表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/243

第四章 第一話 ライリーの新たな武器

 今回のワード解説


選択毒性……特定の生物だけに著しく作用する毒性のこと。

「カレン、ライリー話がある」


「何だい、朝から真剣な顔をして」


 カムラン平原での戦いから一夜明けた朝、俺はベッドの中で考えていたことを話すことにした。


「私は嫌だからね」


「まだ何も言っていないだろう」


 話を始めようと口を開いた瞬間、俺が何を言おうしているのかある程度予測していたのだろう。


 カレンは反対の意思を伝えてきた。


「どうせ、自分一人で霊長山に行くから、私たちはここに残れと言うのでしょう。残念だけどデーヴィッドの指示にしたがう気はないから。私は自分の意志でかってに行動させてもらうわ」


 やはりある程度は読まれていたようだ。


 全部ではないがほとんどが正解だ。


「分かった。一度だけ同行を拒んだうえで、猶予を与えて考えてもらうつもりでいたけど、カレンがそこまで一緒にいたいなら、俺はその意思を尊重するよ」


「はぁー? な、何言っているの! そんなんじゃないから! またスカルナイトみたいな骸骨系の魔物が現れたら、私とハルモニウムの力が必要になるだろうから、仕方なくついて行くだけだし」


 カレンが若干顔を赤くしながら、全力で同行理由を述べる。


 俺の話を聞く前に、かってに発言した罰としてからかったのだが、予想以上にいい反応をしてくれた。


「はいはい、分かったから少し落ちついてくれ。それで、ライリーはどうする? 一応時間はやるけど」


「弟を一人で危険な場所に向かわせる姉がどこにいるって言うんだい? もちろんあたいもついて行くに決まっているだろう。魔王退治なんか腕がなるってもんだ」


「いや、姉じゃないし、俺も弟ではないからな」


 いつものツッコミを入れつつ、二人がついて来てくれることに俺は安堵する。


「とにかく、向かう場所は魔王の居城がある霊長山だ。今まで以上の強敵となる魔物が大勢いるだろうし、準備はしっかりとしなければな」


「そうね、昨日の戦いで幻惑草は全部使ってしまったから、また採取しないといけないわね」


「あたいも武器が欲しいね。昨日の戦いで切れ味が悪くなったから、研磨するか新しい武器の調達がしたい」


 それぞれ必要なものが違う限り、ここはバラバラに動いたほうがいいだろう。


「よし、カレンは森に行って幻惑草をもう一度採取して来てくれ。アレはかなり役立つものだと昨日の戦いで改めて知った。ライリーは金を渡すから鍛冶屋と武器屋を見て、よさそうなほうで頼んでくれ。俺はもう少しアイテムの買い溜めをしてくる」


「了解」


「分かったわ」


 リュックの中に入っている瓶から、紙幣を数枚ライリーに渡す。


「足りなかったときは一度宿屋に戻って待っていてくれ。戻ったときに追加で渡す」


「まぁ、これだけあれば十分だと思うけどね。分かったよ、そのときは一度戻ってあんたの帰りを待つことにするよ」


「それじゃあ私は先に出るね。群生地の場所は分かっているから、そんなに時間はかからないだろうけど、早く出ることに越したことはないから」


「頼んだ」


 バスケット型のアイテムボックスを持つと、カレンは部屋から出て行く。


「それじゃあ、あたいも出るよ。いい得物を見つけてあんたの戦いを楽にさせてやるからね」


「気に入るのがあるといいな」


 ライリーの言葉を聞く限り、彼女は武器屋で新しい得物を購入するようだ。


 彼女の後姿を見送り、これからのことを考える。


 魔王城での戦いとなると、ハードなものになることが始めから目に見えている。


 アイテムの消費量は相当なものになると思っていたほうがいいだろう。


 それに三人が固まって戦えるような戦況ばかりではないはずだ。


 昨日のように距離が離れた状態での戦闘に発展する可能性も十分考えられる。


 基本的にはカレンのもつアイテムボックスにアイテムを入れ、俺のリュックにも分断されたときように、いくつかのアイテムを入れておいたほうがいいかもしれない。


 残りの金額と必要な物の金額や個数を考えながら、俺は部屋を出ると宿屋の出入口から外に出て買い出しに向かう。


 街中を歩いていると、町民の話声が耳に入った。


「おい、聞いたか。カムラン平原で大量の魔物の死体が発見されたらしいってよ」


「それは本当か! なら誰かが倒してくれたのだろう」


「死体には魔法の痕跡や切り傷があったらしいが、数が数だ。それに死体の中にはワイバーンも含まれている。そいつらを相手にできるのは、この町の兵士全員が向かわないとむりだが、そんな大ごとは街中では起きていない」


「確かにそうだな。兵士たちが街の外に向かったのなら、噂が耳に入らないのは可笑しい。なら、いったい誰の仕業なんだろうな」


 どうやら昨日の魔物たちが発見されたようだ。


「それで、ワイバーンのほうはどうなった? 確かあいつの尻尾には毒があって、武器の加工に使われているらしいじゃないか」


「ワイバーンの死体なら、今朝鍛冶屋に運ばれたぜ。今ごろ武器に加工されているかもな」


 ワイバーンから作られた毒性の武器か。


 鍛冶屋に行けばどんなものなのか見せてもらえるかもしれない。


 もしかしたらライリーも噂を聞いて、鍛冶屋に向かっている可能性もある。


 あとで寄ってみるのもいいかもな。


 町民から遠ざかり、目的の店に向けて歩いていく。


 昨日訪れた店に入ると、同じ物を購入。


 二日連続で買い物に来た俺に、店主は驚いたような様子だったが、客であることには変わらないからなのだろう。


 店主は何も聞かずに代金を受け取り、商品を手渡してくれた。


 必要な物を購入して店を出ると、俺は鍛冶屋に向かう。


 鍛冶屋の前にくると、建物の中から鉄を打つ甲高い音が聞こえてきた。


 どうやら今は作業中のようだ。


 空調を効かせるためか、扉は開けられていた。


 外から中の様子を窺う。


 体格のいい男が、真剣な表情で真赤になった鉄をハンマーで叩いている姿が見えた。


 鍛冶屋の仕事なんて見たことがない。


 もしかしたらいい体験になるだろう。


 俺はそっと室内に入った。


 その瞬間予想以上の熱気が襲い、思わず外に逃げ出しそうになる。


 外に一番近いこの場所でもこの暑さだ。


 中央にいる彼はもっとしんどいはず。


 熱の籠る室内にいるからか、あまり時間が経っていないのに額から汗が流れ出てくる。


「デーヴィッド、あんたも来たのかい?」


 俺の名を呼ぶ声が聞こえ、声のするほうに顔を向ける。


 前髪を作らない長い黒髪の女性が、壁に背中を預けながらこちらを見ていた。


「やっぱり、ライリーも来ていたか」


「ああ、ワイバーンの尾から作られる武器ってやつが気になってね。完成するのを待っているところさ」


 ライリーの隣に並ぶ。


 彼女は相当前からこの鍛冶屋を訪れていたようで、身体中から大量の汗が流れていた。


 彼女の身に着けている服が汗を吸い上げ、肌に張りついているようだ。


 汗を吸い上げた衣服は透け、赤色のブラが視界に入る。


 透けブラという少しエロイ状態のライリーが気になるも、なるべく視線を向けないように自身に言い聞かせた。


 たくさんの汗を掻いているにも関わらず、ライリーからは汗臭さを感じない。


 元々汗は無色無臭で九十九パーセントは水分、それ以外は塩分がほとんどだ。


 その他にも老廃物が含まれているのだが、皮膚表面に出るまでの道のりで、ミネラルなどの成分が吸収されることによって、余計な成分を含まない水分が汗として出てくる。


 身体のろ過機能が働いているからこそ、ライリーからは汗臭い匂いがしないのだろう。


 逆にろ過機能が衰えている身体からは、再吸収されないので、老廃物が含まれる汗がそのまま皮膚の表面から出てしまう。


 その結果、すぐに蒸発することができずに皮膚に残り続け、これがアカや皮脂などと混ざったことで細菌が分解し、不快感を与える匂いを発生させるのだ。


 鍛冶職人の集中力を切らさないためだろう。


 ライリーは必要最低限以外の会話をしようとはしなかった。


 どれぐらい時間が経ったのだろうか。


 部屋の熱量に負け、意識が朦朧としかけていたので、一度外に出ようとしたときだった。


 鍛冶職人の男は握っていたハンマーを床に置き、額の汗を拭いだした。


「オッサン、完成したのかい?」


「嬢ちゃんまだいたのか。てっきり帰ったと思っていたよ」


「でき具合のほうはどうなのさ。納得のいく作品にできあがったのなら、譲ってくれるのを検討するって話だっただろう!」


 勢いよく捲し立てるライリーに、鍛冶職人の男はたじろぐ。


「まぁ、いいだろう。満点ではないが、まずまずのできだ。人に使ってもらっても恥にはならない作品に仕上がっている」


「オッサン、この武器に使われているワイバーンの毒は何だ?」


「何だお主は? いつからこの工房にいた」


 どうやら鍛冶職人の男は仕事に集中し過ぎて、俺が工房に入ってきたことに気づいてはいなかったようだ。


「ああ、こいつはあたいの連れさ。ワイバーンの武器を聞きつけてやってきた」


 ライリーが紹介すると、鍛冶職人の男は驚いた表情を元に戻す。


「毒? 毒とは何のことだ?」


「剣の効力だよ。ワイバーンの尻尾から作られた剣なら、毒の属性が付与されているはずだろう。毒には選択毒性っていうのがあって、毒の種類によって効果がある相手が限定されるんだ」


「難しいことはよく分からないが、この剣にそのような効果はない。ワイバーンの尾から生成される毒は抜いてある。ワシの作る作品は人を魔物から守る武具、解毒剤が不明な効力のある危険なものは、ワシは作らないのでな」


 男の話を聞き、少々残念な気持ちになるも、彼の説明は理に適っているので納得するしかない。


「だが、ワシの腕と誇りにかけて、そこら辺の武器屋で売っているような代物を遥かに超える作品であることは保証しよう」


 鍛冶職人の男がライリーに完成した剣を手渡す。


 刀身は透きとおりそうなほど細く、鍔には竜の顔の装飾が施されている。


 ライリーは俺たちから離れると何度か素振りを始めた。


「軽いな。だけど手に馴染んでしっくりくる。気に入った」


「そうかい、なら気合を入れて打った甲斐があったってものだ」


「代金はいくらだ?」


 ライリーが金額を訪ねると、鍛冶職人の男はしばらく考えたあとに金額を伝えた。


 剣の代金は予想よりも高かった。


「おいおい、いくらなんでもそれはぼったくりじゃないか?」


「ワシの剣は量産をしない。ひとつひとつがこの世にふたつとないものばかりだ。持っているだけで希少価値がある。いやなら剣を返してくれ、本当に必要な人にだけワシの作品を譲るのだ」


「分かった。その金額で手を打とう」


「デーヴィッド本当にいいのかい?」


「俺は剣を使わないからよく分からないが、ライリーはその剣を気に入ったのだろう?それならそいつを使うべきだ」


 言われた金額分を男に支払い、購入を済ませる。


「お主、話がわかるじゃないか。気に入った。剣の手入れが必要なときはまた来い。安くしとくから」


「その時は頼む」


 鍛冶職人の男に会釈をして俺たちは工房を出た。


「デーヴィッド、ありがとうな。こんな高い物を買ってもらって」


「ライリーにはこれから魔王城で活躍してもらうことになる。そのために投資をした。ただそれだけだ」


「なら、つぎ込んでもらった分の働きをしないとねぇ。あたいの活躍をしっかりと見せてやるよ」


 ライリーと俺は宿屋に帰った。


 部屋に戻るとカレンの姿は見当たらない。


 どうやらまだ森から帰って来てはいないようだ。


「カレンはまだ帰って来ていないようだねぇ」


「もう少ししたら戻ってくるだろう」


 荷物をテーブルの上に置き、椅子に座ってカレンの帰りを待つ。


 カレンの帰りを待ってから数時間が経った。


 空はオレンジ色に染まりつつあり、街の外灯に明かりが点きつつある。


「遅い、いくら何でもこの時間帯に戻ってこないのは可笑しい」


 最初は気長に待っていたが、時間が過ぎて行くにつれ、心に余裕がなくなり、不安ばかりが募り出す。


 確かに一人で山に向かって採取をするのだから、ある程度遅くなるのは仕方がない。


 だけどこれだけ待っても戻って来ないのは変だ。


 カレンの身に何かあったのだろうか?


 もしかしたら大きなケガをして身動きが取れない事態に陥っているのかもしれない。


 そもそも、カレンは二重契約者(デュアル)だが、契約している精霊は下位の精霊である風の精霊イズナ、音の精霊ハルモニウムだ。


 どちらとも火力としては心もとない。


 もし、魔物や盗族などに遭遇でもしたのなら、命の危険に晒されるおそれがある。


 万が一の場合を考えてしまった俺は、居ても立っても居られず、椅子から立ち上がる。


「ただいま」


 すぐに探しに行こうと思ったやさき、部屋の扉が開いて金髪ミディアムヘアーの女の子が入ってきた。


 彼女の服は汚れ、腕や足には擦り傷が見られた。


「カレン、その傷はどうした!」


「ちょっとドジってしまって。ただの擦り傷だから心配しないで。でもちゃんと幻惑草はもって帰ったから」


 カレンがアイテムボックスから採取してきたものをテーブルの上に置く。


 彼女が森からもって帰ったものは幻惑草だけではなく、傷に効く薬草や、調合次第では火傷の薬になる火炎茸と呼ばれるきのこなど、様々なものが並べられていた。


「とにかく先に傷の手当をしたほうがいいねぇ、カレンこっちにきな。あたいが手当してやるよ」


「うん、ありがとう」


 ライリーに連れられ、カレンは部屋の奥へと向かって行く。


 これだけの量や種類を集めていたとは思わなかった。


 ここまで集めるとなると相当時間が必要だ。


 だからこんなに遅くなるまで戻って来なかったのだろう。


 きっと彼女なりに色々と考えて魔王戦に向けて準備をしてくれたのだ。


 これだけの種類があれば様々な状況にも対応ができるはず。


「ありがとう。カレン」


「別にお礼を言われることじゃないわよ。私ができることをやっただけだから」


 お礼を言い、俺はテーブルに並べられた素材をいくつか手に持つ。


 そしてアイテムボックスから、容器とすり鉢棒を取り出した。


「何か始めるのかい?」


 カレンの手当が終わったのだろう。


 ライリーが話しかけてきた。


「回復効果のある塗り薬だ。市販のものよりクセがあるが、効力は期待できる」


「どのぐらいかかるのかい?」


「分からない。だけどなるべく早く終わらせる。ライリーとカレンは先に休んでくれて構わないから」


「夕食はどうするの?」


「二人は食堂で食べてくれて構わない。俺もきりのいいところで切り上げるから」


「分かったわ。ライリー行きましょう」


 カレンとライリーが部屋から出て行く。


 一人部屋に残った俺は、もくもくと作業を進めた。


 薬作りは未経験だ。


 しかし知識の本(ノウレッジブックス)には薬剤の知識も書かれている。


 それを見ながら作業を進めれば完成するはずだ。


 アイテム作りを始めてどのぐらい時間が経ったのか分からないが、食堂に行っていた二人が帰ってきた。


「いつまで待っても来ないから上がって来たけど、まだ作っていたの!」


 驚きの入り混じった声音で言葉をかけるカレンに対して、俺は首を傾げる。


「そんなに経っていたのか?」


「だいたい二時間ぐらいは経っているだろうねぇ」


「そんなに!」


 予想以上に熱中し過ぎて、かなりの時間が経過したことに気づかなかった。


 二人に話しかけられたことで集中力が切れてしまったようだ。


 お腹が空腹を知らせる音色を奏で、俺は苦笑いを浮かべる。


「早いところ食堂で夕飯を食べてきたらどう?お腹が空いていたら作業効率も落ちるかもしれないわよ」


「そうだな。それじゃあ夕食を食べてくるよ」


 残りは夕飯を食べてからでも大丈夫だろう。


 テーブルの上を片づけることなく立ち上がり、そのまま食堂に向かう。


 食堂で夕食を食べ、食後は部屋に戻って作業を再開。


 深夜になるころには全てのアイテムを完成させ、ベッドに横になると眠りについた。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


 誤字脱字や文章的に可笑しな部分などがありましたら、教えていただけると嬉しいです。


 また明日投稿予定ですので、楽しみにしていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ