っていた魔物たちが別の隊列を作り、背後の道を塞ぐ。
「我々の任務は、デーヴィッドを魔王様のもとに連れていくこと、それを邪魔する者の排除のふたつだ」
「申し遅れました。私はストラテジスト級のジルと申します。主に魔王様に代わってランスロット卿と共に同胞たちを纏めている者であります」
ジルと名乗った男の自己紹介を聞いた刹那、俺は苦い顔をする。
ストラテジストは、人族で言うと軍師などの位置にあたる階級だ。
ランスロットのジェネラル級と同等で、ほとんど存在しない。
それに彼はカムラン平原での戦いの戦略を考えたと言っていた。
沢山の仲間を使い、数で押すというのは魔物らしい戦略であるが、スカルナイトとネクロマンサーの組み合わせや、人間が精霊の力を借りたうえで現象を生み出すことを踏まえ、精神を安定させないためのレッサーデーモンなどの対策を取っていた。
こいつはストラテジスト級の中でも上位に君臨するだろう。
しかも、あの策を考えた張本人がこの場にいる。
もし、戦闘になればやつの優れた知能で苦しめられることになるだろう。
「分かった。一人で魔王のいる玉座の間に向かおう」
「デーヴィッド! 本気かい?」
「流石はデーヴィッドだ。正しい判断をしている」
「だが条件がある。二人の身の安全を保障してくれ。そうでなければこの場にいる魔物を全滅させたうえで、魔王も倒す」
「いいだろう。我々の目的はデーヴィッドを魔王様に会わせること、中に入ってくれるのならばその条件をのもう」
ランスロットとジルが左右に分かれて道を開ける。
「デーヴィッド!」
カレンが不安そうな顔でこちらを見る。
「大丈夫だ。すぐに終わらせて戻ってくる」
二人をこの場に残し、俺は城内に入った。
魔王の城ということもあって中は薄暗い。
照明は点いていないが、魔力で生み出したであろうと思われる青白い炎が燭台に灯っており、壁沿いにいくつも置かれていた。
玉座の間の場所は分からない。
ここは闇雲に探すしかないだろう。
魔王の待ち構えている場所を見つけに歩みを進める。
廊下を歩き、階段を上る。
その間にいくつも扉を見つけるが、中を開けて調べようとする気が起きずに、ただ歩くだけだ。
まるで魔王に導かれているような感じになり、俺は若干の気持ち悪さを覚える。
身体の赴くまま歩き続けると、三階の廊下で大きな扉を見つけ、そこで足が止まった。
ここに魔王がいるのだろうか。
自身の鼓動が聞こえる中、ゆっくりと扉を開ける。
少しだけ扉を開け、中の様子を窺う。
床にレッドカーペットが敷かれ、その先には長い背凭れの椅子があるのが見えた。
部屋の雰囲気からして玉座の間で間違いないだろう。
しかし、肝心の魔王らしき魔物の姿が見当たらない。
どこかに隠れているのだろうか。
魔王とは堂々と待ち構えているものだと思っていたが、そうでない者もいるようだ。
扉を完全に開け、ゆっくりと歩いて先に進む。
いつ襲撃されるのかが分からない以上、周囲に気を配らないといけない。
緊張で鼓動が激しくなる中、玉座の前に立つ。
「よく来たなデーヴィッド、またそなたに会えて余はうれしいぞ」
どこからか魔王と思われる声が聞こえた。
「またとは何だ?俺は魔王と会ったことなどない」
魔王の口ぶりからして、相手は俺のことを知っているようだ。
だけど、こちらは声の主を知らない。
「そうか、そなたとは一度だけしか顔を見せてはいなかったな。よかろう。では余の姿を眼に焼きつけるがよい」
今度はどこから聞こえたのかが判別できた。上だ!
顔を上げると、玉座の隣にある階段にあの声の人物がいた。
クラシカルストレートと呼ばれる長い赤髪に、一重瞼の切れ目の双眸は青く、胸元の見える漆黒のドレスからはセクシーさを醸し出している女性が立っていた。
あの姿は見覚えがある。
故郷の村が襲われた際に、ランスロットの横にいた女だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字や文章的に可笑しな部分などがありましたら、是非教えていただけると嬉しいです。
また明日投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。




